2014年に奈良市内の住宅街で老朽化した水道管が破裂し、土砂崩れが起きました。水道管を管理する奈良市は、土砂崩れの直接的な被害について補償するとしていますが、家の所有者側は敷地内にある門や階段が傾くなどの被害も出ているなどとして、約1億6000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。

水道管が破裂して土砂崩れ のり面が崩落

奈良市内の閑静な住宅街の一角に、町を一望できる場所があります。その場所は白壁の一部が鉄柵とガードレールになっていて、中をのぞくと垂直に崖が切り立っています。約7年前にこの場所で“ある問題”が起きたといいます。
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(吉谷結紀さん)
「水道管が破裂して6時間にわたって50cmくらい噴水のように水が吹き上がってね」
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吉谷さんによりますと、2014年12月に購入していた住宅のすぐそばの水道管が破裂して、その影響で敷地内の斜面で土砂崩れが起きたといいます。
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(吉谷結紀さん)
「壁も向こう側が見えるくらいパックリ割れてしまっているんですよ。ショックが大きいですね、やっぱり。まさしく住もうと思っていましたから」
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吉谷さんが所有するのは約3000平方メートルの敷地です。地中の水道管が破裂したのは北側の門のすぐそばで、吹き出した大量の水が傾斜になっている東側に流れ出し、土砂崩れが起きたといいます。
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老朽化した水道管が破裂してその3時間後にのり面の崩落が始まったといい、崩落した土砂は吉谷さんの敷地の向かいの住宅の庭にまで達しました。

所有者「水道管の破裂以降、石積みの階段が傾いた」 市に補償を求める

崩落事故でけが人などはいませんでしたが、7年たった今も現場は元通りになっておらず、吉谷さんらは現在もここには住んでいないといいます。その訳を聞きました。
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(吉谷結紀さん)
「家にたどり着くには石積みの階段を下りていくんですが…石畳が断絶していますでしょう、こっち側に寄って剥がれて。(Q隙間はもともとなかったんですか?)なかったです」

吉谷さんによりますと、水道管が破裂して以降、門の石畳の一部が剥がれたりするなどの影響が出ているといいます。
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門から玄関に続く石積みの階段では…。

(吉谷結紀さん)
「全体的に階段が傾いているんです、東に。(石が)完全に断絶していますよね」

水道管の破裂で水が周辺の土壌に侵食し、地盤沈下を引き起こしているというのです。
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ほかにも、自宅の門そのものにも歪みが出ているといいます。吉谷さんが調査を依頼している一級建築士が実際に門の傾きなどを調べてみました。

(一級建築士 木津田秀雄さん)
「柱がまっすぐに立っていれば、傾斜測定器の赤い線と柱は角がずっと合っていきますが、(赤い線と柱の角が)だんだん離れていっています。1mに6mm以上傾いたら何か地盤とかに影響があるんだろうと。(Q今回の傾きは何mmですか?)1mに14mmなので、倍ですね。よっぽど何かおかしなことが起きた。門の真ん前で水道管が破裂して水がどっと出てきたと。(水道管破裂の)影響があるんだろうなとは思います」
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吉谷さんらは直接被害を受けた白壁やのり面の補修だけではなく、『門のゆがみや石畳のずれなども水道管の破裂が原因だ』と主張。水道管を管理していた奈良市に補償を求めています。しかし…。

(吉谷結紀さん)
「(奈良市は)『門や階段には水が一滴もない、落ちていない』と。(水道管破裂の)事故とは因果関係がないんだと言い張るんです」

事故調査報告書「崩落現場以外では土地の安定性は高い」

当時、奈良市が設置した水道管破裂事故の第三者委員会がまとめた“事故調査報告書”によりますと、土砂崩れの原因は「路面にあふれた水が斜面に流れたことで発生した」とされています。
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調査では周辺斜面の地盤状況を確認するために6地点でボーリング調査が行われました。その結果などから、周辺の地中に水が浸透したとされる空洞などは確認できず、『崩落現場以外では土地の安定性は高い』と結論付けられました。調査を受けて奈良市は吉谷さん側に「門などの損傷に関しては、本件崩落事故と因果関係がないものと考えておりますので、復旧・補修の対象とはしておりません」と伝えてきたといいます。

奈良市は白壁とのり面の修復代として約3800万円の賠償に応じるものの、門や階段などの問題は水道管の破裂と因果関係はないと主張しています。双方が食い違うことで、現場は今もそのままの状態が続いているのです。
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奈良市に見解を聞いてみました。

(奈良市企業局 増田聡次長)
「(門や階段に)漏水の水が影響したということになりますと痕跡が残りますので、いわゆる階段や門の傾き以外のものが出てくるとか、それが推定されれば影響があっただろうとなりますが、(ボーリング調査などで周辺地盤の)健全性の評価をしていただきましたので、調査の段階では(周辺地盤への影響が)認められないと」

所有者側は約1.6億円の修繕費を求めて奈良市を訴える

水道管の破裂事故から約7年。双方の溝は埋まらず、今年6月7日に吉谷さんらは奈良市を相手取り、『水道管の老朽化を放置するなどずさんな管理が事故を招いた』として、門や石畳なども含めた修繕費約1億6000万円を求めて大阪地裁に提訴しました。吉谷さん側は裁判で水道管の破裂と被害との因果関係を立証していくとしています。