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2024年03月17日(日) 放送分

脇園彩オペラ歌手
Vol.1292

オペラ発祥の地が讃えるディーヴァ
母に捧げる“感謝”の歌声

例えるならば、欧米人が歌舞伎の舞台で賞賛を浴びるようなものだろうか。脇園彩は、オペラの本場イタリアで確かな足跡を残し続けている。
彼女の最大の特徴は、細かく速い音符の連なりを転がすように歌い上げる"アジリタ"と呼ばれる技法。十八番とする『セビリアの理髪師』のロジーナは、数ある歌劇の中でも特に音数が多く難易度が高い。だが脇園の圧倒的な表現力と正確な歌唱技術は、聴衆を一気に引き込んでしまう。
オペラ歌手を目指し、イタリアに渡って10年。ミラノのスカラ座はもちろん、スペインのテアトロレアル、ドイツのマインツ州立劇場、ベルギーのリエージュ王立ワロニー歌劇場でも舞台を踏むなど、今やその活躍はイタリア国内に留まらない。
しかし折に触れ、「自分はまだまだ」だと語る。実はオペラ歌手の全盛期は40歳から50歳にかけて。ある時は"子を亡くした母親"、またある時は"復讐に燃える女王"など、様々な登場人物の感情を歌声に乗せなければいけない。それには人間的な成熟が不可欠なのだと言う。日々のレッスンで師匠に一音一音ダメ出しを受けながら、眉間に皺を寄せて楽譜と向き合う姿に、悩める36歳の横顔が覗いた。
そんな脇園の気がかりは、去年、脳出血に倒れた母。かつては母自身も役者として芸の道を志していたものの、脇園が生まれたことで家庭に入り、夢を諦めた。自身が夢を追えなかった分、幼少期からやりたいことを全てやらせてくれた母に、感謝の念は絶えない。
取材中、母に成長した自身の姿を見せる絶好の機会が舞い込んだ。
2月に大阪での公演が予定されていたのは、フランスの作曲家ラヴェルが"母性愛"を描いた作品『子どもと呪文』。彼女にとって初のフランス語によるオペラだった。言語が違えば、口の開き方や舌の位置など、歌い方は全く異なる。苦悩しながら、新たな課題や作品のテーマと向き合っていくこともまた、成熟に必要なプロセスだ。
番組では、拠点のイタリア・公演先のベルギー・日本をせわしなく飛び回る脇園に密着。遥かな高みを目指すディーヴァの今を見つめた。

PROFILE

1988年東京生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修了。
元役者という両親の影響もあり、幼い頃から舞台やミュージカルに親しむ。当初はミュージカル女優が夢だったが、浪人時代に見たオペラ「椿姫」をキッカケにオペラ歌手を目指すことを決意。2013年、文化庁派遣芸術家在外研修員としてパルマ国立音楽院に留学。さらにロッシーニ・オペラ・フェスティバルのアカデミーやミラノ・スカラ座アカデミーで研鑽を積み、2014年に『子どものためのチェネレントラ』でスカラ座デビューを果たした。以後イタリアを拠点に活躍を続け、2024年も『ビアンカとファリエーロ』のファリエーロ、『イングランドの女王エリザベッタ』のタイトルロールで出演が決まっている。たまの贅沢は、お気に入りのカフェで食べるマリトッツォ。共演者から“イタリア人よりイタリア人”と評されるラテン系の36歳。

STAFF
演出:深田聖介
構成:田代裕
ナレーター:窪田等
音効:早船麻季
制作協力:東北新社
プロデューサー:沖倫太朗・今野利彦

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