阪神甲子園球場に併設された『甲子園歴史館』。
 その中に、阪神タイガースや高校野球のコーナーと並んで、特別な存在感を示している一角がある。
 アメリカンフットボール大学王座決定戦(現在は全日本大学選手権決勝)、「甲子園ボウル」の歴史が彩られたコーナーだ。そこには、聖地で相まみえた歴代の出場校のユニフォームやヘルメットが飾られている。全国の高校球児が甲子園に立つことを夢見るように、大学でアメリカンフットボールを志したものにとっても、甲子園はまさに夢舞台なのだ。だからこそ、聖地にはとてつもないエネルギーと多くの人の思いが込められている。

 私がそのすごさと重さを痛感したのが、毎日放送に入社した三十数年前、初めて、責任者として担当させていただいた「激突!!甲子園ボウル」という、甲子園ボウルに向かう両チームのシーズンを通しての足跡を追ったドキュメンタリー番組だった。
 そこで目にしたのは、「甲子園ボウル」にたどり着くために、学生生活の大半をフットボールの向上にそそぎこむ選手たちの姿。寝る間も惜しんで彼らを全力でサポートする分析スタッフやトレーナーの奮闘。雨に打たれ、泥んこになりながらも、学生と汗を流すコーチ陣の熱情。人生をかけて、部員たちを甲子園に導こうとする熱き指導者の思いだった。
 それだけではない。恐ろしいほどの時間と情熱を注ぎこみながらも、あと一歩のところで甲子園への夢を絶たれたライバル校たちの執念も背負って、彼らは甲子園のフィールドに立っていた。

 それから数十年、当時人気絶頂のボブ・サップさんに盛り上げをお願いして放送させていただいた王者・関西学院大学の戴冠をはじめ、京都大学の連覇や、立命館大学の初優勝、日本大学の復活劇、試合中の映像を使って即座にCMを作成した関学対法政のラストワンプレーの明暗など、数多くのドラマに立ち会わせていただいた。
 そんな時いつも感じていたのは、甲子園ボウルには驚くほど多くの人の思いが込められているという事実。同時に、アメリカンフットボールは、本当の意味でのチームスポーツだということだ。
 選手は勿論、コーチ陣やサポートスタッフ。ひいては、父兄やOB、チームにかかわるすべての人の思いが集まって、甲子園ボウルという至極の空間が形成されている。しかも、その勝敗は、あらゆる事態を想定して、一人一人が役割を果たし、まさに全員が一丸となってとことんまで準備してきたチームが、はじめて栄冠を手にすることができる舞台になっている。
 だからこそ、甲子園ボウルは当時も今も、関西の学生スポーツの中で最も集客力があるイベントとして輝き続けている。

 77回を迎える今回の甲子園ボウル。
 歴史が語るように、大学として、アメリカンフットボールにほとばしる情熱と、とてつもないエネルギーを注ぎ込こんできた関西学院大学KGファイターズと、部員200人、すべての入部希望者を受け入れ、3割を占めるアメフト未経験者とともに膨大な時間と熱意をかけてチームとしての一体感を熟成してきた早稲田大学ビッグベアーズが激突する。
 今年はどんな想いが激突するのか、どちらの準備が聖地で花開くのか。
 夢舞台から目が離せない。

MBS制作スポーツ局 宮前徳弘