京都サンガのサッカーが面白い。試合開始からパワー全開。ピッチ全体を走りまくる。とにかく、全員守備の全員攻撃。前線の選手が、自陣深く迄戻ってディフェンスをすると、最終ラインの選手は、思い切って、相手のペナルティーエリア付近まで進出する。攻守とも、人数をかけるサッカーを展開しているのだ。

京都の高いテンションに、必然と相手チームもヒートアップ。ピッチのあらゆるところで、激しいボールの争奪戦が巻き起こる。先日も、試合終了後には、両チームの大半の選手が、ピッチに膝をつくほどの大熱戦が、繰り広げられた。そんな選手たちを、ホームのサポーターがさらに盛り上げていく。歩調のとれた拍手で選手たちを鼓舞。紫のユニフォームで彩られたサンガスタジアムの一体感あふれる雰囲気は、今やJリーグの一つの風物詩だ。

「自分たちのサッカーを信じ貫き続ける」

この「サンガスタイル」のサッカーを築き上げたのが、昨年就任した曺貴裁(チョウ・キジュ)監督。それまで、ながらくJ2に停滞していた名門チームを、12年ぶりにJ1の舞台に押し上げた。その原動力は、何だったのか?勿論、監督をはじめとした首脳陣の分析力、戦術眼、チーム構築の力も見逃せない。ただそれ以上に大きかったのが、選手たちが、自分たちのサッカーを信じて、貫き続けたことだ。「このサッカーを続けていけば、必ず自分たちは、成長できる。強くなれる。」という想いが、選手たちの心に火をつけたからにほかならない。だからこそ、J2の長い闘いを勝ち抜き、J1の猛者相手にそん色なく戦えているのだ。

「サポーターとともにつくりだす空気感を大事にしたい」

Jリーグが始まって30年。今年3月、6代目のチェアーマンに就任した野々村芳和氏は、就任の際こう述べた。

「サッカーは作品。スタジアムを含めたJリーグの試合が、サポーターやファンとともにつくりだす力(空気感)を大事にしたい」

スポンサーへの配慮、ガバナンス整備といったビジネスの側面も大事だが、原点に戻って、各クラブが、それぞれのアイデンティティーを発揮して醸し出す、スタジアムでの空気感を、大切にしたいと訴えたのだ。

ガンバ・セレッソ・ヴィッセルとの違いは…

関西でいえば、オリジナル10(1992年、Jリーグ発足時に参加した10チーム)の1つであるガンバ大阪は、その誇りを胸に、徹底的に勝利にこだわるサッカーを展開。どのチームよりも厳しいサポーターとともに、栄光の歴史を築き上げてきた。

同じ大阪のライバルでセレッソは、セレッソファミリーの名のもと、一体感のあるサッカーで積極的に若手選手を起用。香川真司選手や南野拓実選手といった数々の才能あふれる選手を輩出してきた。

それに対し、ヴィッセル神戸は、「バルサ化」を念頭に掲げて、スペインの至宝、アンドレス・イニエスタ選手をはじめ、多くのスター選手を獲得。前線のタレント力を武器に魅せるサッカーで結果に結び付けてきた。

他の3クラブに比べて、これが京都、というサッカーを表現できなかったサンガだが、全員守備、全員攻撃のアグレッシブのサッカースタイル。かつ京都の中心部から少し離れた亀岡のサンガスタジアムがつくりだすチーム愛に満ちた空間は、今、京都サンガのしっかりとした個性を引き出している。

世界のどのリーグよりも、各チームの力が拮抗しているといわれるJリーグ。だからこそ、クラブのアイデンティティーにこだわって、貫き通せるかが、激しい闘いを勝ち抜けるかどうかの鍵になっている。実際、今シーズンも、けが人やアクシデントの続出で方向性が定まらず苦しむガンバに対し、セレッソは、改築をへてサポーターとの距離感も近くなったヨドコウスタジアムで、若手選手が躍動。リーグは勿論、カップ戦でも好調をキープしている。前半戦、最下位に沈んだ神戸は、前線の攻撃(タレント)力を活かす本来のスタイルを取り戻したことで、ようやく復調の兆しを見せている。

かつては、三浦知良選手も在籍。松井大輔選手や韓国代表の朴智星(パク・チソン)選手といった名選手が集合、天皇杯のタイトルも手にして京都サンガが、長い雌伏の時をへて、ようやく手にしつつある「サンガスタイル」。亀岡に駆けつけてくれるサポーターとともに築き上げつつあるクラブのアイデンティティーを、ぜひとも貫いてほしい。

関西の4クラブが、それぞれのアイデンティティーを発揮して激突する「サッカーという作品」。来シーズンも、激戦のリーグを生き残った4チームによるスペクタクルな空間に巡り合えることを、願わずにはいられない。

MBS制作スポーツ局 宮前徳弘