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2023年09月03日(日) 放送分

竹政伊知朗消化器外科医
Vol.1266

大腸がんロボット手術のエキスパート
“世界初の手術”と“母の闘病”と

現在、がんによる女性の死亡数が最も多い大腸がん。早期なら内視鏡切除も可能だが、進行すると根治的な手術が必要となる。
札幌医科大学の竹政伊知朗は、手術支援ロボットによる大腸がん手術で世界が認める腕を持つ。彼の手術はとにかく"美しい"とされる。術野に出血はほとんど見られず、確実で早い。患者の腹部にあけた小さな穴に手術器具を取り付けたロボットアームと腹腔鏡カメラを挿入。手術台から少し離れたコンソールで、3Dの立体画像を見ながら、両手両足を使ってロボットを巧みに操る。大腸がんの中でも最も手術が難しい「直腸がん」の執刀数は全国トップクラスだ。他の病院では「手術ができない」「肛門は残せない」などと言われた患者でも、竹政の手で日常生活を取り戻してきた。                              
6代続く外科医の家に生まれた竹政は、大学を受験せずふらふらしていた時期があり、親に勘当されたこともある。「なんか素直に医者を目指したくなかった」。敷かれたレールにあらがい続けた2年間。親友宅に居候していたが、外科医である父親から「君は一体何がやりたいのだ?」と諭されたのが転機となった。
今年竹政は、最新型のロボットで「世界初」と言われる手術を2つ成し遂げた。通常の大腸がんロボット手術では腹部に5〜6つほど穴をあけるが、一件は、直腸がんと横行結腸がんの2つを「へそ」ひとつの傷から切除。別の一件は、腹部に傷をつけずに「肛門」から直腸がんとリンパ節を切除した。いずれもがんを安全確実に取り切り肛門を温存した。術後の痛みは軽く、傷跡もほとんど残らない。患者は当初、がんへの恐れや手術の不安にさいなまれていたが、竹政と話すうちに手術を受けようと決めた。無事手術を終えた竹政は、早速、患者の家族の元へ...             
実は、竹政自らも長い間、母の闘病に向きあっていた。若いころ無茶をしても見守り続けてくれた母。担当医から辛い宣告を受けた時、痛感したことがある。「患者の家族の立場になると、辛さや悲しみ、その現実を受け入れることに大きな抵抗があった。きっと自分の患者さんやご家族も、僕の説明を聞く時、同じような思いを抱いている―」
〝患者の家族″になった"医師"の日々にカメラを向けた。

PROFILE

1965年広島生まれ。大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。
大阪大学医学部第2外科で研修医となり、大阪大学大学院消化器外科講師を経て、2015年、札幌医科大学医学部消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座教授に就任。教室員300人のトップを務める。大腸がん治療の世界的エキスパートで国内外より数多くの医師が手術見学に訪れる。就任後、全国でも珍しいロボット手術専用手術室の整備や様々なタイプの手術支援ロボットの拡充に尽力。その結果、この台数は全国一に。大腸がんの手術では、新型のロボットのほとんどを日本で最初に用いて執刀している。国内外39の学会で役職を務め、日本内視鏡外科学会の「ロボット支援手術検討委員会」では、委員長として、安全なロボット支援手術の推進を図る。

STAFF
演出:菅生千草
構成:田代裕・重乃康紀
ナレーター:窪田等
撮影:橋口和利
音効:早船麻季
制作協力:オルタスジャパン
プロデューサー:沖倫太朗・申 成皓

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