一般企業での就労が難しい障がいなどがある人と雇用契約を結んで就労機会を提供し、スキルアップを支援しながら給料を支払う「就労継続支援A型事業所」。障がいがある人を雇用した事業所側は国や自治体から給付金を受け取ります。

 大阪市内の福祉事業会社グループが運営する「就労継続支援A型事業所」で数十億円規模の給付金の過大請求疑惑が浮上。大阪市が監査に乗り出していることが分かりました。

全国平均の10倍以上の給付金…元利用者「誰が考えても金額が大きすぎる」

 給付金の過大請求疑惑が浮上しているのが、大阪市中央区に本社を置く福祉事業グループ「絆ホールディングス」です。

 (グループのA型事業所 元利用者Aさん)「給料面と自分のやりたい作業があったのでそこを選びました」

 兵庫県に住む20代のAさんは、グループのA型事業所を利用していた一人。発達障害などがありますが、お金を稼ぎながらスキルも磨きたいと今年4月から通い始めました。

 Aさんが通っていた事業所では「動画編集」や「ものづくり」ができるとうたっていましたが…

 (グループのA型事業所 元利用者Aさん)「在宅でパソコンのスキルを学ぶ動画をみて学習していく。あまり稼いでいる感覚がなかったので、罪悪感みたいなものもありました」

 事業所では自己学習やデータの入力作業などを命じられるばかりで、スキルアップできるような仕事も支援もなかったといいます。

 さらにAさんが違和感をもったのはある「お金」についてでした。
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 (グループのA型事業所 元利用者Aさん)「誰が考えてもちょっとあまりにも金額が大きすぎるなという印象ですね」

 Aさんを1か月間雇うことで事業所が得た給付金の資料を見てみると、下3桁が塗り潰されていますが、その金額はなんと「234万円」。これは全国平均の10倍以上に当たり、不審に思ったAさんはすぐに事業所をやめました。

加算の仕組みを「ある手法」で悪用?

 なぜ、これほど高額の給付金を得ているのか。そこには「ある仕組み」が関係しています。その仕組みが「就労移行支援体制加算」です。これは、利用者がA型事業所でスキルアップして企業に就職することができた場合、その人数に応じ就労支援を評価するという意味で、事業所が翌年度にもらえる給付金がアップする仕組みのことです。

 去年まで「絆ホールディングス」グループで働いていた元職員は、加算の仕組みが「ある手法」で悪用されていたと話します。

 (「絆ホールディングス」グループ 元職員)「『36か月プロジェクト』という名前で、6か月ごとに一般雇用と利用者雇用を切り替えていく形ですね」
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 グループ内で使用されていたパンフレットには「36か月プロジェクト」と書かれ、その下には赤字で「A型就労期間」と「一般就労期間」を繰り返していくことを示す図が描かれています。

 元職員によると、事業所に通う最初の1か月から数か月は「A型利用」とし、次の半年は同じ事業所で同じ仕事をしているのに契約だけ「一般就労」に切り替えることで給付金の加算条件を達成したことにします。さらに、また「A型利用」に戻して「一般就労」に切り替える…これを繰り返すことで加算を積み増していたといいます。

 (「絆ホールディングス」グループ 元職員)「利用者が就職したいから一般就職するわけではなく、期間がたてば自動的に一般就職っていう形に、雇用が切り替えられて、また期間がたてば利用者に切り替わる。ただ環境も一切変わらず、仕事内容も変わらずのままが基本」

昨年度「201人」が一般就労に移行 「あり得ない数」と指摘

 元職員がいた事業所が大阪市に提出した資料を見ると、昨年度は201人の障がい者が一般就労に移行したと記されていますが、平均的な事業所と比較すると「あり得ない数」だといいます。

 (元職員)「(Q多くのA型事業所の年間の一般就労者数は?)多くて5人。10人いったらいいほうじゃないかな」

 この加算制度は3年以内に同じ利用者について申請することは原則認められていません。

 関係者によりますと、大阪市は実態を調べるため監査を始めていて、グループ全体の過大請求額が昨年度以降で数十億円に上るとみられています。

「誰のための仕組みなのか」障がい者福祉の専門家は厳しく批判

 障がい者福祉の専門家は、この加算請求が事実なら一般就労を促すという制度の趣旨に著しく反していると厳しく批判します。

 (関西福祉大学 谷口泰司教授(障がい者福祉))「その方の能力を一番生かせるところの企業に紹介していく。民間企業におつなぎするのがA型ですけど、それが同じ事業所内で単に身分が違うだけっていうのは誰のための仕組みなんですかと。ありえない加算の請求だなというふうに思います」
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 MBSが絆ホールディングスに取材を申し込んだところ、メールで回答がありました。絆ホールディングス側は「障がいのある方々の自立支援・就労支援に真摯に取り組んでいる」とした上で、疑惑については、こう答えました。

 「現在、関係行政機関からの指導を踏まえて確認や調整を行っている事項があるため、個別の事案等について詳細にお答えすることは控えさせていただきます」

“新しい就労支援事業のカタチ”に挑戦する事業所も

 一方で、障がいのある利用者一人ひとりの“喜び”を真摯に創り出すために、支援と指導に本気で向き合う。そんな“新しい就労支援のカタチ”に挑戦している全く別の会社が大阪にもあります。
 
大阪・天満橋にあるレストラン「ル・クロ・ド・マリアージュ」。フランスで修業を積んだオーナーシェフ直伝の料理が楽しめるとあって人気です。

 (客)「味は抜群です、本当に。接客もすてきよね。いろんな方たちがフレンドリーで」

 実は、ここで働くスタッフの6割が何らかの障がいや難病を抱えています。
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 そのうちの一人、妃菜子さん(22)。学習障害などがあり、人とコミュニケーションを取ることが苦手ですが、ここでは仲間たちと生き生きと働いています。

 (妃菜子さん)「だんだんシェフとのコミュニケーションもとれてきたりして、いろんな人と関わることで、いっぱいしゃべれるようになりました」

 フレンチレストランでありながらも様々な障がいがある方々が、サービス業で働けないという社会課題を解決するために、「就労継続支援A型事業所」に挑戦しています。

 (黒岩功オーナーシェフ)「人の成長、特に障がいがあるメンバーは時間がかかる。でも、継続支援をやっていくことで(成長を)待てる時間をもらえる」

取材記者が解説 複雑な制度と過大受給の悪質性

 複雑な給付金の仕組みや、今回の事案の悪質性についてMBS・原田康史記者に聞きました。

 (原田康史記者)「今回取材をしたフレンチレストラン『ル・クロ・ド・マリアージュ』ではプロの力を生かして本物の場所でしっかりと指導と支援をもらいながら障がい者が自分のペースで成長していくという、A型事業所の新しい可能性に挑戦しているのが印象的でした。また障がいのあるスタッフたちが仲間たちと本当に生き生きと働いている姿がありました」

「一方で、『絆ホールディングス』ではデータ入力や自己学習など就労の実態がほとんどなかったという声が利用者さんから聞かれ、今回はお金の問題だけではなく、障がいのある人に必要な支援が行われていなかったという意味でも、非常に悪質な事案かと思っております」

「取材によりますと、大体1事業所当たり200人以上の障がいがある人を囲い込んでいるような形で、その約60~70人ほどがA型利用としての雇用契約。残りの人たちが一般的な雇用契約を結んでいて、この2つを約半年おきに切り替えることを繰り返すことで、A型利用から一般就労に移った際に加算がカウントされていく。絆ホールディングスのある事業所では年間の加算の人数が200人前後だったということです」

 「そうすると翌年度、この事業所への加算金は1人1日約21万円。この事業所は1日あたり43人ほどが働いているというような利用申請をしていますので、年間の延べ人数は1万5868人。21万円×1万5868人で約33億円もの加算金を得ていたのではないかと見られています」


―――「A型利用」から「一般就労」への切り替えを繰り返すことで加算を増やし、1年間でなんと約33億円を得ていたとみられる。どのような経緯で発覚したのでしょうか?

 (原田康史記者)「以前は、同じ利用者を重複してカウントすることについて、それがすぐにルール違反ということではありませんでした。ただ、2024年度から厚生労働省のルールが厳しくなり、3年以内に同じ利用者を重複してカウントすることは駄目となりました。この事業者は厳しくなった以降も繰り返していたのではないかという疑惑が出ていて、大阪市も調査に乗り出したとみられます」

 「一般的な企業で働くことが難しい人が、A型事業所で支援を受けながら、しっかりと労働をして賃金を稼いでいくというのが制度の趣旨ですので、そこでスキルアップしてようやく一般就労になると。ここは本来、一定のハードルがあるもので、制度自体もこんなに多くの人が移行するということは想定していなかった。ある意味ルールの抜け道をつかれた形かなと思います」

―――3年以内に同じ利用者で申請することはもう原則認められていないので、これに関していろいろな疑義が生じているということですね。

 (原田康史記者)「約33億円が全て過大請求というわけではなくて、このうち3年以内の重複があった分については過大請求になるおそれがあるということで、実態調査が進んでいます」

 多額の税金が投入されている給付金の制度。事業者には透明性がある説明が求められます。