7月10日に投開票が行われた参議院選挙。日本維新の会は比例区(50議席)で8人が当選し、立憲民主党を上回り野党第一党になった。日本維新の会の比例区の得票総数は785万票で、2019年の参院選での491万票を294万票も上回った。

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維新が打ち出す「身を切る改革」など"改革保守"としてのイメージがある程度浸透したことがその要因とみられるが、一方でタレント候補を数多く擁立するなどした「比例戦略」が的中したとも言える。今回の比例擁立のキーマン、維新の馬場伸幸共同代表に密着した。

中条きよし、猪瀬直樹...「著名人擁立」の舞台裏は?
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参院選が公示されてまもない大阪難波。街頭で演説に臨んだのは、維新から比例で出馬した歌手・俳優の中条きよしさん(76)だ。

(比例で当選した中条きよしさん)
「芸能界というところに初めてレコードというものを出しましてから、今年で54年目でございます」

中条さんといえば、時代劇・必殺仕事人シリーズの三味線屋・勇次などテレビや映画で活躍する大スター。選挙のキャッチフレーズも代表作にちなんで"国民の恨み晴らします"だ。擁立に至った経緯について馬場共同代表は「中条さんは共通の知人を通じてご紹介いただいて、何度か食事をしながらいろんな世間話をした。私も失うものがないので、年も年だし、最後はお国のために奉公したいということで、本人が決断した」とあくまで、出馬は中条さんの意志であったことを強調した。18日間の選挙期間中、馬場氏は中条氏をはじめ、全国の比例候補をくまなく回り、応援にひた走った。
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6月25日、東京・新宿区。この日は東京都知事をつとめた猪瀬直樹さん(75)とともにシースルーの選挙カーで支持を訴えた。選挙カーに乗り込み取材すると、猪瀬氏がやおらマイクを握り、街ゆく人にこう呼び掛けた。

(比例で当選した猪瀬直樹さん 6月25日)
「猪瀬直樹です。猪瀬直樹です。よろしく、今度日本維新の会からでますから。日本には至る所に、バカの壁があるんです」

演説のトーンは一定...というか抑揚がなく「熱さ」を感じないのだが、猪瀬氏本人はいたって真面目に訴えかけている。馬場共同代表は次のように話す。

(日本維新の会 馬場伸幸共同代表)
「元々あまり愛想をふりまく方じゃないからね。この仏頂面加減がいいんとちゃいます」

猪瀬さんの場合も、いろいろ社会情勢について意見交換をして、後日「チャレンジをしてみたい」と連絡があり擁立にいたったのだという。

西郷隆盛公の「玄孫」は"プードルのぬいぐるみ"を手に演説
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この4日後、歴史上の人物の子孫を応援するため、鹿児島に入った馬場氏。比例で立候補したのは西郷隆太郎さん...明治"維新"を牽引したあの西郷隆盛公の玄孫(やしゃご)だ。よく見ると、"犬のぬいぐるみ"を手に持って演説している。いったい何のためにぬいぐるみなのか...直接聞いてみると、西郷さんはこう答えた。

(維新・比例から出馬した西郷隆太郎さん)
「これは『つん』(西郷隆盛の愛犬)の意味なんですけど"トイプードル"です。お人形もっていなさいといわれて、隆盛を連想させようと思ってそれだけです」

隆盛公の愛犬「つん」にあやかりたいという気持ちだったようだが、西郷氏は惜しくも落選した。

元マラソン選手の松野明美氏は「立憲」の出馬要請を断り「維新」から
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続いて熊本市に向かった馬場氏を待ち構えていたのは、女子マラソンの元エース松野明美さん(54)だ。元マラソン選手らしく走りながらの選挙活動というわけで、2人は報道陣を引き連れ、熊本市内を走り回った。維新からの出馬を決めた松野さんだが、実は立憲民主党から出馬の打診うけたものの、馬場共同代表からのツイッターがきっかけでこの要請を断った経緯があるという。松野さんに「維新のほうがよかったのか?」と聞くと次のような答えが返ってきた。

(比例で当選した松野明美さん)
「やっぱり勝たないといけないんですよ。選挙って勝つためにどうしたらいいか」

さすがの「勝負勘」というところだろうか、松野さんは疾風のごとく選挙戦を駆け抜け、当選を果たした。
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26人を擁立して8人の当選を勝ちとり、比例区では躍進を果たした維新だが、選挙区では京都と東京などで議席の獲得には至らなかった。特に京都は最終盤に吉村副代表が何回も応援に入るなどの念の入れようだったが、立憲のベテランと自民の新人に競り負けるかたちとなった。「全国政党」への脱皮を図る維新だが、比例区と選挙区ではその明暗が分かれることとなった。

毎日放送報道情報局 解説委員 三澤肇