12月17日午前、大阪市北区のビル4階の心療内科クリニックで起きた放火事件では、27人が心肺停止の状態で病院に搬送され、これまでに20代~60代の24人(男性:14人 女性:10人)の死亡が確認されています。こうした火災について、元東京消防庁麻布消防署長で市民防災研究所の理事である坂口隆夫さんに、12月20日、MBSテレビ「よんチャンTV」で話を聞きました。

―――大阪・北新地のビル火災では、亡くなった24人全員の死因が一酸化炭素中毒とみられています。2019年のデータをみると、建物火災の死者1197人の死因のうちで最も多かったのが一酸化炭素中毒・窒息でした。なぜ一酸化炭素中毒で亡くなる方が多いのでしょうか?
「一酸化炭素は、あらゆる火災で発生する煙の中には全てに含まれています。無色・無臭ですから全く気が付かない。ただ火災の場合には煙は目に見えますから、少しでも煙を吸わないようにするということです」

―――やっぱりハンカチで口を押さえるとか、低い姿勢で避難するとか、小学校の時の避難訓練で習ったようなことをやるしかないのでしょうか?
「ハンカチで鼻や口を押さえて姿勢を低くして避難するという方法は、一般の火災では通用します。しかし今回は可燃性の液体が撒かれて、火をつけられて一気に爆発的に燃焼したので、一気に黒煙が発生しますから、姿勢を低くして避難する余裕はなかったと思います」
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一酸化炭素は空気よりわずかに軽いそうですね。そして一酸化炭素中毒になると、軽度の頭痛吐き気、めまい、そして死に至る可能性もあると。換気が不十分な場所で火を使う場合にも発生しますから、冬場はストーブ使う時などに換気をしましょうというのはこういう意味があったんですね。
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―――今回の火災の火元は8階建てのビルの4階でした。煙はどのように広がったのでしょうか。ガソリン1リットルを燃料として受付付近に撒いたと想定したシミュレーション映像では、発火して一瞬で待合室に広がり、天井を伝って一番奥の院長室に出火からわずか4秒で到達します。7秒後には煙がフロアに広がりました。煙が速いことがわかります。
続いてクリニックを横から見たシミュレーション映像では、一瞬にして広がった煙が人の口や鼻の高さに数秒ほどで下がってくることがわかります。シミュレーションによりますと、一酸化炭素は空気とほぼ同じ重さで人間の頭の高さに簡単に落ちてきてしまうということです。このガソリンの危険性はどうみていますか?
「やはり消防法上の危険物の中でもガソリンが一番怖いです。ガソリンは引火点がマイナス40℃で、蓋を開ければもう気化して可燃性蒸気がどんどん発生します。発生蒸気は空気よりも若干重く、それが流れていくわけです。ですから京都アニメーション第1スタジオ火災で放火した人は、火をつけるまでの間に自分のズボンの中にも可燃性蒸気が入り、着火して衣服に燃え上がった。もう非常に危険性が高い」
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では、煙と炎が広がる中、火災現場でどう身を守り、避難するのか…。京都市消防局が2019年の京都アニメーション放火事件をきっかけに、火災から命を守る方法をパンフレットや動画で説明しています。煙の中での避難方法、体に火がついたときの対処法も紹介しています。それによりますと、煙の中での室内移動では姿勢を低くしてアヒルのように歩きます。煙の下に残る空気層で息を止めずに浅めの呼吸をしながら避難するということです。煙が天井から下がってきても床が見える状況であれば、徐々に姿勢を低くして避難することが求められています。
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そして服に火がついた場合は、立ったままだと上の方へ炎が拡大し、口から熱気や煙を吸って負傷してしまいますので素早く寝転がり、手で目鼻口を覆い、燃えている箇所を床に押し付けて火を消します。自分の服に火がつくと、大慌てでその場を逃げたり走り出したりしたくなりそうですが、火の勢いを大きくしないためにその場に立ち止まる。そのまま立っていると火は上に行くので、顔にあたり呼吸器がやられる。ですので寝転がり、目口鼻を押さえて転がりながら火を消すということです。お子さんであったり、ご家族であったり皆さん話し合って伝えてあげてほしいと思います。