「この魚を、100年先の子らにも」
祝いの魚、真鯛の養殖に人生を捧げて…
その養殖真鯛は、水揚げしてから日が経っても臭みが出づらく肉質が良い。遠く東京の寿司店や5つ星レストランだけでなく、海を越えてアメリカやカナダのシェフたちもその魚を使いたがる。日本の水産業界に"革命"を起こしたとまでいわれる。
赤坂竜太郎の拠点は愛媛県南西部の西予市三瓶町。人口5,500人の小さな漁村で、85万尾もの真鯛を育てている。徹底した品質管理がウリだが、中でも驚くのは餌だ。白ゴマを主成分とした完全無魚粉のそれが、料理人も唸る卓越した上品さとうま味を実現する。
味だけではない。通常、自分の体重以上の魚粉を食べて育つ養殖真鯛は、すなわち別の魚の命の犠牲の上にある。気候変動などにより日本全体で漁業環境が荒れ漁獲高が減る中、持続可能な水産業を実現し、いかにして無理なく真鯛を食べられるようにできるかを考え尽くした末にたどり着いた。
とはいえ、無魚粉で真鯛を育てることは難しい。曰く「野菜嫌いの子どもに、無理やり食べさせるのに似ている」。健康に育つように生け簀を大型化し、効率的な給餌のシステムも積極的に導入してきた。海の環境に異変があれば自ら生簀に潜り、魚たちの健康状況をチェックする。体力勝負の仕事だが「真鯛は環境変化にタフなんです。だから好きなんです」と、真鯛の話になると赤坂はいつも饒舌だ。
養殖業者という枠をも飛び越える。自ら育てた真鯛をより多くの人に届けたいと今年10月、東京・立川に鯛めし専門店までオープンさせた。飲食業なんて、もちろん未経験なのに。
祖父が始めた家業の養殖業は、自分で3代目。だが、生まれ故郷の三瓶の町は、人口減少の一途をたどる。魚を、町を、どうしても守りたい。その信念が、赤坂を突き動かす。
観測史上最も暑かった2025年の夏、灼熱の太陽が生け簀の真鯛を襲う。稚魚から3年間大切に育ててきた魚たちが次々と死んでいく。残酷な自然の仕打ちは、普段はおだやかな赤坂の表情を曇らせた。
「真鯛ほど、誰かに『おめでとう』を伝えられる魚ってないんですよ」。古来より日本人が愛してきた真鯛に人生を捧げる40歳の願いはただ一つ。大切な人に贈りたい、と思える魚を育てること。
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