MBS(毎日放送)

特別展 藤田嗣治×国吉康雄:
二人のパラレル・キャリア
―百年目の再会

2025/6/14~8/17

概要

20世紀前半の海外で成功と挫折を経験した二人の画家、藤田嗣治(1886-1968)と国吉康雄(1889-1953)が、ともにフランス・パリに滞在した1925年から100年目になることを機にした特別展「藤田嗣治×国吉康雄:二人のパラレル・キャリア―百年目の再会」を2025年6月14日(土)~8月17日(日)の会期で開催いたします。巡回なし、兵庫県立美術館のみの展覧会です。
藤田嗣治は、東京美術学校卒業後26歳で単身フランスに渡り、1920年代、「素晴らしき乳白色の下地」と称賛された独自の画風によって、エコール・ド・パリの寵児としてフランスでの名声を確立します。
国吉康雄は16歳で渡米、画才を認められて研鑽を積み、アメリカ具象絵画を代表する画家としての地位を築きました。
パリとニューヨークで活躍した二人の画家は、1925年と28 年のパリ、1930年のニューヨークで接点を持ちますが、太平洋戦争によりその関係性が破綻します。
終戦後、1949年の10カ月を藤田はニューヨークで過ごしますが、現地にいた国吉との再会は叶いませんでした。
日本とフランス、日本とアメリカ、二つの祖国を持った二人が、それぞれどのような自覚と視座のもと作品を生み出していったのか、通時的かつ共時的に作品を対比させてご紹介します。

みどころ

1. 同時代を生きた二人の巨匠対決。9章立てで作品が対面

藤田はフランス、国吉はアメリカで日本人「移住者」の画家として歩み始め、1925年と28年のパリ、1930年と49年のニューヨークで接点を持ちながら、平行した人生を送りました。本展では、母国への一時帰国や日米開戦下の制作、さらに、戦後の藤田のフランス永住と国吉の死までを扱う9章によって二人の作品を対比させながら、時系列に紹介します。

2. 藤田嗣治と国吉康雄の代表作が神戸に集結!

1975年に兵庫県立美術館の前身である兵庫県立近代美術館で別々に個展を開催して以来、二人の作品をまとめて紹介するのは神戸では50年ぶりとなります。国内主要コレクションから代表作が一堂に会する本展は、それぞれの個展としてもお楽しみいただける、充実した内容となっています。

3. 巡回なし!兵庫県立美術館のみの単独開催

本展は他館への巡回のない、神戸でのみ実現する特別展です。

4. 戦後80年にあたる2025年、戦争に翻弄された二人の軌跡を辿る

当時、まだ日本で知名度の低かった国吉を日本画壇へ紹介するため、藤田は1931年に画家の有島生馬(1882-1974)に手紙を送っています。しかしその後、日米が開戦すると、日本で「作戦記録画」を担った藤田と、アメリカで民主主義を信じて制作を続けた国吉は、それぞれ全く異なる道を進みます。1949年に藤田はニューヨークに1年弱滞在しますが、二人が再会することはありませんでした。

略歴

藤田ポートレイト(中山岩太).jpg

藤田嗣治(ふじた つぐはる)1886-1968

1886年東京府生まれ。画家を志し、1905年東京美術学校西洋画科に入学。
1913年に単身渡仏。
1919年のサロン・ドートンヌで全点が入選を果たし、会員に選出される。
1921年に発表した裸婦像の「素晴らしき乳白色の下地」が称賛を集める。以後、エコール・ド・パリの寵児として知られる。
1929年に日本に一時帰国後、中南米滞在を経て1933年から再び日本で暮らした。
翌年に二科会員となり、中南米や日本の風土を題材とした絵画や壁画を手がけた。
1939年に再渡仏するが、第二次世界大戦の戦況悪化のため翌1940年に帰国し、戦時中には「作戦記録画」を制作した。
戦後、1949年に渡米、翌年フランスに帰還し、永住を決意する。
1955年にフランス国籍を取得。
1959年にはカトリックの洗礼を受け、1968年に死去。

(写真)中山岩太《ポートレイト(藤田嗣治)》
1926-27年 中山岩太の会蔵
© Fondation Foujita/ ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2024  X0359

国吉康雄(くによし やすお)1889-1953

1889年岡山市生まれ。1906年に労働移民として単身渡米。学校の教師に勧められ美術の道に進む。
1916年からニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグで学んだことが転機となり、初期作は東洋的画題と西洋的技法の融合した独自の表現として評価を受けた。
友人で画家のパスキンの勧めで1925年と28年に二度渡仏。「ユニバーサル・ウーマン」と呼ばれる女性像を描き人気を博す。
1931年に母国に一時帰国し、個展を開催。同年に二科会員となり、翌1932年に二科会へ出品。
1941年の太平洋戦争勃発後、日米間の対立に苦悩する心中が投影された作品を描いた。
1948年にホイットニー美術館で現存作家初の個展を開催し、1952年にヴェネツィア・ビエンナーレアメリカ代表に選出。
アメリカ市民権を申請中の1953年に死去。

(写真)Max Yavno《「逆さのテーブルとマスク」を制作中の国吉康雄》
1940年頃 福武コレクション

国吉康雄.jpg

出品作品紹介

2章_藤田_タピスリーの裸婦_1923.jpg


1章_国吉_夢_1922.jpg

藤田は1920年代初頭に東西の絵画技法を融合し、「乳白色の下地」に描いた女性像で注目を集めた。本作は、フランス更紗と呼ばれる装飾的な手染めの布と白い肌の対比によって、両者の繊細な美しさが際立つ。
1923年サロン・デ・テュイルリー出品作。

作品① 藤田嗣治 《タピスリーの裸婦》 1923年
油彩・カンヴァス 126.0×96.0cm 京都国立近代美術館
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2024 X0359

アメリカで美術を学んだ国吉は、フォーク・アートに見られる鳥瞰図的技法を取り入れた。モチーフとしてよく描いた牛や子供の姿をデフォルメし、空間に奥行きを持たせた作品は、西洋と東洋の融合した表現として評価された。

作品② 国吉康雄 《夢》 1922年 油彩・カンヴァス
51.5×76.7cm 石橋財団アーティゾン美術館

3章_藤田_舞踏会の前_1925.jpg

2章_国吉_幸福の島_1924.jpg

舞踏会の出番を待つ女性たちの足元には様々な仮面が散在している。中央が1923年に出会い、のちに妻となるユキ、小柄な着衣の女性はロシア人の造形作家、マリー・ヴァシリエフである。
1925年サロン・デ・テュイルリー、1929年の日本初個展の出品作でもある。

作品③ 藤田嗣治 《舞踏会の前》 1925年 油彩・カンヴァス
168.5×199.5cm 公益財団法人大原芸術財団 大原美術館
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2024 X0359

国吉の初期の女性像の特徴をよく示す代表作である。
デフォルメされた表現は官能的というよりも笑いを誘うこともあったが、子宮内の胎児を思わせる構図と女性の表情、腹部から芽吹く枝や貝殻などを組み合わせることで、独自の官能表現を生み出した。

作品④ 国吉康雄 《幸福の島》 1924年 油彩・カンヴァス
60.9×76.2cm 東京都現代美術館

5章_藤田_猫のいる静物_1939-40.jpg

5章_国吉_逆さのテーブルとマスク_1940.jpg

1939年に日本から再び渡仏した際に手がけた静物画には、猫とシジュウカラが描かれている。フランス語の「静物画」は「死んだ自然(la nature morte)」と呼ばれるが、生と死、静と動が対比されている。
1940年第27回二科展への出品作。

作品⑤ 藤田嗣治 《猫のいる静物》 1939-40年 油彩・カンヴァス
80.6×99.9cm 石橋財団アーティゾン美術館
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2024 X0359

足の欠けた逆さまのテーブルの上に、仮面、定規や花瓶が不均衡なバランスを保っている。新聞には第二次世界大戦についてのニュースが報じられているのかもしれない。
静物画の題材に独自の意味を持たせた国吉の代表作であり、ニューヨーク近代美術館旧蔵。

作品⑥ 国吉康雄 《逆さのテーブルとマスク》
1940年 油彩・カンヴァス 153.0×89.5cm
福武コレクション

8章_藤田_ラ・フォンテーヌ頌_1949.jpg

6章_国吉_誰かが私のポスターを破った_1943.jpg

1949年に日本を離れ、新天地のニューヨークでの個展に向けて現地で描かれた1枚。
藤田が理想の家としてマケットも制作した部屋に暮らすのは、狐の一家である。緻密に描かれた台所の壁に、詩人ラ・フォンテーヌによる『寓話』の一場面が掛けられている。

作品⑦ 藤田嗣治 《ラ・フォンテーヌ頌》 1949年 油彩・カンヴァス
76.1×101.6cm ポーラ美術館
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2024 X0359

画家ベン・シャーンによる労働者のポスターが破られ、その前に立つ女性は戦時下の国吉の心境を投影しているかのようである。
モデルを前にデッサンした後、さらに長い時間をかけて制作することで、国吉の言う「ユニバーサル・ウーマン(普遍的女性像)」となっている。

作品⑧ 国吉康雄 《誰かが私のポスターを破った》
1943年 油彩・カンヴァス 117.0×66.5cm 個人蔵

日 程
2025年6月14日(土)~8月17日(日) 〈56日間〉
10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(7月21日、8月11日は開館し、7月22日、8月12日が休館)
会 場
兵庫県立美術館
〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1【HAT神戸内】
https://www.artm.pref.hyogo.jp/access_m/
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