全身で音を感じ、自分の音を紡ぐ
世界を驚かせる第2章が、いま!
「緊張しています...」
取材初日、辻󠄀井伸行は肩をすくめながらはにかんだ表情を見せた。それもそのはず、これまで非公開とされてきた東京のプライベートスタジオに、初めてカメラが入ったからだ。
生まれつき視力を持たない辻󠄀井は、新たな曲に挑戦するとしても、譜面を見ることができない。膨大な音のパーツを耳で聴き取り、一音ずつ辿るようにして暗譜を始める。印象的なのは、純粋に音の響きを楽しむ様子だ。初めてピアノに触った少年のような表情は、世界を舞台に躍動する異能のピアニストのイメージを裏切る。
幼少期から天才と呼ばれ、20歳にしてヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで日本人初優勝。以来、各国の名門ホールで演奏するなど華々しい実績を積み重ねてきた。おととしにはクラシックレーベルの最高峰、ドイツ・グラモフォンとグローバル専属契約を結んだ。日本人ピアニストとして初めての偉業を機に、改めて世界中の注目が集まるようになっている。
だが、本人が取材中に何度も口にしたのは「やがては世界を目指したい...」という言葉。そのためには、さらに様々な作曲家に挑戦し、レパートリーを増やす必要があるのだという。既に世界で名を馳せているのになぜそのような意識があるのか、真意をすぐに理解することはできなかった。
私たちはこの春から、辻󠄀井が新曲に取り組むプロセスをつぶさに見つめた。フランスを代表する作曲家の一人、名匠プーランクを始め、初めて挑む3つの楽曲を分解し、ゼロから音を紡いでゆく日々。そして迎えた本番で、辻󠄀井は珍しく弱音を吐いた。
唯一無二と呼ばれる才能は、そのとき何を思ったのか。
Nobuyuki Tsujii
1988年9月13日、東京都豊島区生まれ。眼球が十分に成長しない小眼球症により、生まれつき全盲となる。2歳の時、おもちゃのピアノで自然とメロディーを弾き始め、7歳からピアニストの川上昌裕に師事。2009年、20歳にして「ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール」で日本人初の優勝を果たし、世界的なピアニストへの扉を開いた。
その後もベルリン・フィルハーモニーとの共演やカーネギーホールでのソロリサイタルなど、圧倒的な表現力で世界中の聴衆を魅了し続けている。2024年には、世界最古のクラシック音楽レーベル「ドイツ・グラモフォン」と日本人ピアニスト初となるグローバル専属契約を締結。歴史に名を残す世界の巨匠へ、新たな歩みを進めている。
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