今年10月、和歌山市では紀の川にある水道を通す橋である「水管橋」の一部が崩落しました。崩落により、紀の川の北側のほとんどの地域で断水が発生し、6万世帯への水の供給が1週間にわたりストップしました。水道インフラの老朽化などが課題として浮かび上がる中、現場は今、どうなっているのか。再び取材しました。

水管橋崩落で『約6万世帯が断水生活』を約1週間強いられた

10月3日、紀の川にかかる和歌山市の六十谷水管橋が突如、崩落。影響は甚大で、市の人口の3分の1にあたる6万世帯・13万8000人が水が1滴も出ない生活を約1週間も強いられました。
38.jpg
給水所には連日、長蛇の列ができました。
4.jpg
(住民 今年10月)
「まさか80歳をまわってこんな事しないといけないと思わへんから。もうガタガタです」
「水って大切やなと思う。初めてでしょ、こんなこと。(Q.今、生活でどんな事に一番困っていますか?)トイレが大変なんですよ」
6.jpg
コンビニエンスストアからは飲料水が消え、隣の岩出市のスーパー銭湯には大勢の人が押し寄せました。
7.jpg
銭湯を利用していた尾崎弘江さんに話を聞くと…。

(尾崎弘江さん 今年10月)
「めっちゃ気持ちよかったです。やっと汗を流せて。昼間もコインランドリーまで走ったり、スーパーを見に行ったりして汗だくやし」

自宅が断水した尾崎さんは、20リットルのタンクをインターネットで急いで注文したといいます。
9.jpg
(尾崎弘江さん 今年10月)
「(Q.洗い物をする時はどういう工夫を?)まずティッシュで汚れの付いているもの、取れそうなものを先に取るんですよ。タンクの水で流して、最後は布巾で水気を取る感じで拭きます」

最も苦労したのが、洗濯。断水していない地域のコインランドリーに車で20分かけて向かいます。コインランドリーでは、洗濯機を使う人たちが並んでいました。
10.jpg
待つこと40分、ようやく洗濯機が空きました。往復の移動時間をあわせると約2時間もかかりました。
15.jpg
(尾崎弘江さん 今年10月)
「今月の一番痛い出費は洗濯、コインランドリーかも。生活が変わるってこんなにしんどいんやなとつくづく思います」

和歌山市は、水管橋の隣にある橋を通行止めにして、仮の送水管を設置。何とか断水を解消させました。

崩落箇所の撤去へ向けた準備が進められる…完成予定は来年6月

崩落が起きた現場は今どうなっているのでしょうか?取材班が再び現場を訪れると、崩落箇所の撤去へ向けた準備が進んでいました。

(取材班リポート)
「水管橋が崩落した箇所というのは依然手つかずの状態で残っていますね。私が10月に来た時と崩落箇所に関しては状況は変わっていません」
19.jpg
(取材班リポート)
「ただ周辺に目を向けると、いくつかの重機があります。あの崩落した部分を引き上げるための足場、土台を作る工事というのが今、進められているということなんです」
21.jpg
22.jpg
和歌山市は水管橋の7つのアーチ部分のうち、崩落部分とそれに隣接する2つの部分のみを架け替え、残る4つの部分は修繕して維持する方針です。そして…。
23.jpg
(取材班リポート)
「紀の川の北側にやってきました。こちらの橋、南北をつなぐ非常に重要なルートなんですが、人が利用することはできません。工事が終わって状況が解消されるのはですね、来年の6月中頃ということなんです」

和歌山市は水管橋の復旧を来年6月中旬までに完了することを目指しています。それを過ぎると紀の川の水量が増えてしまい工事が困難になるため、時間との戦いです。

そもそも、今回の崩落はなぜ起きたのか。和歌山市の尾花正啓市長は、次のように話しています。

(和歌山市 尾花正啓市長 今年10月)
「同じような箇所で非常に腐食が進んでいます。塩だとか鳥のフンだとか、いろんな物がたまりやすいので、そういった箇所については腐食が進むだろうと」
26.jpg
MBSのドローンの映像でも、大きなすき間がはっきりと確認できました。複数の吊り材が腐食により破断していて、崩落した部分で同様の破断が起きていたとみられています。和歌山市では月に1度、隣の橋から目視で点検をしていたものの、主な目的は水漏れがないかのチェック。破断は見落とされました。

(和歌山市 尾花正啓市長 今年10月)
「水管橋ということで、ちょっと甘くなっていたんじゃないかなと思います。人が通るような道路橋に準じた形で点検していく必要があるんじゃないかなと思います」

「AI」活用し水道管の破損確率を算出する自治体も

老朽化した水道インフラをどう管理し更新するか。最先端の技術を使って効率化に成功した自治体もあります。兵庫県朝来市では、総延長約420kmに及ぶ上水道を、わずか4人の職員で管理しています。
29.jpg
(朝来市上下水道課 丸山貴史主事)
「(地図の)赤色の箇所の管路については最も破損確率が高い。その次がオレンジ色、その次が黄色で表された管路、その次が緑色の管路、青色の管路といった形で、劣化度合いが下がっていっております。こちらの5段階の評価はAIによる分析」
31.jpg
朝来市は今年、アメリカ・シリコンバレーの企業「Fracta」のソフトウェアを活用し、AI(人工知能)による水道管の劣化診断を実施。土壌・標高・傾斜などのデータと水道管の種類・大きさ・漏水実績などをAIに読み込ませ、破損確率を算出したのです。

(朝来市上下水道課 丸山貴史主事)
「どうしても敷設された年度が重なっているような地域が多くございましたので、このままいくと水道管の更新のピークを迎えた時に事業費をかなり圧迫してしまうという懸念があったんですが、劣化度の高い管路を優先的に更新していくことで、修繕費が抑えられる」

例えば、とある水管橋では茶色くなった部分が目立ちますが、AIの診断では緑色、つまり破損のおそれは低いという結果が出ました。
36.jpg
(朝来市上下水道課 丸山貴史主事)
「見た目とは違って、劣化度が低いという判定が出た管路は多くありました。使える管は使っていって、ダメな管は新しくてもどんどん更新していく。少ない人数でも効率的に業務が行えるようにAIを活用したりですとか、そういった技術を使っていければと考えております」

紀の川に沈んだ水管橋が浮き彫りにした課題。老朽化に対応する知恵が今、求められています。