今シーズンで現役を引退したサッカーJリーグ・セレッソ大阪の大久保嘉人さん(39)。プロ生活では史上初の3年連続Jリーグ得点王に輝いたほか、J1通算最多得点記録(191得点)保持者でもあります。私生活では4人の息子の父親で、以前は抗がん剤治療が必要となった妻を気遣い、息子たちと一緒に丸刈りにしたことでも話題に。現役最後となった今シーズンはセレッソ大阪に移籍し、横浜で暮らす家族と離れて大阪へ“単身赴任”になると思いきや、小学校4年生の三男を連れた「男2人暮らし」がスタートしました。トップアスリートであり主夫でもあるという“二足のわらじ生活”はどのようなものだったのか話を聞きました。

横浜から大阪へ単身赴任の予定が「俺も行く」

サッカー元日本代表の大久保嘉人さん。J1歴代最多191ゴールという記録を持つ日本屈指のストライカーは、プロ20年目の節目となる今シーズンをもって現役生活に幕を下ろしました。今年11月27日に行われた引退セレモニーには、大久保さんを支えてきた4人の息子と妻・莉瑛さんが駆け付けました。

(引退セレモニーであいさつする大久保嘉人さん)
「家族がいなければこの年までサッカーもできていなかったと思いますし、本当に支えてもらってここまでこられたので、感謝してもしきれないですけれど、ありがとうございました」
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セレッソ大阪に移籍した今シーズン、大久保さんは横浜の自宅を離れて「大阪暮らし」をしていました。

―――元々はご家族を神奈川に残して1人で来られるつもりだった?
「はい、元々は。大阪に行くから今年は一緒に住めないねって言ったら、『いや俺も行く』って言いだしたんですよ」

そう言い出したのは当時小学3年生だった三男の橙利くんです。

「絶対だね?って言ったら、『うん』って言うから、なら『来い』と」
―――「ちょっと待てよ」とは言わなかったんですか?
「言わなかったです。学校のことだったりご飯のことだったりということは考えていなかったんです俺。何も」
―――普通は最初にそれを考えるのでは?
「そうなんですよね。最初にそれを考えていたら『絶対来るな』って言っていました」
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子どもとはよく遊ぶという大久保さん。しかし学校のことや家事はすべて妻の莉瑛さん任せ。家族と離れて暮らすこと自体が初めてでした。

「宿題とか連絡帳を見るのとかプリントとか、やっぱり子どもだから消しゴムがなくなって入っていないとか、鉛筆が短いとか。もう考えたことないから、そういうのするのも大変でしたね。こんなことがあるんだと」
―――思っていたより大変でした?
「大変でしたね」

初めての家事 慣れるまでは本業への影響も…

初めて経験する「家事」と「育児」。その生活はというと、朝7時に息子とともに起床。朝食を食べさせ、8時前には橙利くんを学校へ送り出します。

【橙利くんが家を出るときの様子】
(大久保さん)「水筒は?」
 (橙利くん)「持ってる」
(大久保さん)「あっ持った?OK」
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そこから自身は練習場へ。午前10時から約2時間半の練習です。橙利くんが小学校から帰宅するのは午後4時ごろ。それまでに掃除を済ませておき、夕食は午後6時。作るのはもちろん大久保さんです。お米を炊くのも日々のメニューを考えるのも何もかも初めて。今回の2人暮らしの中で身につけていきました。

【夕食時の様子】
 (橙利くん)「うまっ!」
(大久保さん)「うまいでしょ」
 (橙利くん)「めちゃめちゃうまい」
(大久保さん)「野菜食べてね」
 (橙利くん)「逆にうざい」
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テキパキと家事をこなしているように思えますが、慣れるまでは本業への影響もしばしばあったとか。

「洗濯がやっぱりたまってしまった時は、帰ってしないといけないなって練習中に考えてしまうとか。だから嫌なことは先にする、後に回さないというふうに心がけていました」

「子どもに成長させてもらった」2人暮らしで生まれた変化 そして妻への思い

何事もチャレンジととらえて取り組んできたという大久保さん。当初はタマネギの切り方すらわからなかった料理の腕前も、「キャラ弁」や「魚の煮つけ」を作るまでに。そんな父の姿に息子の橙利くんにも変化があったようです。
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「本当に何もしない子で、何もできない子だったんですけれど、いまはもう自分で、サッカーの洗濯まではしないんですけれど、スネ当てとかを勝手に洗っている。自分から気づいたことは人任せにせず自分でやる。そういうのができるようになったので、やっぱり変わるんだなって思いましたね」
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予期せず始まった「大阪親子2人暮らし」。大久保さんにとっても貴重な時間だったといいます。

「やったことないし、やれない自分がそこまでやれるんだ。やっぱり成長。子どもに成長させてもらっているな、みたいなのは感じました」
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そしてもう1つ大きく変わったものがあるといいます。妻の莉瑛さんへの思いです。

「初めて今回わかりました。こんだけ大変だったんだと。俺は(三男)1人で大変なのに、4人おってプラス俺おって、大変やったろうなって思いますね。もうほんとに尊敬でしかないです。だからこれから帰ったら、たぶん(家事を)やるんだろうな、多少は」
―――多少は?
「はい、多少は」