当選祝いの「胡蝶蘭」を載せた台車と引っ越し用の「段ボール」を載せた台車が議員会館の廊下をすれ違う。当選と落選の違いをまざまざと感じるこの季節。落選した議員の最後の一日を追ってみた。衆議院議員選挙で大躍進を果たした日本維新の会。その原動力は、本拠地・大阪で候補者を擁立した15選挙区での全勝だった。一方の自民党は、15候補全員が小選挙区で落選し、比例復活したのも宗清皇一氏(13区)と谷川とむ氏(19区)の2人のみという、まさに悪夢の様な展開だった。多くの落選者は、住み慣れた議員宿舎や議員会館の事務所を11月4日までに退去しなければならず、その対応に追われた。
落選しても「在京当番」が...
落選した大阪1区の自民・大西宏幸氏。11月3日の祝日「文化の日」は地元での"あいさつ回り"に追われているに違いないと思い連絡したところ、意外な答えが返ってきた。「"在京当番"で東京にいますよ...」。大西氏は現役の防衛政務官で、コロナワクチンの大規模接種センター設置や運営に尽力してきた。実は、落選しバッジが外れても、11月11日まで防衛政務官としての任期が残っており、緊急事態に大臣の代理として対応できるよう都内にいることを義務付けた「在京当番」を務めなければならないのだ。早く地元に帰って支持者に報告や挨拶を行いたいという気持ちはあるだろうが、最後まで防衛政務官の任務に専念するという。議員宿舎を引き払った後も、11日までは都内でのホテル生活が続くことになる。
「災害時優先電話」の解約も必要 最後の一日は...
11月4日午後、衆議院の議員会館地下一階で携帯電話業者と向き合っていたのは、大阪17区の自民・岡下昌平氏だ。国会議員には災害時に優先的に通信できる「災害時優先電話」の割当があるのだが、落選すればその契約を解除せねばならない。業者から携帯番号や名前を確認され、SIMカードを入れ替えるなど、作業は淡々と進められた。こうして国会議員としての「特権」が一つ一つ無くなってゆく。この日は、議員会館の片づけをする傍ら、所属する二階派の懇談会にも参加した。「力不足で申し訳ない」と落選の報告を行ったところ、同僚から大いに励まされたというが、その表情は疲れ果てていた。岡下氏の大阪17区は、維新の幹事長・馬場伸幸氏の牙城で、今回は約4万票近くの差をつけられるまさに大敗だった。岡下氏自身の得票は微減だったものの、維新・馬場氏の得票は投票率が上がったこともあり、大幅に伸びた。
私物が運び出されて「がらん」とした会館の部屋で話を聞くと、岡下氏は「今後の事はまだ考えられない」と苦渋に満ちた表情で語った。ただ、議員宿舎を掃除している時にある絵を見つけて思わず目頭が熱くなったという。4年前の当選時に、当時4歳だった長男が描いた絵で、その傍らには"パパ頑張って"と書かれていた。国会議員である父を誇りに思っているという長男も今は8歳。その期待に応えることができるのかどうかと、思い悩みながら話していた岡下氏だったが、その時、秘書がこう口を挟んだ。「あのー、キャビネットの鍵が見当たらないので3千円かかりました。どうします?」われに返った岡下氏は「じゃあ、私が払っておくよ...」そう応え、自分の財布を秘書に渡した。今後のことを考える暇もなく、議員会館の退去期限が迫っていた。
永田町での最後の一日は、あっという間に過ぎ去っていった。
今後、落選した一人一人が「自分」と向き合うことになるが、維新旋風が吹き荒れる大阪では「いばらの道」が続くことになる。
毎日放送報道情報局 解説委員 三澤 肇