『ピュア・ラブIII』監督の解説


第6話
龍雲寺の玄関の上がり框(かまち)のあたりに、小さな鐘が置いてあります。喚 鐘と呼ばれるもので、本来は僧堂の師家(老師)と修行僧との問答(参禅)の時に 使われるものですが、ベルがわりに流用している禅寺も多いようです。 この回で2人の女性がこの喚鐘を打ち鳴らします。2人とも、同じように陽春を 訪ねてきたのですが、応待する伸隆にひとりは「陽春さんはいらっしゃいますで しょうか」と訊ね、もうひとりは「春さんいらっしゃるでしょ」と断定する形で 問いかけます。
この2人の女性の態度や行動の違いのがこの後のドラマを大きく動かすことにな るのですが、それを龍雲寺の玄関という同じ場所で喚鐘を鳴らすという同じ行動 で比較して見せるというところが、宮内脚本の面白さだと思います。

第7話
この回では第6話で登場した筒井みつるという女性の素性が徐々にわかってき て、陽春の部屋でのみつると陽春とのやりとりが見所のひとつとなるわけです が、ここでは別の観点からの楽しみをご紹介しましょう。
「ピュア・ラブ」の登場人物達は自分の生活を少しでも豊かな楽しいものにする ために、様々な工夫をしながら生きています。1例としてこの回で陽春は本堂の 香炉や線香立ての灰をきれいにして、灰ならしというヘラのような道具で冨士山 の形にきれいに灰をならします。忍は店前の水盤に気分を変えるため花を一輪浮 かべます。たったこれだけのことですが、普通のドラマではまず取り上げないこ ういうところも「ピュア・ラブ」の魅力のひとつだと思います。

第8話
どなたかの感想にも触れられていましたが、陽春の新しい部屋には電話があり、 それを使えばすぐに木里子と話ができるわけです。もちろん、陽春はそんなこと はしませんが(この部屋に入って初めて電話を見た時の彼の表情を思い出してく ださい)、この回でこの電話が活きてきます。忍がある事で龍雲寺に電話するの ですが、普通だと伸隆が出るところを、切り替え式になっているので副住職の部 屋にいた陽春が電話に出ます。そのことでドラマが一段濃密になります。そして 第37話に至って、初めて陽春が自分の部屋から麻生家の木里子に直接電話して くることになるのです。

第9話
この回の見所は何と言ってもちづると真が麻友が世話になった御礼を言うために 龍雲寺から麻生家へと回っていくシーンの2人の芝居だと思います。
「忍と戸ノ山」とは違った「ちづると真」コンビの息のあったところをお楽しみ 下さい。それからもうひとつ、戸ノ山が鼻の頭をヤケドします。どうしてかは放 送をご覧下さい.。
それからおまけでもうひとつ。田中大紀ことたいちゃんが珍しく四文字熟語とい う国語の問題に挑戦します。たいちゃんの書いた四文字熟語とは?

第10話
木里子とみつるが初めて顔を合わせる回です。宗達の隠寮で木里子がお茶をいた だく時、みつるが半東(亭主の手伝いをする役)をつとめて、木里子にお茶を出 します。この時の茶道の半東の動きが、そういう眼で見れば非常にスリリングな ので、この2人の心理状態を表現するのにピッタリだと思います。そしてその 後、みつるに出会ったことを木里子が忍に報告するシーンがあるのですが、その 時の木里子のセリフのひとつがすばらしいセリフです。それは「わたしって自分 でびっくりするほど○○○○○だったわ」というもので、○の中を色々想像した 上で放送をご覧になることをおすすめします。