
孤高の挑戦者だけが晒される光と影
絶望の落選と渾身の入賞 その先へ
少なくとも2年以上前から、亀井聖矢の日々はショパン一色だった。
今年10月にワルシャワで開催されるショパン国際ピアノコンクールに挑戦することが、亀井を次なるステージに導くはずだと、誰もが信じて疑わなかった。しかし、4月に行われた予備予選でまさかの落選。後に「前夜から心も体もこの世のものとは思えないような状態だった」と語ったほどの異様な緊張にのまれて、思うようなパフォーマンスができなかったのだろうか。長年焦がれてきた本大会に進むことなく、亀井のショパン・コンクールは唐突に終わってしまった。
何が足りなかったのか、落選の報を受けた後は眠れぬ日々を過ごし、一時は「ピアノをやめる」ことすら考えたという。だが亀井にはそうできない理由があった。落ち込む間もなく、ベルギーでもう一つの挑戦が始まっていたのだ。
ショパン・コンクールと並び、世界三大コンクールの一つと称される難関、エリザベート王妃国際コンクール。ショパン・コンクール落選の4日後に、ファーストラウンドの本番を控えていた。当然ながら気持ちの切り替えは簡単ではなかった。「気を許すとショパンのことを考えてしまうので、とにかくネガティブな思考を振り払って、目の前の音楽に集中することだけを考えた」
カメラは、ファーストラウンドを無事通過した亀井が、いかに自分自身と向き合い、ピアニストとしてどのような未来を思い描くに至ったかを、1か月に渡って見つめ続けた。
やがてピアノを弾く喜びを取り戻した亀井は「このコンクールの申し子」と評されるほどの演奏を繰り広げる。怒涛の日々を終え「これでコンクールは卒業です」と言い切った23歳は、晴れ晴れとした表情で未来を見据えている。
Masaya Kamei
2001年生まれ、愛知県出身。4歳からピアノを習い始める。中学生の頃から音楽の道を志すようになり、愛知県立明和高校音楽科へ進学。高校2年生終了後、桐朋学園大学初となる「飛び入学特待生」として同校に入学。2019年、大学1年生のときに、若手ピアニストの登竜門として知られる「ピティナ・ピアノコンペティション」特級グランプリと、「日本音楽コンクール」ピアノ部門第1位を獲得。2022年、パリで開催されたロン=ティボー国際コンクールで第1位に輝き、「聴衆賞」と「評論家賞」も受賞。2025年には世界三大コンクールの一つである、エリザベート王妃国際コンクールにて第5位を受賞。これまでに、文化庁長官表彰(国際芸術部門)、出光音楽賞、2023年度日本ショパン協会賞など受賞多数。現在、ドイツのカールスルーエ音楽大学、桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースに在籍中。

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