ボクシング元王者の男性が新型コロナウイルスに感染して壮絶な闘病生活を送りました。以前にも番組でこの男性を取材したことのあるMBSの西靖アナウンサーが話を聞きました。

4年ぶりにパソコン画面上で再会した大阪・堺市に住む野上真司さん(46)。
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野上さんはボクシングの元WBOアジア太平洋スーパーフェザー級王者。また妻の奈々さん(42)は元WBO・WBC世界フライ級王者で、日本初のチャンピオン夫婦です。スポーツマンで体力に自信のあった野上さんを今年4月に病が襲いました。新型コロナウイルスです。
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(野上真司さん)
「プロの選手の練習を3人と私の計4人で行っていました。その時に新型コロナウイルスの陽性がその中で出てしまったという形ですね」

会食を控え、実戦練習以外は常にマスクを着用。換気や消毒などにもかなり注意してきましたが、野上さん自身も感染。壮絶な闘病生活が始まりました。

経営するジムで隔離生活を始めた野上さん。初日こそ無症状でしたが、次第に39℃の熱と嘔吐が始まりました。

(野上真司さん)
「食べることもできなかったので、最初の3日間は1日ゼリーを1つと経口補水液。食べるものがないので吐き出すものがないんですけれども、あがってくるんですよね。食道と喉のあたりがやけるような痛さ。動けなくなって、トイレに倒れて半日ぐらい、はいつくばっていた」
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その様子を妻の奈々さんはテレビ電話で見ていました。“夫の命が危ない”、そう感じた奈々さんは119番通報をします。ところが…。

(野上真司さん)
「救急車が来たので、どこか病院に連れて行ってもらえるのかなと思っていたんですけれども、結局、体温と血圧と血中酸素濃度を測ってもらったんですけれども、結局『野上さんすみません、いま入れる病院がないんです』と、置いて行かれた」

意識が朦朧とする中、野上さんはこの時、底知れぬ恐怖を感じていました。

(野上真司さん)
「ひょっとしたら今のこの意識が切れてしまうと次はもう目覚めへんかもしれへん。そう思うと涙が出てきて。もう俺はもうアカンのかなと。もうそれは、精神的な怖さは、ボクシングでリングに上がってきたが、今までにない切羽の詰まり方でしたね」

妻の奈々さんも、不安に駆られていました。

(野上奈々さん)
「恐怖でしかなかったです。ただただ画面で弱っていくのを見ているつらさ。画面でつなぐのが怖かったですね」

その後、野上さんはジョイントマットに毛布を敷いただけのジムの寝床を出て、療養施設のホテルに移りました。そこで野上さんの心を打ったのは、病院に入れないことを詫びる医療従事者の涙でした。

(野上真司さん)
「力及ばずで病院に送り出せないことを本当に申し訳ありませんと言われたんですよね。涙ながらに。こんなに大変でつらい仕事はないだろうなと。改めて医療従事者の方には感謝の気持ちを持ちましたね」

野上さんがたった1人で隔離生活を送っていたのには理由がありました。長年の不妊治療の末に赤ちゃんを授かっていたからです。奈々さんは臨月を迎えていました。

(野上奈々さん)
「臨月の最後って人生で最大に大事にされる期間なのに何なんだろうこれって思って」

5月3日、いわく“世界戦の10ラウンド以上の戦い”を経て奈々さんは男の子を出産しました。一方、野上さんは保健所から、「人に感染させる可能性はなくなった」とお墨付きをもらい、ようやく息子に会える日がやってきました。

5月8日、息子と奈々さんとの対面です。

(野上奈々さん)
「帰ってきましたよ。パパと会えてよかったね。会えないとこやったで」

野上さん、優しく抱きかかえていました。

   (真司さん)「やっと現実の世界に戻ってこられたと思った」
(西アナウンサー)「子どもと3人そろえなかったらどうしようと不安になったことはありませんでしたか?」
   (奈々さん)「ありました。本当に子どもと主人の命が入れ替わってしまうと思っていたので。だから恐怖心しかなかったです」

感染判明からちょうど1か月。宿泊療養のホテルを出て2週間以上経った今も、夜になるといまだに咳が止まらず、野上さんの体力は戻っていません。

(野上真司さん)
「(ホテルから)帰ってきた当時は起き上がって1時間~1時間半もするとめまい。1日の半分以上は今でも横になっています。発症するとすごい威力。自分たちの想像をはるかにこえる闘病になってしまうので、私と同じような思いをすることがないようにご注意くださいというのが私からのメッセージですね」

(5月20日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)