東京都新宿区戸山。都心の閑静な住宅街で、近辺には「夏目坂」などの地名が残り、かの文豪・夏目漱石が育った地域でもある。この都心一等地の小路を抜けると、見えてくるのが地上12階建て、87戸が入る国家公務員宿舎「若松住宅」だ。

 2月7日「立憲民主党」と「日本維新の会」の改革プロジェクトチームの国会議員が若松住宅を合同視察で訪れた。敷地内に足を踏み入れると、駐輪場にはツタが巻き付き、玄関には板が打ち付けられ「立入禁止・牛込警察署」の紙が貼られている。鉄柵は錆びて根本から倒れ、壁には「The Great Artist」(偉大な芸術家?)などと落書きもされており、まさに「廃墟」の様相を呈していた。
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 若松住宅は2011年に全戸が退去した後、時の民主党政権下で廃止が決まったが、その後の活用は全く決まっていない。視察を担当した立憲民主党の渡辺創衆院議員は「国民に新たな負担を求めようとしている政権が(中略)売却であったり貸出であったり、しっかりと国民のみなさんの負担を減らすという努力を行うことが必要だと思っている」と視察の意義を強調した。

簡易査定で「46~53億円相当」の価値認められるも”10年塩漬け”

 この視察に参加した日本維新の会の岩谷良平衆院議員。実は大阪でビル開発を手掛ける不動産会社を経営するなどした実業家で、物件を見る目は“ピカ一”と言える。現場に向かう車内で「相当な資産価値があるはずだ」と目を輝かせていたが…。元不動産業者の岩谷良平衆院議員。現地の視察中にも「売却した時の資産価値と(土地を活用する)行政ニーズの比較検討はするのか」などと財務省の担当者に矢継ぎ早に質問をしていた。

 その岩谷議員が路線価などをもとに簡易的に査定したところ「若松住宅」6400㎡の土地は、46億9257万円~53億4953万円の価値があるとの結果だった。まさに“出物”であり「非常に希少な土地。民間不動産会社で言うとすぐにでも買いたい、開発させてくれというはず」と指摘した。

 この土地には戦時中に人骨を廃棄したとの指摘があり、発掘調査をしたり土壌調査をしたりする必要性があったと財務省は説明するが、それでも10年の長きにわたり都心の一等地を“塩漬け”にしたのは理解に苦しむところだ。
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 岩谷議員は財政改革の一環として公有地の売却を進めてきた大阪府の例を引き合いに「我々は、増税せずに売るしかなったわけですよね。地方はどこでも自治体はタオルを絞って一滴を生み出すようなことをやっている」などと述べ、国に危機感がないと強調した。

 ちなみに新宿区の当該の土地は、大阪で言えば「キタ」や「ミナミ」に相当するというが、こんな“出物”はもはや存在しないという。同様の公務員住宅や行政目的のなくなった普通財産で使用されていない国有地が東京23区内で119件、台帳価格だけでも2500億円を超えるという。(立憲民主党・渡辺創議員)
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 増税の議論をする前に、廃墟のようにたたずむ公有財産の処理は喫緊の課題だろう。

 毎日放送報道情報局 解説委員 三澤肇