200以上の国と地域に放送しているイギリスのBBCワールドニュースは、東京オリンピックの期間中に国立競技場の前などから中継を行っています。中継を務めるのは日本人初のBBCワールドニュースのキャスターである大井真理子さん(39)です。コロナ禍のオリンピックを大井さんはどう見ているのでしょうか。

国立競技場前からリポート 1日で9回中継

大井真理子さんは2006年にBBCワールドニュースに入局。現在はシンガポールを拠点に経済番組の司会を担当しています。

―――日本に来られるのはいつぶりですか?
(大井真理子さん)
「(2019年の)ラグビーワールドカップ以来です。あの時の興奮みたいなのがあって、そういう感じになるのかなと思っていたんですが、今回コロナ禍でちょっと違いますけれど」

大井さんは子育て真っ最中の3児の母親で、子どもからはこんなことを言われたそうです。

「(6歳の)娘とかは『オリンピックでママ走るの?金メダル目指すの?』みたいな。ちょっと違うとか思いながら」
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大井さんは7月上旬にシンガポールを出国。日本で2週間の隔離生活を送り、オリンピックの取材に入りました。約2か月間の出張です。話を聞いたこの日は、午前と午後、1時間ごとにリポート。1日で9回の中継を行いました。

―――いま中継では何を話していた?
(大井真理子さん)
「けさは、柔道の高藤直寿選手が初の金メダルで、日本の新聞に大きく写真が出ているのを見せて、すごくみんな感動していましたという話。(話す内容は)基本的に中継をするリポーターが『きょうはこんなことを話したい』と提案する」

中継・取材クルーは大井さんを合わせて3人

クルーは大井さんのほかにカメラマンの長尾風汰さんとアシスタントの高橋英江さんがいて、中継や取材は3人ですべて行っていました。中継の合間には芝生に座り、番組で流すVTRの編集作業。大井さんが構成を考えて長尾さんが編集まで行います。
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――大井さんはどんなキャスターですか?
(カメラマン 長尾風汰さん)
「同世代で、同じように子どももいて、すごく頑張っているなと思います。妊娠しているときも撮影していて、そこまでやる人はあまりいないなと思いました」
(アシスタント 高橋英江さん)
「BBCで初めての日本人キャスターで、様々な困難があったと思いますが、すごすぎますね。すごくパワフルです」

「開催の賛否両方の意見が理解できる」 感じた“国民性の違い”

8年前の招致決定の時から母国でのオリンピック中継を目指してきた大井さん。手には五輪のネイルをしていました。メダルラッシュの盛り上がりを伝える一方、コロナ禍のオリンピックとなった今回。大井さん自身のスタンスはどう考えているのでしょうか。
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(大井真理子さん)
「反対世論があるなかで、うちの会社の場合は、記者は中立公平で意見をオンエアでは言わないようにと常に言われますが、今回は正直両方の意見が理解できるという意味では、やりやすいというか。炎天下で並んで五輪マークのリングと一緒に写真を撮りたいと思っている人がいるということを伝えるのも私の仕事だと思う。ただただみんなが反対しているというわけではないと」
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一方、海外から日本の状況はどのように映っているのでしょうか?

(大井真理子さん)
「日本の緊急事態宣言が“state of emergency”と言われるとすごく大変なことという感じだけれども、例えばお隣の韓国やシンガポールとかもそうですが、実は向こうの方が厳しい取り締まりをしているのにもかかわらず、パっと聞いた時に日本の方がすごく大変な状況になっているイメージを与えられてしまう。MLBのオールスターやイギリスのサッカーとかも観客を入れて、それもほとんどマスクしていなくてやっていたんですね。実際にそこで感染者数が増えてしまった事実もあると思うんですけれども、『コロナと一緒に生きていく』という決心をこの人たちはしたのかなという方たちが、政府を見ていても一般的に見ていてもいらっしゃるなというのを感じていて。その中で日本だと1人でも感染者が増えないようにと、ある意味“ゼロリスク”を求める国民性であり、それが良い悪いという意味ではなくて、それが国民性の違いなのかなと」
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異例尽くめの東京オリンピックについて、大井さんは次のようにも話しました。

(大井真理子さん)
「いままでのオリンピックのなかでコストが一番高いじゃないですか。コロナによるコストもあると思うんですが、それにもかかわらず、結局、返ってくるものがないですよね。観光客も入れられなかった、チケットの売り上げもない、緊急事態宣言でレストランとかビジネスは影響を受けていて。衆院選もありますし、これがどういう影響を与えるかなと」