海外からも人気がある京都・宇治の抹茶だが、中国で模倣品が流通しているという。これをめぐり、京都で300年の歴史を持つ宇治茶の老舗が、創業150年以上の別の老舗A社を訴えた。

 京都府宇治市、平等院へと続く参道には、名産の抹茶を求めて多くの観光客が足を運ぶ。

 (中国からの観光客)「私は抹茶のファンです。香り高くて、おいしい」
 (中国からの観光客)「抹茶はすごく有名、とくに宇治抹茶。宇治抹茶は最初に渋みがあって、徐々に甘みが出てくる」
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 江戸時代に創業した宇治茶の老舗・丸久小山園。商標登録している「五十鈴」「若竹」「青嵐」という抹茶は代表的な商品で、60年以上前から守られてきた。外国人からも大人気の商品だが、その陰で問題が起きているという。
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 (丸久小山園 小山元也社長)「うちのお茶そっくりのパッケージのものが、類似品が出回ったということがありまして」

被害おさまったはずの模倣品が再び中国で…「宇治抹茶」だけど産地「中国大陸」

 7年ほど前に中国に抹茶ブームが到来して、一時は生産が追い付かないほど人気となった一方で、模倣品が流通したのだ。京都府の茶協同組合や特許庁などが対応し、被害はおさまったとみられていた。しかし…。

 (丸久小山園 小山元也社長)「それが終わったと思ったら、今度はまたパッケージは似せてはいないんですけれども、うちの中国で売れている銘柄、例えば『五十鈴』とか『青嵐』とか『若竹』とか、そういった銘柄を使った商品が出回っているということに気付きまして。本当に恐ろしかったというか、また始まったかという、そういう感じですね」
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 2年半ほど前から同じような模倣品が中国で再び流通し始めたという。
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 その模倣品を、今年3月時点の中国の販売サイトで見てみると、大きく「宇治抹茶」と記載があり、あたかも宇治で作られたように見える。しかし産地の表記を見ると中国大陸と書かれている。

専門家が見比べ・飲み比べてみると…「全然違います」

 同じ名前の抹茶でも、宇治で作られた正規品と中国産の模倣品に違いはあるのか。取材班はお茶の専門家として多田製茶の日本茶インストラクターである多田雅典専務に比較を依頼した。まず外観を見た感想は。

 (多田製茶 多田雅典専務)「へえ…すごいな。わかんないですよね、見た感じでいくと。確かに安っぽい感じもしますけど、でも普通に売っていたらわかんないですよね、これ」
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 そして中身を見てみると。

 (多田製茶 多田雅典専務)「全然、色が違いますね。丸久小山園の抹茶のほうが緑がさえているというところと、全般的に色味が青みがかっている。しっかりとグリーンが濃いですよね。それに対して中国産の抹茶の方は全般的に色がくすんでいる。色としてもやや黄色っぽい色をしている」

 丸久小山園の商品は青みが濃く鮮やかだが、中国産の抹茶は黄色っぽくくすんでいて品質の違いが明らかだという。

 続いて実際にお茶を点てて飲んでみると。

 (多田製茶 多田雅典専務)「右半分が丸久小山園さんの抹茶、左の方が中国産抹茶ですね。中国産の抹茶は渋いですね。全然違います。丸久小山園さんの抹茶に関しては、非常にうまみが強くて、飲んだ瞬間にまろやかにうまみが広がっていく」
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 記者も飲み比べてみた。

 (記者)「丸久小山園の商品はおいしくて、私、苦いのが苦手なんですけど、あっさりしているので飲みやすいなと」
 (多田専務)「まろやかですよね。じわーっと広がっていく」
 (記者)「全然苦みが残らない感じがします。続いて中国産の抹茶は…後味が舌に苦みが残るような感じがして、苦手な人からしたら飲みにくいかなという印象ですね」
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 素人目でもわかる品質の差。こうした中国産の模倣品が流通すると業界としてもリスクがあると指摘する。

 (多田製茶 多田雅典専務)「日本のお茶屋さん各社が輸出をしようとした場合に、同じ商品名、同じブランドで並んでしまうリスクがあるってことですよね。それってすごく日本の会社からすると不幸ですよね。(本物の方が)品質は上だけれども、(模倣品は)もしかしたら日本産よりも安い価格で、自分の会社の屋号を使われてしまうということなので」

製造元のサイトには「別の宇治市の老舗A社の子会社」と記載

 製造・販売する会社はこうした問題を認識しているのか。取材を進めると、ある企業の名前が浮かび上がった。

 【去年時点の製造元の中国会社のHPより】
 『A社の中国本土における子会社である』
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 製造元である中国の会社の公式ホームページをたどると、宇治市内の別の老舗A社の子会社だと書かれていた。実際に、2年前のA社の中国版の公式ホームページには中国の販売サイトへのリンクが貼られ、「五十鈴」などの模倣品の購入が促されているのがわかる。商品を見てみると…。
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 (記者)「『五十鈴』という名前の中国産の抹茶なのですが、A社のロゴと名前が7か所に入っていまして、付属品も含めると少なくとも8か所に書かれています。『京都・宇治 A社プロデュース』と中国語で書かれています」
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 また、商品の販売サイトにはA社の紹介やA社の役員の写真があり、「宇治抹茶証明書」と書かれた画像にもA社の社名と社長の名前が記載されている。

模倣品販売元の会社関係者とA社役員が並ぶ写真も

 取材班は4年前の2019年に模倣品の販売元である中国の会社が上海でのイベントに出展した際の写真を入手した。中国の会社の関係者の隣にはA社の役員が写っている。

 宇治茶業界が揺らぎかねない事態に、宇治茶の老舗が関与している可能性があることについて、丸久小山園の小山元也社長はこう話す。

 (丸久小山園 小山元也社長)「海外であったり、日本ではないところで作られたものが宇治茶であるというふうに言われると、我々も本当に悲しくなるというか。それが本当に宇治茶なのかっていうのは、業界全体で今、宇治茶を守っていこうとしている中で、それに反する行為というか、逆行するような行為なのかなと」

A社は2年前の話し合いでは「中国の業者が勝手にやっている」と主張

 丸久小山園は去年12月、販売の差し止めと約7800万円の損害賠償などを求めA社を提訴した。A社は模倣品の製造販売に関与しているのか。この件について約2年前に丸久小山園とA社が話した時とされる音声データが残されている。

 【2021年の音声データより】(※冒認商標=海外における商標の抜け駆け出願 特許庁HPより)
 (丸久小山園)「これって冒認商標ですよね。日本国内では明らかに違反ですよね」
 (A社)「いや、だから僕らは国内ではそれ(五十鈴などは)使っていない」
 (丸久小山園)「でも中国において、日本政府としての認識では、これは冒認商標に該当しますよね」
 (A社)「いや、それはまた違うと思いますよ」
 (丸久小山園)「違うんですか」
 (A社)「はい、それはちゃんと弁護士さんに確認したほうがいいと思います」
 (丸久小山園)「そうなんですか」
 (A社)「僕らがやめてくれって言っていることを(中国の会社が)勝手にやっている」
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 A社は「中国の業者が勝手にやっていて、自分たちも迷惑をかけられている。販売には関与していない」と主張。MBSの取材に対しては「裁判に影響するため取材には応じられない」と回答した。

 日本の大切な食文化のひとつである宇治茶。これが模倣品によって揺らぐようなことになってはならない。