阪神・淡路大震災の発生から1月17日で27年です。地震発生のわずか2か月後、神戸市はJR新長田駅南側の再開発計画を決めました。下町情緒あふれた街はビルが立ち並ぶ街に変わりました。しかし、なかなか街に活気は戻らず、住民からは住みにくくなったという声も出ています。復興の名のもとに行われた再開発について取材しました。

阪神・淡路大震災から再起したスーパーが閉店

去年の大晦日、神戸市内にある1軒の食品スーパーが閉店しました。神戸市長田区にある「ダイエーグルメシティ新長田店」です。
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(ダイエーグルメシティ新長田店の閉店時の店頭挨拶 2021年12月31日)
「約18年間、西神戸店から合わせたら60年間お世話になりました。ここまで来られたのも、皆さま、お客さまのおかげでございます。本当にありがとうございました」
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半世紀前の1961年に開業した前身のダイエー西神戸店は、阪神・淡路大震災で倒壊しました。
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しかし、震災からわずか5か月後の1995年6月、仮設の商店街で再起して被災者の生活を支えました。その後、新しくできたビルに移転しましたが、売り上げは低迷。この街からの撤退が決まりました。
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(利用者)
「やっぱり寂しいです。ずっとここで育ってきて。もう、初めからのダイエー(西神戸店)があった頃から知っていますから」
「もうこの場所でどこがやってもスーパーとしては絶対成り立たないと思う。やっぱり震災の後、人の流れが変わっちゃったでしょ」

地元に愛されたスーパーの閉店。この街を包む閉塞感を象徴しているかのようでした。

震災のわずか2か月後にまとめられた新長田地区の「都市計画」

27年前の1995年1月17日、JR新長田駅の南側で火の手が上がりました。
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神戸市長田区は1万5000棟以上の建物が全壊し、5000棟近くが火災で全焼するなど、神戸市内でも特に大きな被害が出た地域でした。神戸市は混乱の中、震災のわずか2か月後に、新長田駅の南側20ヘクタールの復興に向けた都市計画をまとめました。
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現在は巨大なビルが立ち並ぶ駅前の再開発エリア。再開発事業は来年には完了する見込みで見た目には復興を遂げたかのように思えます。

新長田地区の再開発事業を市が検証『326億円の赤字見込み』

しかし、神戸市は2020年12月、新長田地区の再開発事業の検証結果をまとめ、『300億円以上の赤字』という衝撃的な数字を明らかにしました。

(神戸市 久元喜造市長 2020年12月)
「この事業の完了時点で326億円の収支差(赤字)が発生する見込みになっています」
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計42棟ものビルが建設されましたが、震災前の地権者のうち戻ってきたのは半分ほどにとどまっていて、神戸市が保有する区画の約58%が未だに売れ残っています。しかし、市の検証結果では、「生活再建という目的は概ね達成された」と結論づけられています。

市の検証結果を再検証「新長田の再開発事業は復興災害」

こうした市の検証結果を市民目線で再検証する動きが進んでいます。兵庫県震災復興研究センタ-の出口俊一さん(73)。再検証を行う研究会の中心メンバーです。

(兵庫県震災復興研究センタ- 出口俊一さん)
「こういう事態に立ち至ったことについて、(神戸市は)一片の反省もないんですね。復興のプロセスの中で起きた方針の誤りや政策の誤りで起きた災害ということで『復興災害』。新長田の再開発事業も、その『復興災害』の最たるものだと考えています」
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再検証は大学の専門家や建築家らが約1年間にわたり調査や議論を重ねて行われてきました。
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(京都府立大学 広原盛明名誉教授(元学長))
「みんなが入って、テナントがどんどん先を争って入って、繁盛したら何も問題ないという、そういう意識がものすごく強かったと思う」
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(1級建築士 竹山清明さん)
「民間が経営するつもりでやったらもっと違う計画を作っていたはず」

再検証の中でまず指摘されたのは震災のわずか2か月後に決定された都市計画についてでした。

震災の6年前、1989年に神戸市が発行した冊子があります。
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主要なプロジェクトとして新長田の駅前に今と同じような高層ビルが整備されるイメージとなっています。
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下町情緒あふれる街だった新長田地区を再整備する計画がそもそもあって、復興の名のもとにそれが強行されたのではないかと研究会は指摘します。

(兵庫県震災復興研究センタ- 出口俊一さん)
「『惨事便乗型』、大変な惨事が起きた時に便乗して、従来計画していたがなかなか普段ではできないことをやってしまったのではないか」
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去年の大晦日に閉店したスーパーも入っていた再開発ビル。それぞれのビルは地下道やデッキで結ばれ、一見便利そうには見えますが、人通りはまばら。シャッターだけが目立っています。
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(兵庫県震災復興研究センタ- 出口俊一さん)
「いま立っている場所は2階で、1階、地下となっていて、少しモダンなようで、3層にしたことで非常に費用が生じる。エレベーターやエスカレーターなどは、商業権利者の人が払っている管理費で賄っているわけです。(Qお金のかかる街になった?)そうです。非常にコストのかかる街になってしまったと思います」

再開発ビルの重たい管理コスト

再開発ビルは、震災で焼き尽くされた大正筋商店街をはさむ形で建てられています。
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震災前の商店街は大勢の人が行き交い活気にあふれていましたが、いまは人の流れが減ったばかりか、ビルと一体になったことで震災前にはなかった共用部の管理コストが入居者に重くのしかかっているといいます。
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震災前から大正筋商店街で飲食店「七福」を営んでいた横川昌和さん(59)。店は震災で全焼しました。
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それでも新長田で商売を続けたいと再開発ビルに入居しましたが、管理費などの支払いは月に4万円近くに及ぶといいます。不動産価値は下がる一方で、ビルがコンクリート製のため固定資産税は上がり震災前の2.5倍以上に膨れ上がりました。
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(「七福」店主 横川昌和さん)
「再開発が街をなくしてしまったと思います。この辺りの人は庶民、下町ですから、お客さんに対してお金をもうけようという街じゃないんですよね。『あ、これは神戸市にはめられたな、だまされたな』とすぐわかりましたよ。1階だけで平面だけで事を成していた街ですから。要らんものをこしらえたから要らんお金がかかっただけですわ、根本的に」

神戸市担当者の見解

本当に復興したと言えるのか。巨大事業が逆に負の遺産を生んだと指摘する声を、神戸市はどのように受け止めているのでしょうか。

(神戸市都市局 吉田亮浩部長)
「(Q災害に便乗して『再開発の千載一遇のチャンスだ』とばかりにスピーディーに決定して、徹底的にこうした再開発が行われたという指摘がありますが?)予めパース(完成予想図)があったとか図面があったとかっていう言い方をされる方がおられますけれども本当になかったです。無秩序に街が再建されていくということに対しては、何かしらやっぱり計画性を持って復興しないといけないんじゃないかという、たぶんそんな意識があったと思います。今後は新たな検証をするということではなく、再開発事業でできたストック(資産)をいかに活用していくのかということが、今後の課題なのかなと思っております」
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震災27年、『つなぐ思い』。出口さんらの1年に及ぶ再検証は1冊の本にまとまり、2月から書店に並ぶ予定になっています。

(兵庫県震災復興研究センタ- 出口俊一さん)
「きちっと教訓にして同じことを繰り返してはいけない。新長田の街そのものの再生もありますけれども、他の自然災害の被災地などで今後このようなことが起きないように。これは同じことを繰り返してはだめだと思いますね」