今回の衆院選でほとんどの党が公約に掲げている「社会保険料の引き下げ」。

 本来、社会保険とは「病気やケガなどの大きなリスクを社会全体で支えあう」ものですが、その恩恵を実感できていないと考える人も多いかもしれません。

 社会保険料の引き下げは可能なのか。そして負担を下げるという選択の裏にあるリスクとは…。第一生命経済研究所・谷口智明氏への取材をもとに解説します。

社会保険料への公約 各党の主張を一覧で整理

 今回の衆議院選挙では、ほとんどの政党が社会保険料の負担軽減に言及しています。各党の主張は以下の通りです。

【社会保険料に関する主張】※公約&党首の第一声から作成
▽自民:中・低所得者(若者・現役世代を含む)の負担軽減
▽維新:現役世代1人あたり年間6万円引き下げ目指す
▽中道:現役世代の引き下げに取り組む
▽国民:現役世代が支払った一部を戻す
▽共産:応能負担の改革をすすめる
▽れいわ:現役世代の負担を大幅軽減
▽参政:削減 減税とあわせ国民負担率を35%に
▽ゆうこく:公約の発表なし
▽保守:外国人の健康保険・年金を別立てに
▽社民:半額にする
▽みらい:現役世代の負担軽減

負担増の背景に『現役世代の所得の伸び悩み』か

 給与明細を改めて見つめると、実は所得税などの税金よりも社会保険料の合計額の方が上回っているケースが多くあります。

 「タレントスクエア」の手取り計算ツールによる試算(大阪府在住・45歳・会社員・額面月収45万円の場合)では、所得税と住民税の合計が3万3891円であるのに対し、社会保険料の合計(健康保険、厚生年金、介護保険、雇用保険)は6万9008円にのぼります。
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 さらに、財務省の資料によると、給与額面に対する社会保険料率(被保険者負担分)は年々増え続けていて、今後も上昇が予想されています。

2000年:約11.3%
2012年:約14.2%
2025年:約15%
2040年(推定):約16.3%

 高齢化によって医療費や介護費が増大する一方で、支え手となる現役世代が減り、さらに所得が伸び悩んでいることが、現在の負担増を招いています。

保険料だけでは賄えない財源の現状

 社会保障は2025年予算ベースでは140.7兆円(厚労省)で、給付の内訳を見ると、
 ▽年金が62.5兆円(44.4%)と最も多く、次いで
 ▽医療が43.4兆円(30.8%)、
 ▽福祉その他が34.9兆円(24.8%)となっています。

 こうした巨額の給付を支える財源ですが、実は私たちが支払っている「保険料」だけでは全く足りていないのが実情です。財源の内訳は以下の通りです。

 ▽保険料:82.2兆円(59.8%)
 ▽公費(税金):55.3兆円(40.2%)
 (その他、積立金の運用収入等)

 本来、日本は独立性と透明性を高めるために、税金と社会保険料をあえて分けて管理する仕組みをとってきました。しかし、現在は保険料だけでは制度を維持できず、財源の約4割を税金(公費)で補っているのです。

社会保険料を引き下げるための選択肢は「3つ」

 では、社会保険料を引き下げるにはどうすればいいのか。健康保険料に着目して考えてみます。

 現役世代が支払っている健康保険料は、自分たちの医療のためだけに使われているわけではありません。その多くが、高齢者の医療費を支えるための「支援金」として使われています。

 社会保険料を引き下げるためには、理論上、以下の3つの道しかありません。

(1) 使う医療費の削減
(2)公費を増やす(税金を投入するなど)
(3)高齢者の支援を見直す

 (1) について、現役世代は高齢者層と比較して受診回数が少ないため、若年層の受診抑制によるコストカットには物理的な限界があるのが実情です。(2)は財源をどう確保するか、「税金と分けている意味」と矛盾しないか、といった議論が生じます。(3)は現役世代から高齢者へ流れている支援金を減らすことが考えられますが、これにより高齢者の負担増加やサービス低下が起こる可能性もあります。

出を減らす?入りを増やす?各党のアプローチは

 社会保険料を引き下げるためには、「支出を減らす」か「誰かの負担や税金(公費)を増やす」ことが必要です。各党は具体的にどのようなアプローチをとろうとしているのでしょうか。※公約&党首の第一声から作成

 ▽自民:社会保障支出の伸びを抑える
 ▽維新:高齢者の医療費窓口負担を原則「7割引」へ OTC類似薬等の保険適用の見直し
 ▽中道:予防・検診強化で健康寿命を延ばす 重複検査是正・医療DXで医療費を抑制
 ▽国民:年齢ではなく能力に応じた負担 75歳以上の自己負担を原則2割に
 ▽共産:高所得者の保険料を頭打ちにする優遇策を見直し 応分の負担を求める
 ▽れいわ:国費を入れる
 ▽参政:対症医療から予防医療への転換による無駄な医療費の削減等
 ▽ゆうこく:公約の発表なし
 ▽保守:外国人の健康保険・年金を別立てに
 ▽社民:企業と個人の負担割合を3対1に変える
 ▽みらい:影響が大きい人に配慮しながら医療費の自己負担割合を一律3割とすることを目指す

中野教授「何かを削減すればどこかに痛み。その選択を議論するのが政治の姿」

 神戸学院大学・中野雅至教授は「『フリーランチ(おいしいとこ取り)』はない。何かを削減すれば、必ずどこかに痛みが伴う。医療を受け続けたいなら負担が必要であり、負担を嫌えばサービスのレベルが落ちる。その選択を議論するのが本来の政治の姿である」と指摘しています。

 耳に優しい「負担軽減」という言葉の裏にあるメリットとデメリット、そして国全体としてどのような社会を目指すべきなのか一人一人が考えていく必要があるかもしれません。