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北方謙三作家Vol.1319
書くことは生きること
“人生最後”の大長編に挑む
「おい、タカハシ!」
文学界のレジェンドは、取材が進むと、私(ディレクター)を呼び捨てにした。
幾度と密着取材をしてきたが、初めての経験。だが、悪い気がしない。自然とそう思わせる好漢が北方謙三だ。
コワモテで力強い目。まっすぐ見つめられると背筋が伸びるが、ユーモアたっぷりの語り口と人懐っこい笑顔は人を惹きつける。
言わずと知れた巨匠だが、貪欲なまでの創作意欲は駆け出しの頃から変わらない。これまで出版した小説の単行本は220冊を数える。
しかし、その足跡は紆余曲折の連続だった。
学生時代に純文学作家として注目されるも、その後10年間、不遇の時代を過ごす。
肉体労働のアルバイトで妻子を養いながら小説を書き続けた。けれど出版社に持参しては突き返される日々。ボツ原稿だけが山積みとなっていった。
「最初は自分を天才だと思った。徐々に自信をなくしていき、最後は石ころに過ぎないと思うようになった。でも、そこからが本当の勝負だった」
番組では、これまでの全著作をスタジオに集め、ロングインタビューを敢行。
ライバル・中上健次との出会い。ハードボイルド作家としての"再デビュー"。
創作の舞台を歴史小説に移した理由。小説家として生き抜く秘訣。
そして、人生最後の大長編と位置付ける、新たな歴史小説を書き始める姿にも密着。執筆に当たっての必需品の数々。取材旅行で見えてきた意外な着眼点などから、作家・北方謙三の頭の中が、少しずつ明らかになっていく。
23年間務めた直木賞の選考委員を辞し、トレードマークの葉巻を辞め、愛車マセラッティを手放して免許も返納した。全ては小説を書くために。
「書きたくて、体がムズムズ、心がムズムズ。俺はまだ生き切っていない」
誰よりも言葉の力を信じる男の、熱き情熱がほとばしる。
PROFILE
1947年 佐賀県唐津市生まれ。中央大学法学部卒。
1981年『弔鐘はるかなり』で単行本デビュー。
“月刊キタカタ”と呼ばれるほどの多作で、毎月のようにハードボイルド小説を刊行する。『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、『渇きの街』で日本推理作家協会賞。
1989年『武王の門』で初の歴史小説に挑戦し、『破軍の星』で柴田錬三郎賞。
当初は日本の南北朝時代に題材を得ていたが、次第に中国史にも手を拡げ、『三国志』(全13巻)や『水滸伝』(全19巻)など数年がかりの大長編を執筆。
今年6月には、14年ぶりの現代小説『黄昏のために』を出版。
独特の人生観を語るエッセイも人気で、特に雑誌『ホットドックプレス』で1986年から16年間続いた青春相談「試みの地平線」でのユニークな回答の数々は、今や伝説となっている。
構成:田代裕
ナレーター:窪田等
撮影:高橋秀典・伊藤僚太郎
音効:増子彰
制作協力:ソユーズ
プロデューサー:沖倫太朗・岩井優介
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