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2022年10月02日(日) 放送分

木下龍也歌人
Vol.1220

何かが足りない日常にそっと寄り添う言葉を…
やさしい花束のような短歌、お届けします。

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お題:まっすぐ生きたい。それだけを願っているのに、なかなかそうできません。まっすぐに生きられる短歌をお願いします。

短歌:「まっすぐ」の文字のどれもが持っているカーブが日々にあったっていい  木下龍也
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いま、短歌の世界が熱い。

五・七・五・七・七の31音の短い調べはSNSとの相性もよく、そっと背中を押し、一歩先を照らすような言葉が、じわじわと人気を博している。
中でも注目されているのが、歌人・木下龍也だ。

2021年に出版した『あなたのための短歌集』が、歌集としては異例の売れ行きを更新中。この本は、元々5年前に木下がネットで始めた短歌の個人販売「あなたのための短歌1首」をまとめたもの。依頼主からメールでお題をもらい、短歌をつくり、便箋に書いて封書で送る。依頼主が、購入した短歌をどのように使うかは自由。この5年で作った歌は800首にも及ぶ。
「名前の1文字を使って...」「好きな人に告白するか迷っていて...」
お題はさまざまだが、いつもお守りのように、その人に寄り添う歌を作り続けてきた。
手応えを掴んだ木下は、勤めていた会社を辞め、短歌一本で生きていく決意をした。短歌の世界で専業歌人として活動している人は少ない。
「不安定...だけど実験的にやってみたかった」。
そんな、言葉と日々向き合う木下の日常にカメラを向けた。

短歌はもっぱら家でつくる。家以外では作れない。朝起きて、午前中のうちにパソコンに向かう。
短歌はすぐにできると思われがちだが、木下は何時間も、時には何日もかけて言葉を選び抜く。
午後は、会社を辞めたのちに通い始めた近所のボクシングジムで体を動かす。始めて1年半だが、トレーナー曰く筋が良いそうだ。夕飯はもっぱら外食。近所の馴染みの定食屋で、一人夕餉が日課。
「書くことは思い出すこと。だから日々、見たものを頭の中に静止画や動画としてストックする。頭の中の倉庫から取り出した風景を、実際に見た風景に近づけるために言葉で再構築する。その時、詩が生まれる。」と木下はいう。

この夏、木下はこれから出版予定の第三歌集の創作に打ち込んでいた。
『あなたのための短歌集』はお題をもらって作り上げた歌集。しかし今回は一人で立ち向かわなければならない。いい歌を作るしかないが、それが怖いと木下は言う。
歌集創作の中、木下が訪ねたのは、大先輩であり、木下にとっては神様のような存在でもある谷川俊太郎の自宅。これから歌人としてどう生きていけばいいのか...詩の神様と語り合った中で、木下が見つけたものとは...

PROFILE

1988年、山口県生まれ。
2011年から短歌を作り始め、新聞や雑誌、Twitterなどに投稿を始める。
2013年に第一歌集『つむじ風、ここにあります』、16年に第二歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』を刊行。
18年に岡野大嗣との共著集『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』、19年に谷川俊太郎と岡野大嗣との詩と短歌の連詩による共著『今日は誰にも愛されたかった』、20年に短歌入門書類『天才による凡人のための短歌教室』を刊行した。
同じ池に2回落ちたことがある。ホラー映画が好きで、生魚としいたけが嫌い。

STAFF
演出:和田萌
構成:田代裕
ナレーター:窪田等
撮影:佐藤洋祐・小寺安貴
音効:中嶋尊史
編集:宮島亜紀
制作協力:ソユーズ
プロデューサー:中村卓也・沖倫太郎・岩井優介

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