「努力をすれば、チームはよくなり結果がついてくる。そういう信念をもって監督をやってきた」

激闘を終えたあと、京都サンガの曺貴裁(チョウキジュ)監督は、こう答えた。2022年11月13日に小雨降りしきるサンガスタジアム by KYOCERA。試合終了を告げる、長い、長いホイッスルが鳴り響く。その瞬間、ピッチに倒れこむロアッソ熊本の選手たち。

京都サンガの選手たちは、安どの表情を浮かべた後、抱き合って喜びを分かち合った。「J1」16位の京都サンガとJ2のプレーオフを勝ち抜いたロアッソ熊本、若きJリーガーたちの未来をかけ戦いは、レギュレーションの結果、今シーズンをJ1で戦い抜いた京都サンガが残留を果たした。それは、まさに「正しい努力」を積み重ねてきた両チームが見せた至極の一戦だった。

スタジアム史上最高の1万8207人の観客が詰めかけた大一番。開始前から両チームのサポーターによるチャント(応援歌)が鳴り響く、最高潮のボルテージの中でスタートする。勝たなければいけないロアッソと引き分けでも残留が決まるサンガ。両チームの思惑が交錯する中、仕掛けていったのはロアッソ熊本、いつものように、狭いエリアに人数をかけてボールを奪いに行く。しかし、京都の選手は、焦らない。複数の選手に囲まれたとしても、個々の高い技術とJ1で経験してきた強度で ボールを前に運んでいく。

今までのように簡単には、ボールを奪えないロアッソ。それでも、選手たちは、一切ひるまない。大木武監督とともに、長い時間をかけて積み上げてきた自信をもとに、さらに強度を高めてボールを奪いにいく。

そして、ひとたびボールを奪うと、複数の人間が思い切って飛び出しパスコースを創出、築き上げてきたコンビネーションでチャンスをつくりだしていく。しかし、ここでも、サンガの選手が立ちふさがる。DF麻田将吾選手がギリギリのところでシュートをブロックすると、GK上福元直人選手は、杉山直宏選手の強烈なミドルシュートを左手1本で好セーブ。両チーム無得点のまま試合は進んでいく。

「みんながつないでくれたボール、責任をもって決めようと思った」

すると39分、サンガが一瞬のチャンスをものにする。上福元選手からのゴールキック、中盤の選手が競り勝って前にボールを運ぶと、前を向いてボールを受けたキャプテンの松田天馬選手が、うまくディフェンスの背後に回ったFWの豊川雄太選手へ、絶妙のループパス。豊川選手は、ゴールキーパーが飛び出してくるところを、冷静に浮かせて、ゴールに流し込んだ。

「みんながつないでくれたボール、責任をもって決めようと思った」と豊川選手が語った一撃。これぞ、まさにJ1。決めきる力をみせつけて、京都が先制点を奪った。

ここから試合は、京都ペースに。サイドが変わった後半も、45分、50分、55分と立て続けにチャンスを作り出していく。ところが、「勝ちたいという気持ちが強すぎて、ミスが多かった」と曺監督が語ったように、大事なところで追加点が奪えない。

すると57分、大木監督が動いた。FWの坂本亘基選手に変えて、ターレス選手を投入。ターレス選手の強引な突破を軸に、徐々にサンガを押し込んでいく。ロアッソの武器であるコーナーキックのチャンスを何度もつくりだしていった。

そしてつかんだ68分のコーナーキック。キャプテンの河原創選手の精度の高い早いボールに、DFのイヨハ選手がニアで合わせて、ついに、京都サンガの固いゴールをこじ開けた。これで1対1。それでもまだ同点、昇格の為には、勝利が必要なロアッソは、勢いに乗って、さらに攻勢を強めようとする。

その空気を肌で感じたホームチームのサポーターが、会場のムードを変えていく。一段とヒートアップした声援で、サンガの選手たちを後押し。すると、今度は京都ベンチが動いた。曺監督が、「あらかじめ、こういう展開になることも想定していた」と語ったように 直後の70分、3人の選手を交代。

ターレス選手への対応として本多勇喜選手を投入、ディフェンスの枚数を増やすと、前線には、単独でも突破ができるピーター・ウタカ選手を送り込んだ。この交代で、より戦い方が明確になったサンガ、一気に攻めてくるロアッソの勢いを止めると、一人一人が体を張った粘り強い守備で対応。落ち着いた試合運びで、熊本に大きなチャンスをつくらせないまま、試合は、ロスタイムに突入していく。それでも勝利への執念を見せるロアッソは、リスク覚悟で人数多をかけて攻め込んでいく。残り時間わずかなところで、ついにコーナーキックのチャンスをつかんだ。

「サンガの未来をつなげることができた。これまでの努力が最後に助けてくれた」

当然にようにゴールキーパーの佐藤優也選手も攻撃参加。最後のチャンスにかけて、河原選手が精度の高いコーナーキックをけりこんだ。佐藤選手を狙ったボールは、何とか跳ね返したサンガだったが、クリアしたボールは、熊本の平川玲選手の足元へ、強烈なシュートがサンガゴールに襲い掛かる。しかし、この至近距離からのシュートを、FWのピーター・ウタカ選手が顔面でブロック。

「あの場面、僕のやるべきことはわかっていた。迷わず顔を突き出した」と語ったように、この3年間、FWとして得点を量産してきたスタライカ―が、ゴールに値するディフェンス。ぎりぎりのところで失点を阻止した。

それでも、まだドラマは終わらない。なんとかブロックしたボールがこぼれたところを拾ったのが、またしても平川選手。今度は、すこし右に持ち出して、シュートコースをつくると、ペナルティーエリアの外から、GKの上福元選手も反応できない位置へ鋭いシュートを放った。

しかし、ボールは無情にもゴールポストに阻まれて、ゴールならず。目の前で、見つめていたロアッソのサポーターも、思わず崩れ落ちた。そして、ロスタイムの4分が過ぎたところで、ついにタイムアップ。

雨中の決戦は、京都サンガに女神がほほ笑んだ。

「これで、サンガの未来をつなげることができた。これまでの努力が最後に助けてくれた」とキャプテンの松田天馬選手が語った未来をかけた大一番。お互いが、自分たちのサッカー信じて、築き上げてきた力をぶつけあった一戦は、「努力し続ければ、必ずチームは強くなる」その言葉が正しいことを、あらためて気づかせてくれた好ゲームだった。