16日間の臨時国会が閉幕した。この国会で進展が見込まれた文書通信交通滞在費(文通費)の改革は頓挫し、見直しは次の通常国会へと持ち越されることになった。文通費に対する各党の「スタンスの違い」が原因といえるが、それはさながら「ボールの押し付け合い」のようにも見えた。なぜこうなってしまったのか、順を追って見ていきたい。

大阪が突きつけた「3点セット」

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 12月2日。臨時国会に向けた議院運営委員会理事会を翌日に控えた夜遅くに情報は入ってきた。それは、日本維新の会が文通費について方針を変えたという内容だった。そもそもは、維新の新人議員が、『国会議員の在職資格が一日しかないのに1か月分の100万円が支給されるのは"非常識"』とツイッターに投稿したことで、見直しが始まった経緯がある。当初は「日割り計算するべき」という論調のみだったが、その後は「使途公開=領収書の添付」、そして「余った分の国庫返納」と、文通費が抱える矛盾点へと焦点は移っていった。

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 臨時国会を控えて、維新国対は歳費法の改正について水面下での調整を進め、維新としては自民党も許容できる「日割り案」を受け入れるが、「国庫返納と使途公開は必要」との紙を議運で配布するなどして、残り2点についても継続して協議を行うよう与党から言質を取るとの筋書きを描いていた。しかし、12月2日夜に『大阪』から待ったが入る。維新の松井一郎代表は、その方針を認めず「使途公開、国庫返納が入らないのはおかしい。内容が緩い」と指摘したという。この後、維新は「日割り」の一点先行から「3点セット」へと軸足を移し、自民と向き合うこととなる。自民国対は、この維新の変化に不快感を隠さなかった。

自民と維新「コネクティングルーム」

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 これまで公開の義務がないために、第二の給与と揶揄されてきた「文通費」。与野党を問わず国会議員からは『使い勝手の良いお小遣い』などという声が漏れていたが、実際のところ「何に使っていいのか」定義づけがされていないことも、見直しが遅れた理由のひとつだ。

 12月6日、維新は国民と共同で「3点セット」の歳費法改正案を衆議院に提出し、7日には立憲民主党も続いた。

 一方、自民党の茂木敏充幹事長は12月7日に次のように話した。

 (自民党 茂木敏充幹事長 12月7日) 
「国民の関心から言ったらまず優先的には、この日割りをやると、その上でそれ以上のことが合意できるのなら、そこまで進めていただくことについては異存がない」

 あくまで「日割り優先」の姿勢を崩さなかった。自民の高木毅国対委員長と維新の遠藤敬国対委員長はこの間、2回会談の場をもったが、自民国対に入る遠藤国対委員長の姿は不思議と目撃されていない。実は、自民の国対部屋と維新の控え室は中でつながっており、パーテーションで区切られているだけなのだ。いわば「コネクティングルーム」のような状況で、両国対委員長は"記者の目"を気にせず会うことができる。しかしながら「日割り優先」の自民と「3点セット」の維新の溝が埋まることはなかった。

 臨時国会閉幕の前日、12月20日には3度目の自民と維新の国対委員長会談が開かれた。この場で自民側は、日割支給を可能にする法改正を優先する一方で、「使途公開」「国庫返納」については「早急に合意が得られるよう最大限の取り組みを進める」と、各党による協議の枠組みを立ち上げる譲歩案を示した。しかし、維新側はこれを拒否。あくまで「残り2点」についてもスケジュールを示す必要性があるとの線を譲らなかった。

立憲と維新「微妙な距離感」

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 12月14日に立憲民主党の馬淵澄夫国対委員長と維新の遠藤国対委員長が向き合っていた。会談の冒頭部分が公開されたが、双方の表情は一様に硬い。両党は「3点セット」の
法案をそれぞれ提出しており、法案の中身的には"ほぼ一致"しているのだが、共同歩調をとることができなかった。

 これまで両党はコロナ対策をめぐっても、当時の枝野幸男代表と吉村洋文大阪府知事が批判合戦を展開。「批判ばかりするオールド野党」(維新・馬場共同代表)と維新が立憲を批判すれば、「維新さんもかなりもう国会ではオールドに入ってきている」(立憲・泉代表 MBS「よんチャンTV」で)と立憲もやり返すなど、両党の間には相当な距離感がある。

 立憲の馬淵国対委員長は12月17日、維新・国民が立憲案に賛意を示したことについては「大変感謝を示しております」とした一方で、「責任ある"与党"の立場で、全党全会派がまとめられるように努力をしていただきたい」と、ボールはあくまで与党側にあるとの認識を示した。そして20日、自民から示された「各会派の協議の枠組み」などの提案については「到底受けられるものではない」「真摯な姿勢というものが、この文面から受け止められない」と一蹴した。

 閉幕前の土壇場で示された自民の提案は、野党(立憲・維新・国民)にことごとく拒否され、臨時国会での文通費見直しは「断念」に追い込まれた。

批判された「セルフ領収書」は廃止

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 12月16日夜、議員会館の会議室で維新の衆院議員が熱い議論を展開していた。テーマは「党内での文通費の扱い」。討論会はYoutubeで生配信され、「文通費は廃止しかない」と訴える議員まで現れた。あえて"赤裸々な議論"を公開したのは、他党よりも進んで文通費の改革に取り組んでいる姿勢をアピールする狙いがあるが、その維新の「アキレス腱」とも言えるのが"セルフ領収書"の存在だ。これまで維新は議員に交付された文通費の一部をその議員が代表を務める政治団体に寄付することを推奨してきた。寄付されたお金は収支報告書で公開される反面、他の政治資金と混じってしまうため、文通費の使途そのものが見えなくなってしまう。

 こういったことから"セルフ領収書"と揶揄され「文通費の趣旨に反する」とか「公金のプールだ」などと批判されてきたが、討論会の後、維新の藤田文武幹事長は「セルフ領収書形式は修正しようと思う」と運用方針を変更する方針を明らかにした。

 12月21日の会見では、議員個人が支出を管理し、党のフォーマットに従って収支報告書を作成しホームページで公開するほか、余った文通費(期間1年)については党へ納めて、被災地などへの寄付に活用されるという。使途についても党のガイドラインを定め『飲食費』『遊興費』『親族への人件費』などは認めないことを決めた。

 文通費改革の道筋を見いだせなかった与野党だが、来年の通常国会で「歩み寄り」はあるのか。国会議員自らの身分にかかわる事柄だからこそ、きっちりと議論し、国民の理解を得る必要があることは言うまでもない。

 毎日放送報道情報局 解説委員 三澤肇