自民党の歴史的な大勝で終わった衆議院選挙から一夜明けた9日午後。会見に臨んだ高市総理の表情は固く引き締まっていました。この会見で高市総理が言及したのは「食料品の消費税減税」や「安全保障の強化」、そして「憲法改正」でした。
選挙で大勝したことで「数の力」は得たものの、それぞれの政策が実現されることになるのでしょうか。そして私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。政治学者で法政大学大学院の白鳥浩教授の解説を中心に、今回の選挙の意味と今後の展望を読み解きます。
「会見は総理個人への信任と強調しているように…」白鳥教授のミカタ

9日に行われた高市総理の会見。語られたのは、「減税」「安全保障の強化」「憲法改正」「インテリジェンス機能の強化」を進めるという内容でした。
この会見について、白鳥教授は「選挙結果を政策支持ではなく、高市総理個人への信任と強調しているように見えた」と振り返りました。
1月19日の選挙戦前の会見でも「安全保障政策、インテリジェンス機能の強化など、国論を二分するような大胆な政策に挑戦したい」と語っていた高市総理。選挙後、9日の会見では、こうした政策について「(選挙期間中に)ほとんどの時間を割いて訴えてきた」と説明しました。

しかし、選挙期間中の演説をAIを用いて分析した結果、高市総理が選挙演説で多用していた言葉として大きく表示されるのは「投資」「日本」「成長」など。
9日の会見で言及した「減税」「安全保障の強化」「憲法改正」「インテリジェンス機能の強化」などの言葉は目立っていません。文脈の中で語られている可能性は十分にありますが、AI分析ではこのように出力されました。
(白鳥教授)
「今回の選挙は『高市早苗さんを総理大臣として選ぶか、それ以外の人か』というのが一番大きな分水嶺だったと思います。その中で自民党が316議席を得たということは、高市さん個人を選んだということなのだろう。それを背景として、マニフェストに書いてあることをやっていくと、改めて確認している場に見えました」
高市政権で進む政策を解説 ①憲法改正「ハードルが大きく下がった」

では、今後高市政権ではどのような政策を進めようとしているのでしょうか。
注目される憲法改正について、高市総理は会見で「改正案を発議し憲法改正の賛否を問う国民投票が行われる環境づくりに取り組む」と発言。
白鳥教授は「改憲のハードルは大きく下がった」と指摘しています。9日の会見で高市総理が「自分の国を自分の力で守らない国は信用されない」と発言したことを象徴的だとしたうえで、9条を中心に「総理は(憲法改正の)青写真を持っている」との見方を示しました。
(日本国憲法より)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
衆議院で「自民単独3分の2」確保 改憲発議の現実味は

高市総理はたびたび「日本を変える」「日本を守る」といった発言を繰り返しています。また連立パートナーの維新の会も「アクセル役」を自認しています。こうした中、今回の選挙で自民党だけで衆議院の3分の2の議席数を確保。参議院でも議席数の3分の2を確保すれば、いよいよ改憲発議が可能になります。
現在参議院では自民・維新を合わせても過半数に達していませんが、いくつかの野党が改憲に「乗ってくる」可能性があると白鳥教授は見ています。
憲法改正には、衆参各議院の3分の2の賛成で発議されたのち、国民投票で過半数の賛成が必要です(憲法第96条による)。
高市政権で進む政策を解説 ②安全保障「国家像の大きな転換点となる可能性」

また憲法改正と密接に関わってくる可能性のある「安全保障」は、高市総理の肝いりの政策でもあります。
政府は、反撃能力の保有などを盛り込んだ安保3文書について、年内の前倒し改訂に向け議論を進めたいとしているほか、防衛装備品の輸出で現在許されている「5類型」の撤廃を目指しています。
(防衛装備品の輸出規制「5類型」)
救難、輸送、警戒、監視、掃海
白鳥教授は、こうした政策について「いわゆる平和主義(の立場)にかかわってくる」と指摘。
“スパイ防止法”の新設などインテリジェンス機能の強化についても、「基本的人権の尊重にかかわる可能性がある」としたうえで、「日本の国家像の大きな転換となり得る」と述べ、慎重な議論が必要との見方を示しました。
高市政権で進む政策を解説 ③食料品消費税ゼロ「市場の懸念を注視」

一方の食料品消費税ゼロ(2年間限定)について、高市総理は「給付付き税額控除実施までのつなぎという位置づけで、国民会議でスケジュールや財源などの実現に向けた諸課題の検討を進めていく」と説明。
以前は「検討を加速する」という表現でしたが、「野党の協力が得られれば、夏前には国民会議で中間取りまとめを行いたい」と話し、2026年度中の実現に向けたスケジュール感を示した格好です。
白鳥教授によると、国民会議は
▼与野党・有識者の意見を集約する制度で、
▼与党単独で決めないことで政治責任を分散・回避する仕組み
でもあるとのこと。
このため「国民会議で決めると言っている以上は、2026年度中(来年3月まで)は現実的ではない可能性が高い」ということです。
(白鳥教授)
「国民会議では、与野党や有識者を集めなければならず、これまでの国民会議というのは大体時間がかかっています。中間報告が出るまでに1年以上かかることもあり、(食料品消費税ゼロは)とてもではないですが1年で結論が出る話ではないでしょう」

問題になるのは、マーケット=金融市場からの見られ方です。財源の当てがないまま減税を強行すれば、円安や長期金利上昇といった市場の懸念を招く恐れがあるというのです。
かつて2022年、イギリスではトラス首相(当時)が財源の裏付けがないまま大規模減税を実施し、通貨安・金利上昇・国債価格の下落・株安に繋がったことがあります。
こうした懸念のなかで与党だけで進めると自民党の責任になりますが、国民会議なら『野党も賛成した』と責任を分散できる、というのが白鳥教授の見立てです。
(白鳥教授)
「高市総理の人気で選挙で票を集めたとしても、マーケットには海外の投資家もいます。財源の議論ができないと、この国は一体何をやろうとしているのかという話になってしまうのです」