2月28日に始まったアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃。この攻撃で、イランを30年以上統治した最高指導者ハメネイ師が死亡しました。
対するイランも報復として、アメリカ軍基地のある中東6か国やイスラエルを攻撃。さらに、イラン革命防衛隊は、石油輸送の要衝「ホルムズ海峡」を封鎖し、通過を試みる船舶を攻撃すると警告しました。
アメリカはイランと核開発をめぐる協議を続けるはずでしたが、なぜこのタイミングで攻撃したのか、背景にある建前と本音とは…。ReHacQ戦場ジャーナリスト・須賀川拓氏と明海大学・小谷哲男教授への取材をもとに、混迷を極める中東情勢を解説します。
実質的な「戦争状態」へ、緊迫する中東

2月28日(日本時間)、イスラエルによるイラン攻撃が実施され、これにアメリカも加わる形で事態は急展開を迎えました。トランプ大統領は作戦期間について「4~5週間だと見込んできた。ただ、それよりもはるかに長い期間対応する能力がある」などと発言していて、長期化が懸念されます。
イランの人道支援団体によるとと、イラン国内の死者は少なくとも555人。さらにアメリカ側も6人の犠牲者が出ています。
日本にとって大きな脅威となっているのが、“世界で最も重要なエネルギー輸送ルート”である「ホルムズ海峡」の封鎖です。
日本時間の3日午前、イランの革命防衛隊は「通過を試みる船舶はすべて焼き払う」「一滴の石油も流出させない」との声明を出していて、付近では石油タンカーが攻撃を受ける事態も。原油高騰の打撃は避けられそうにありません。
トランプ大統領が掲げる「建前」の裏側

なぜアメリカは攻撃に踏み切ったのか。トランプ大統領本人の発言と専門家の見立てをもとに、アメリカの「建前」と「本音」の両面をみてみましょう。
まず、「建前」として挙げられるのは以下の3つです。
▼建前① 「イラン国民を助ける」(須賀川拓氏の見立て)
イランでは、記録的な物価高騰やイラン通貨の暴落により、去年末から今年1月にかけて各地で反政府デモが急拡大しました。その苦しむイラン国民を、現体制から救い出すという人道的な文脈です。
▼建前② イランの「核開発阻止」(須賀川氏の見立て)
平和利用ではない核開発を容認できないとする中で、合意に至らない核開発協議への痺れを切らしたことが背景にあるのではないか、とも言われています。
▼建前③ 「イランはテロ支援国家」→脅威除去が目的(小谷哲男教授の見立て)
1979年のイラン革命以降、敵対関係にあるアメリカとイラン。そうした中、イラン国内でのデモ拡大に加えて軍事力が低下している今が好機だと捉えているのではないかという見方です。
一方で本音は…自身の支持基盤やビジネス事情も?

では本音はどこにあるのか、専門家の見解は次の通りです。
▼本音① 中間選挙を控え支持基盤を固めるためか(須賀川氏の見立て)
共和党の大票田である「キリスト教福音派」(アメリカの4人に1人が福音派)は親イスラエル層。その支持を繋ぎとめるために、イスラエルに寄り添う姿勢を鮮明にする必要がある、というのが須賀川氏の見立てです。
▼本音② レガシー作りか(小谷教授の見立て)
オバマ政権時の「10年はウランの濃縮停止」という核合意(2015年)を上回る「無期限の停止」、さらには「弾道ミサイルの制限」「ハマス・ヒズボラなどの国外武装組織の支援停止」などを勝ち取り、歴史に名を残す成果を残したいのではないかという見解を小谷教授は示しています。
▼本音③ “トランプファミリー”の中東ビジネスねらい?(小谷教授の見立て)
トランプ大統領の関係者がビジネスとして目論んでいると言われている、ガザなど中東での不動産・IT企業による都市創り。イランとの協議の最前線に立つウィットコフ中東担当特使やクシュナー氏(トランプ大統領の娘婿)が共に中東不動産ビジネスに関与していて、戦後復興を見据えたファミリーの利益という側面があるのではないかという見解です。
イスラエルの事情は?ネタニヤフ首相の「保身」も?

攻撃を主導したイスラエル側にも「事情」がありそうです。
反米・反イスラエルを掲げるイランは、過去に当時の大統領が「地図上から抹殺したい」と発言したほか、ハマス・ヒズボラ・フーシ派などの武装組織を介してイスラエルを攻撃した事実もあり、イスラエルにとっては「いつかやらないとやられる相手」。
そうした中で今、イランはイスラエルとの“12日間戦争”(去年)により防空システムの再建や国外武装組織の弱体化に追い込まれています。イスラエルとしては、今ならアメリカの協力も得られるかもしれないことから、千載一遇のチャンスという状況が大前提にあります。
しかし、今回の攻撃の裏には、そうした前提だけではない、イスラエル・ネタニヤフ首相の個人的な事情も見え隠れします。
ネタニヤフ首相は現在、収賄などの罪で裁判中であり、10月の選挙で敗北すれば収監される可能性があります。そのため、あえて“敵”を作り出し、「戦時のリーダー」として国民の支持を集めることで狙っているのではないかと須賀川氏は見立てています。
収束へのシナリオは?過去の戦争から見る「泥沼化」リスク

今後の展開について、トランプ大統領は体制転覆まで視野に入れているとされますが、須賀川氏は楽観的な見方に疑問を呈しています。イランの統治システムは空爆だけで壊せるほど単純ではなく、かつてのイラク戦争のように「収束のシナリオがないまま泥沼化する」リスクも孕んでいるためです。
小谷教授は「核協議を再開し交渉で進めていくしかないのでは」との見方です。ハメネイ師の排除によりイランの歩み寄りがあれば、トランプ大統領が譲れない「ウランの濃縮の無期限停止」の交渉が進む可能性もあります。
一方で、アメリカとイランの核協議が前進すると、イスラエルがイランを攻撃するおそれも。そのため、イスラエルに対しては武器の供与を停止するなど、アメリカが中東をまとめるには、両睨みで見ていく必要があるのではないかということです。
現地の真実が見えにくい中、私たちは指導者たちの「建前」に惑わされることなく、国際社会の動きを冷静に注視し続ける必要があります。
(2026年3月3日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)