今、20歳の若者が、球界を席巻している。千葉ロッテマリーンズ・佐々木朗希投手。日本は勿論、海の向こうアメリカ・メジャーリーグからも熱い視線を浴びている。何しろ、4月10日に、日本プロ野球28年ぶりの完全試合を達成すると、1週間後にも、日本ハムファイターズ相手に8回をパーフェクトピッチング。17イニングを投じて、一人もランナーを許さない、完璧な投球を続けてきたのだ。内容もすさまじい。完全試合では、日本記録の13者連続を含む19奪三振。続く日ハム戦でも14奪三振。MAX164キロの速球と140キロ台の鋭く落ちるフォークを軸に、2試合で33の三振の山を築いてきた。
関西のマウンドに佐々木朗希投手
その佐々木投手が、ついに関西のマウンドに姿を現した。舞台は京セラドーム。相手は2週間前に完全試合を達成したオリックス・バファローズ。試合前から、球場全体が、期待と興奮が入り混じるハイテンションな空気に包まれていた。
だれが、最初に記録をストップするのか?大記録を見つめていたい気持ちとオリックスを応援したいファン心理、微妙な感情が交差する中、1回裏、バファローズのトップバッターの福田周平選手がバッターボックスに入る。そして、ドラマは、突然訪れた。佐々木投手が投じた初球。159キロのスピードボールを見事に打ち返した。ストレートが来ると読んで、一切の迷いのないフルスイング、打球は1,2塁間を鮮やかに抜けていく。
「狙っていました。ちょっとでも無駄な動きをしたら前にとばない。より一層集中しました」
ついに途切れた大記録。それでも、佐々木投手は、顔色一つ変えない。むしろ重圧から解き放された安堵感が漂った。それは、バックを守る野手陣も同様。パーフェクトが続く限り、絶対にエラーは許されない。そんな緊張感からの解放がスーパープレイを生む。1アウト1塁2塁、オリックスの主砲、吉田正尚選手が怪物から放ったレフト前ヒットの場面、レフトの高部瑛斗選手が矢のような好返球を魅せる。2塁走者は、俊足の福田選手、普通ならセーフのタイミングだが、正確無比な送球でホームタッチアウト。佐々木投手の無失点イニング継続を手助けした。
続く2回表、ロッテが3点を奪取。その裏、勢いに乗りたいところだが、ヒットを許しても感情を表に出さなかった佐々木投手の表情が崩れた。ツーアウト1塁、2ストライクと追い込んでオリックスの9番バッター安達了一選手に投じた外角低めへのストレート。自分では、完全にストライクとおもい、そのままマウンドを降りようとする。しかし、白井一行主審の判定はボール。思わず後ろを向いてしまう。これを見ていた白井氏が、ただならぬ形相でマウンドに詰め寄ろうとした。
ストライク・・ボールの判定に対して、審判に不服を示すことは許されない。自信をもって下した判定に、佐々木投手が不満を表したと思ったのだ。一色即発のムードが漂ったが、ここでロッテのドラフト1位ルーキー、松川虎生捕手が18歳とは思えない冷静な対応をみせる。ふたりの間に入って、直接のやり取りを阻止、事なきを得た。
オリックス打線が見せたプロの意地
なんとかこの回も切り抜けた佐々木投手だが、ストライクゾーンをめぐる審判との感覚との違い。緊張した状態が続いた疲労、その上のオリックスの粘り強い攻撃に、徐々に追い詰められていく。4回には佐々木投手の額に大粒の汗が浮かび上がった。そして5回、この回はあきらかに制球が定まらない。先頭の安達選手にライト前にはこばれると、福田選手にはストレートのファーボール。さらに西野真弘選手にも追い込んでからファールで粘られてファーボールを与えてしまう。ノーアウト満塁。粘って、粘って、つないで、つないでくるオリックス打線の圧力が、佐々木投手から投球のリズムを奪っていった。
むかえたバッターは3番の紅林弘太郎選手。打球は、ピッチャー左への強いゴロ、なんとか好捕した佐々木投手だが、体が反転したいきおいのままセカンドへ送球してしまう、ダブルプレーの間に、ついに1点を奪われた。本来なら、ホームへ送球して得点を防ぐ場面だが、心身の消耗が、一瞬の判断を遅らせたのだ。なおも、2アウト3塁、ここで4番の吉田選手が、今度は左中間を破る文句なしのタイムリーツーベースヒット。完璧に抑え込まれたゲームから2週間、オリックス打線が、プロの意地をみせて、令和の怪物を打ち崩した。
「コンパクトに振りぬくことを心掛けた。コーチから、バットを2握りほど短くもつように指示された、それを全員が徹底した結果」と試合後に語った吉田選手。いくら怪物とはいっても、同じ相手に連続して完璧に抑えられるわけにはいかない。佐々木朗希投手という強烈な存在が、チーム一丸となって全員で戦う、昨年の猛牛の強さを目覚めさせたのだ。
5回を終わって3対2、注目のヒーローは、マウンドを降りたが、なおも両チームの勝利にかける執念が、我々の視線を釘づけにしていく。勢いに乗って試合をひっくり返そうとするオリックスと、必死の継投でしのぐロッテ、昨年優勝を争った両チームが緊迫の展開を演出していく。7回には2アウト満塁で、オリックスの新外国人バレラ選手のライト前に抜けようかというあたりを、セカンドの中村奨吾選手が横飛びで超ファインプレー、ヘッドスライディングで一塁に飛び込むバレラ選手。両チームの気迫のこもった好プレーの応酬が球場を盛り上げた。
9回に、ロッテが3点を追加、勝負は決したかに見えたが、それでもオリックスは、あきらめない。ロッテの守護神・益田直也投手を攻めて1アウト満塁。ホームランが出れば同点のチャンスを作り出す。ここで、バッターボックスには、昨年のホームラン王・杉本裕太郎選手。今シーズンは不調に悩んでいる杉本選手だが、粘りに粘る執念を見せる。10球粘ったが、最後はセンターへの犠牲フライ。敗れはしたものの、杉本選手の悔しそうな表情が、粘り強く、決してあきらめないオリックスの強さ、これからの快進撃を予感させた。
楽しみな次の対戦は?
一方、開幕からローテーションを守ってきた佐々木投手は、この試合のパフォーマンスをみて井口資仁監督が、翌日に登録を抹消。次の登板予定を回避して、休養に充てる決定をくだした。ロッテの先発ローテーションピッチャーであると同時に、大事な球界の宝。190センチ85キロ、大柄な体ととはいえ、あれだけの剛球を投げ続けるのは、相当な負担がかかる。疲労が見られた時、成長途上な肉体に過度な負荷がかからないよう細心の注意を払ったのだ。
次のオリックス対ロッテ戦は5月13日からの3連戦、井口監督が佐々木投手の起用を明言している日曜日にも試合が組まれている。心身ともにリフレッシュした令和の怪物が再び歴史に残る快投をみせるのか、それとも、本来の戦い方を取り戻しつつある昨年のリーグチャンピオンがその強さを見せつけるのか、次の対決が、ますます楽しみになってきた。
MBS制作スポーツ局 宮前徳弘