「花園近鉄ライナーズに所属して、ラグビーできてよかった。このチームでキャプテンをさせてもらって本当によかった。」長い,長いトンネルを抜けて、ついにつかんだディヴィジョン1でのリーグ戦初勝利。感想を聞かれた花園近鉄ライナーズ、野中翔平主将は、こう答えた。

そして、「メンバーに入れなかったチームメートは勿論、観客の方が、大きな声援で、力を与えてくれた。花園は、やはり、僕たちにとって、背中を押してくれる特別な場所です。」と感謝の言葉を表した。

気がつけば14連敗

リーグワン初年度となった昨シーズン、見事に、昇格争いを制した花園近鉄ライナーズ。今シーズンは、期待を胸に、トップカテゴリーであるディヴィジョン1に挑んできた。しかし、開幕戦でNECグリーンロケッツ東葛相手に、34対36とわずか2点差で勝利を逃すと、そこからは連敗地獄。

けが人や主力選手の合流の遅れもあって、気がつけば14連敗。リーグ戦も残り2試合、不名誉な記録もちらつく中、関西のライバルチーム、コベルコ神戸スティーラーズとの対戦を迎えていた。

連敗の大きな原因は、ディフェンス面だ。ボールを保持しながら攻め切るという目指す攻撃は、ある程度できていたものの、ディヴィジョン1チームの分厚い攻撃を止めることが出来ずに、50点以上の大量失点が10試合もある。

この日も、前半は、神戸のスキルフルな攻撃に、4つのトライを奪われる苦しい展開。3対26と大きくリードを許して折り返す。

後半になると、様相は一変

「これまで多くの失点をして、すべての試合に敗れてきた。だからこそ、結果ではなく、自分たちがやってきたプロセスにこだわってやろうと話をしてきた。前半で、苦しいスコア状況になったが、(気持ちを)切らさずに自分たちのやるべきことに集中できたと思う。」

野中主将が語ったように、より、厳しさを増したタックルを連発。さらに、セットプレーでも神戸に重圧をかけていきます。前半は、苦しんだラインアウトを修正すると、スクラムでは神戸を圧倒。

スタンドに陣取った、メンバーから外れたチームメートたちが、大きな声で1プレイ、1プレイごとにフィールドの選手たちを鼓舞。徐々に、試合の流れを引き寄せた。

そして、後半5分。4試合ぶりにスターティングメンバーに復帰した、シオサイア・フィフィタ選手が、力強いランニングで中央にトライ。このトライをきっかけに、スタンドが一気に盛り上がる。

ライナーズへの大声援で、会場全体が一体となって、追撃ムードを演出。後押しされた選手対が、気持ちのこもったアタックをみせて、それにこたえていった。

9分に、フィフィタ選手がタックルを引きずりながら敵陣に侵入すると、バックス陣が巧みな連携を見せて、最後はWTBの南藤辰馬選手がトライ。14分には、元オーストラリア代表のSHウィル・ゲニア選手が、抜群の反応で、相手ボールを奪ってチャンスをひろげると再び、フィフィタ選手がトライ、あっという間の3連続トライ。

トライ後のコンバージョンキックもすべて成功して、24対26と2点差に迫り23分、PGのチャンスをつかむと、キッカーのSOジャクソン・ガーデン=バショップ選手が、見事に決めて27対26、ついに逆転に成功した。

しかし、スティーラーズもさすがに上位が常連の強豪。その後の攻撃をすぐさま、得点につなげる。ライナーズディフェンスの一瞬のスキをついて、WTBの山下楽平選手がトライ。ゴールも決めて、27対33と再び6点のリード。

再逆転には、トライとトライ後のゴールが必要なライナーズ。残り時間、10分あまり、迫力満点の攻撃を見せるが、神戸も粘り強くディフェンス。両チームの息詰まる攻防が続いた。

そして、後半40分をすぎてロスタイムに突入したラストワンプレー、相手陣ゴールライン近くのマイボールラインアウトの最後のチャンスが、ライナーズに訪れた。
「FW陣は、みんな飢えている眼をしていた。バックス陣に確認したら、ここはFWでしょうという雰囲気があった。最後の大事な局面で、みんなが同じ方向を見ていてよかった。」と野中キャプテンが語ったこの場面。

選択したのは、ラインアウトからのモール。そのモールをFW陣が、渾身の力を振り絞って、一体となって押し込んだ。最後はチーム一筋13年目、35歳のHO樫本敦選手が、インゴールに飛び込んでトライ。

「行ける! と思って、ボールを持ち出した。一人ではなく、横に野中主将もついてくれていたので安心して突っ込めた。」

最後の最後で1点差に詰め寄る そして歓喜の瞬間が訪れた

「大観衆の声援がピタリと止まった。今日一番、静寂の中、集中して望めたゴールだった。」と語ったジャクソン・ガーデン=バショップ選手が、逆転のコンバージョンキックを鮮やかに決めて、ノーサイド。

34対33 劇的な展開で、花園近鉄ライナーズがリーグワンのディヴィジョン1
初勝利を飾った。

ライナーズの水間良武ヘッドコーチは「これまで苦しい戦いが続く中でも、キャプテンの野中がチームをひとつにして、力を結集してくれた結果」と答えた初勝利。

名前の挙がった野中主将は「たかが1勝といわれるかもしれないが、自分にとっては忘れられない1日になった。」と語った、花園近鉄ライナーズの歴史に刻まれる一戦。

チームスポーツにとって、お互いを信頼することの大切さ。選手は勿論、フロントやコーチ陣、会場も。チームが一つになる無限のチカラを、改めて教えてくれた貴重なゲームだった。

コラム:宮前徳弘