バレーボールの国内三大タイトルのうちの1つ、黒鷲旗全日本バレーボール大会。長年、ゴールデンウィークの風物詩として、高校から大学、さらにはVリーグ勢まで、国内の強豪チームが一堂に会して開催されてきた大会も今回が71回目。最終日の5月6日は、5日間にわたる熱戦を勝ち抜いた男女各2チームによる決勝戦が行われました。

「私たちが勝つことで、少しでも元気になってもらえれば」

 女子の決勝は、去年の大会に続き2年連続で決勝の舞台に駒を進めてきた石川県に本拠地を置くPFUブルーキャッツと、準決勝で「天皇杯」「Vリーグ」に続く3冠を狙ったNECレッドロケッツをフルセットの大熱戦の末に破った埼玉上尾メディックスの対戦。

 5日の準決勝に勝利した後、石川県での地震の知らせを聞いたというPFUブルーキャッツの選手たち。今大会のキャプテンを務めた綿引菜都美選手が「私たちが勝つことで、少しでも(地元の方々に)元気になってもらえればと、(決勝への)決意も新たにした」と語ったように、第1セットから、エンジン全開。ここ数シーズンにわたって段階をへて強化してきたという力強くかつ確実性の高いサーブで主導権を握ると、この大会が本格デビューとなったルーキーの大村季色選手や、志摩美古都選手の強打が炸裂。第1セットを25対23、続く第2セットも25対22と連取します。

 しかし、Vリーグで4強に入り、この大会も東レやNECといった強豪を撃破してきた埼玉上尾メディックスも第3セットに入ると反撃。「とにかく全力で、やり切る気持ちで臨んだ」と、今大会を最後に現役引退を表明している内瀬戸真実選手が技ありのスパイクを決めると、権田寛奈選手もパワフルなスパイクで追従。25対23と、このセットを取り返します。

「全員が勝ちにつながる役割を果たしてくれた」

 それでもPFUは、慌てません。第4セットに入ると、坂本将康監督が「ベンチにいるメンバーも含めて、おのおのの長所を共有して、全員が勝ちにつながる役割を果たしてくれた」と語ったように、再び勢いを取り戻します。セッターの山下遥香選手の気の利いたパス回しに各選手が呼応。大村選手の思いっきりのいいスパイクに加えて、坂本監督が「やはり、勝ち方を知っている選手」と称賛した、この試合を最後にチームからの退団が決定している元日本代表の鍋谷友理枝選手が要所要所で効果的な攻撃をみせ、確実に得点差を広げていきます。最後は、綿引選手のスパイクが決まってゲームセット。PFUブルーキャッツがまさに全員の力で、去年決勝で敗れた雪辱を果たし、見事、チームとして初のビッグタイトルを獲得しました。

あきらめないディフェンス 第2セットは接戦に

 続いて行われた男子決勝は、大黒柱のバルトシュ・クレク選手を中心にミスの少ないバレーで勝ち進んできたウルフドッグス名古屋と、セッターの新人・山本龍選手以外はほぼベストメンバーで決勝に進出してきたサントリーサンバーズの対戦。Vリーグファイナルと同じ顔合わせとなりました。

 大黒柱のクレク選手は健在なものの、Vリーグでの出場機会が少ない選手たちがコートにたった名古屋。大会ベスト6にも選出された山田脩造選手が「だからこそ絶対に勝ってやろうと思っていた」と語ったように、立ち上がりから気迫十分。連戦の疲れが見えるサントリーを圧倒し、25対16とあっという間に第1セットを奪います。

 続く第2セットは、まさにがっぷり四つ。サントリーが持ち前の強打でリードを奪うと、名古屋が粘り強い守備で追撃。それでもサントリーがわずかにリードして、24対23とセットポイントのチャンスをつかみます。この局面で、セッターの山本選手の選択は、エースのドミトリー・ムセルスキー選手ではなく、藤中謙也選手。しかし、このポイントを決めきることができず、24対24とジュースに持ち込まれます。サントリーはそのあとも二度、セットポイントのチャンスをつかみますが、名古屋の全員が連動し、あきらめないディフェンスに阻まれ、決めきることができません。逆に、山田選手とクレク選手の強打の前に3連続ポイントを許して28対26。第2セットもウルフドッグス名古屋がものにします。

第3セットも接戦 名古屋・クレク選手が獅子奮迅の活躍

 逆転で第2セットを奪って完全に勢いにのった名古屋。第3セットは、常に先手を取る展開で優位に試合を進めます。そして、サントリーの大エース・ムセルスキー選手のストレートを狙ったスパイクがわずかに外れて24対21。勝負は決したかに思えました。しかし、ここからサントリーが脅威の粘りを見せます。ムセルスキー選手の強打で1回目のマッチポイントをのがれると、山本選手が起死回生のサーブを連発。強気のサーブで名古屋の守備陣を崩し、得点につなげていきます。その後、ムセルスキー選手の渾身の一打が決まって、ついに25対24。逆転に成功します。しかし、ここからクレク選手が獅子奮迅の活躍。当然のように上がってくるトスをすべて決めきって、サントリーにつけ入る隙を与えません。逆に、30対31から連続で難しいスパイクを決め、32対31と再逆転。再びマッチポイントのチャンスをつかみます。ここで、サントリーにミスが出て万事休す。ウルフドッグス名古屋がストレートでサントリーサンバーズを下し、この大会に初優勝。見事、Vリーグとの2冠を達成しました。

「最高の仲間と最後まで楽しく試合ができた」「本当にチームメイトに感謝」

 実業団やVリーグのチームにとってはシーズンの最後になるこの大会。全日本やヨーロッパでも活躍したあと3年間を埼玉上尾メディックスで過ごした内瀬戸真実選手は「最高の仲間と最後まで楽しく試合ができた。最高のバレーボール人生だった」と最後の試合を振り返りました。

 また、「(優勝して)笑って引退できるのは、なかなかないこと。とてもうれしく思っている、本当にチームメイトに感謝している」と語ったウルフドッグス名古屋の山近哲選手。バレーボールは「先のことは考えずに、目の前の1点1点に集中して取っていくのが本質」と語ったのは、大会のMVPにも選ばれたバルトシュ・クレク選手。

 仲間ととともに力を合わせて、目の前の一瞬一瞬に集中する。バレーボールのもつ美しさと力強さをあらためて教えてくれた、伝統のある大会の最終日だった。


MBSスポーツ解説委員 宮前徳弘