衆議院選挙で歴史的な圧勝をした自民党。これまで力を持った政権というのは、その後どう政治を進めていったのか。「積極財政」や「憲法改正」など共通する政策も多く、高市政権のヒントが過去の政権にありそうです。
一方で、安倍政権と高市政権を比べてみると、もちろん異なる点もあります。経済環境や連立相手、官邸を守った「チーム安倍」に代わる「チーム高市」はいるのか。これは安倍政権の再来となるのか、それとも似て非なるものなのか。
高市政権の今後を政治ジャーナリストの今野忍氏(元朝日新聞政治記者)の見解を交えて解説します。
過去の選挙で“圧勝”した政権を振り返る

今回の選挙の結果を見ると、自民だけで316議席と戦後最多議席を獲得するなど圧勝でした。連立与党としては維新の36議席を足して352議席と、全議席の4分の3の議席を獲得しています。
過去の圧勝と言われる選挙では…
▼2005年:小泉政権で296議席(公明31 計327)
▼2009年:民主党・鳩山政権で308議席
▼2012年:第2次安倍政権で294議席(公明31 計325)
▼2014年:第3次安倍政権で291議席(公明35 計326)
▼2017年:第4次安倍政権で284議席(公明29 計313)
連立を組んでいた自公合わせると3分の2以上の議席を獲得していました。
経済政策で選挙に勝つ→反対する人も多い政策を通す
民主党政権時は、リーマンショックや東日本大震災があり、やりたいことができたとは言えないかもしれません。しかし、他の政権ではやりたい政策を強く推し進めました。1つずつ見ていきます。
◆2005年:小泉政権の大勝「郵政民営化」
自民党内の抵抗勢力もあり参議院で否決
↓
衆議院を解散
↓
反対派に刺客候補を送るなど、衆院選で大勝
◆2012~:安倍政権の大勝と政権実行
・2013年 経済政策の大転換「アベノミクス」
・2013年 7月の参院選で勝利し、12月「特定秘密保護法」を強行採決
・2014年 3党合意していた消費税8%の増税を延期
・2015年9月 安全保障関連法(集団的自衛権など)強行採決反対派がデモ
・2017年 共謀罪法 法務委員会での採決省略 強行採決
過去の実績を見ても選挙結果を受けてやりたいことを通していました。
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(今野忍氏)
「2015年の安保法制が印象に残っています。5000人ぐらいのデモがありました。安倍総理は『安保法制』と『共謀罪』の前にまず必ず衆議院解散をやっているんです。アベノミクスや消費税の延期だったり、経済政策を訴えることで選挙で勝ち、そのアセット(財産)を使って、国論を二分する政策を行うのが安倍総理の方式なんです」
―――国民から支持を得る、応援してくれそうな経済政策でまず選挙に勝つ。勝った後で、反対する人も多い政策を選挙後にすぐに通す
(今野忍氏)
「そうですね。公約には書いてはいますが、『集団的自衛権やります』、『共謀罪やります』ということは街頭演説などで訴えてはいないんですよね。高市総理も同様で『スパイ防止法』や『皇室典範の改正』などはあまり街頭では言っていません。『責任ある積極財政』、これはアベノミクスと一緒ですよね」
―――安倍総理のやり方を高市総理は真似ていると
(今野忍氏)
「私はそう見ています。安倍総理のやり方を一番近くで見ていたのが高市総理ですから」
「“3分の2での再可決”はトランプでいう“ジョーカー”」今野氏は指摘

実際に高市総理は、給付付きの税額控除実施までのつなぎとして、食料品消費税ゼロ(2年)はやりたいとしていて、夏前までには中間取りまとめを行いたいと発言しています。
その他にも…
・責任ある積極財政
・安全保障政策の強化
・インテリジェンス機能の強化
・危機管理投資
・防衛費増額
・国家情報局の創設
など高市総理の政策の中には賛否が分かれる可能性があるものもあります。
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参議院で過半数に達していない現状では、与党は好き勝手することはできないのではないかと思いきや、実は政策を通すルールがあるのです。
現在、参議院では与党の自民党・維新で計120議席となっていて、過半数には5議席足りない状況です。ただ、衆議院で法案が通った後、参議院で否決され、再び衆議院に戻ってきた際、3分の2以上の議決があれば再可決される「衆議院の優越」というルールがあるため、法案を通すことができます。
しかし、「3分の2で再可決」に関して、「ルールで決まってるからOK」、「参議院の軽視では?」という議論があります。そもそも憲法は、3分の2の実現を想定していないことが考えられます。いまは小選挙区制のため3分の2が実現していますが、かつては中選挙区制でした。さらには“解散権の解釈”も賛否があるところです。
―――「3分の2での再可決」は、かなり強引なためやるかどうかは別ですね?
(今野忍氏)
「これはトランプでいう“ジョーカー”だと思ってもらえればと思います。切り札であることは間違いないですね。参議院が本当に言うこと聞いてくれないならいざという時は使うぞ、と」
高市政権のお手本は“師”と仰ぐ安倍政権か…共通点は?

次に、高市総理が師と仰ぐ安倍総理の共通点と違いを見ていきます(政治ジャーナリスト・武田一顕氏より)。
◆共通点 その①
「アメリカと良好関係」
「中国とは一定の距離感」
→このことが結果的に高い支持につながっています。
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◆共通点 その②
「国会との向き合い方」
・1年の半分近く拘束される
・失言のリスクなど
(今野忍氏)
「取材していると、『予算委員会はもう少しなんとかならないのか』と表でも言っています。先の国会で立憲・枝野幸男氏が予算委員長を務めていたことから、高市総理は街頭で『国会で私ばかり指されるんです』と若干不満を示していました。枝野氏も『総理に聞きたくて野党の人たちは質問に立つから理解してほしい』と言っていました」
「国会に関しては、もう少し予算委員会の時間を減らして自分の仕事したいという思いが高市総理にはあるし、野党としては総理に出てほしいというと思いがあります」
今回の選挙では、野党第一党中道が50議席を割っていて、単に議席数で割ると野党の時間は無くなってしまうため、国会の機能として正しいかどうかも見定めなくてはいけない新しい政権運営ということになりそうです。
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◆共通点 その③
「積極財政」
お金をどんどん使って経済成長を狙う
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◆共通点 その④
「憲法改正」
安倍総理の悲願でしたが、公明党がブレーキ役となり、3分の2以上の議席があっても実現はしていません。
高市総理は会見で「憲法改正も力強く取り組む」「国民投票の環境づくりも」と発言しています。
(今野忍氏)
「安倍総理は祖父の代から憲法改正したいというのがあったので、安倍総理と同じ思いかというとそこまでではないと思います。ただ、高市総理も憲法改正は強く押し出したいと思いがあり、同じように支持層がそれを求めてるというのが大きいです。また、維新がやりたい。憲法改正をやりたくて政治をしているという人も維新の中に一部います」
安倍政権と高市政権で多く見られた共通点 一方で違いは?

ただ、安倍政権と高市政権での違いは強みとなるか、それとも課題となるのでしょうか。
2人の違うところ①ブレーン
◆安倍総理
対中政策 公明党・二階俊博氏
経済政策 大学教授や元官僚、日銀総裁も
チームとして優秀な人材が「影」から支えていた安倍政権です。
(今野忍氏)
「何より内政や危機管理においては菅官房長官、右腕にほぼ全面委任されていました。高市総理は良くも悪くも、自分で全て抱え込むタイプなんです。自分でやらないと気が済まない。だから夜も飲み会とか会食ほとんどせずに、公邸に帰って政策を自分で考えている」
―――「チーム高市」今後できてくる可能性はありますか?
(今野忍氏)
「安倍総理が作ったようなチームという意味ではあえて高市総理は作らないと思います。やはり自分が監督・主演・脚本「高市」というタイプなので。政策への思いは特に強いですから。国会運営や党のことはお任せすると思いますけど、保守的な政策でも経済政策でも、政策に関しては全て自分でやるというタイプですね」
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2人の違うところ ②「派閥」
◆安倍政権
派閥間調整で党内コントロール
新人教育にも
◆高市政権
巨大な党内をどうコントロールするのか?
“高市チルドレン”66人の指導は?
ーーー「派閥」なくなったことは結構大きいのか、むしろプラスに作用するのでしょうか?
(今野忍氏)
「新人議員が意地悪な新聞記者に聞かれて『料亭行きたい』『グリーン車乗り放題です』とか言ってしまう場面もあります。そういうことに対する教育を派閥でしていたんです。お金の面で悪いところはありましたが、良いところもあったんですよね。現在は解散して派閥はないので、どうコントロールしていくか。高市総理も選挙が終わった後に、党の幹部を集めたところで『新人教育が大事やな』と言っていたそうです」
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2人の違うところ ③連立相手
◆安倍政権
公明がときにブレーキ役に
◆高市政権
維新がアクセル役?
→誰が調整役をしていくのか?
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2人の違うところ ④「経済状況」
◆安倍政権
円高・株安・デフレ
◆高市政権
円安・株高・インフレ
→経済格差をどうしていくか?
長期政権への実現のポイントは
①支持率
②市場(マーケット)
③日米・日中関係
支持率はもちろんのこと、市場がどう反応するかや、日米・日中関係などが、高市政権が実現したい政策を推し進めるか、もしくは止めてしまうのか。注視していく必要がありそうです。