特別企画 ドラマを120%楽しむ特別企画。【監督自らの解説】
〜監督からドラマが大好きなあなたへ〜 「ピュア・ラブ」をもっと楽しく見ていただくために、ドラマ作りの裏側をチョッピリ公開。
ネタバレする可能性があります。ご注意ください。 →[ この週のあらすじ ]
第11話

今日のポイントはズバリ、赤ちゃん。裕太の母親によって「かたつむり」に置き去りにされた赤ちゃん「麻友(まゆ)」が、周囲にさまざまな波紋を引き起こすのが今回の主なテーマです。当然、赤ちゃんの出演する場面(シーン)がいっぱいあります。シナリオには「寝ている麻友」とか「火のついたように泣く麻友」とか「麻友がベッドの中で遊んでいる」とか、すごいのになると「キャッ、キャッと笑う麻友」などの指定があります。当然のことですが、私やAD(演出助手)さんがいくら説明しても、その通りに赤ちゃんが演じてくれるはずはありません。「機嫌よく笑っている」シーンでなかなか泣き止まなかったり、「寝ている」シーンなのにいつまでもご機嫌で笑ってたりで、撮影がストップしてしまうことが何度もありました。そこで…
「解決策その1」
前もってシチュエーションの異なる複数のシーンのテストを繰り返して本番にいける態勢を作っておき、そのときの赤ちゃんの状態に合わせて撮影するシーンを決める。たとえば赤ちゃんが寝てしまえば、寝ているシチュエーションのシーンを撮影し、ぐずっていれば泣いているシーンの撮影をする訳です。通常なら1シーンづつ演技や撮り方を固めて撮影するのですが、この場合、俳優さんにしてもスタッフにしても、いくつものシーンの演技や撮り方をしっかり覚えておかなければいけないので、大変です。
「解決策その2」
赤ちゃんのさまざまな状態(寝ている、泣いている、笑っている、遊んでいる)を撮りだめしておき、俳優さんを赤ちゃんと切り離して撮影して、後で編集で組み合わせる。この方法の欠点は、赤ちゃんと俳優さんが絡んでいるカットが撮れないこと。
「解決策その3」
赤ちゃんの状態が寝ていても起きていても泣いていてもドラマの流れに影響がない場合、本番直前に赤ちゃんの状態に合わせて俳優さんのセリフや演技を変えてもらう方法。たとえばシナリオでは「○○と遊んでいる麻友に『麻友ちゃんおりこうさんね。一人で遊んでるの』と語りかける」となっているのを、「寝ている麻友に『麻友ちゃん、かわいい寝顔ね』」と語りかける」というように変えてしまうのです。もっともよっぽど条件が揃っていなければ、この方法は使えません。
以上、赤ちゃんの出るシーンで私たちは大変苦労しましたが、赤ちゃんは私たちの指示通りには動いてくれない替わりに、時として思いもかけない芝居(?)をして、私たちを驚かせたり、喜ばせたりしてくれます。よく言われることですが、赤ちゃんの超自然な愛らしい表情や仕種には、どんな名優もかなわないということを再認識させられました。
麻友ちゃんの愛らしい表情と演技(?)をたっぷりとお楽しみください。

もうひとつの見どころは雲水たちの食事シーンです。僧堂での雲水たちの生活は厳しい規律に則って行われます。食事も食堂(じきどう)に向かうところから食べ終わるまで、すべて厳しい規律の下に進行します。合図の拍子木が鳴ると、食事の間、一切声も物音も立ててはならず、沢庵を噛む音すら禁じられており、仕種だけで意志が伝えられます。座る序列も食べ始める順番も食べ終わる順番も決められており、静寂の中で流れるように食事が進められていきます。番組ではナレーションで三度の食事の内容を解説し、映像で食事中の作法を中心に描いてみました。陽春がおかわりの分量を合図する仕種にご注目ください。

第12話

ドラマ30は家族のできことを描くことが多いので、必然的に食事のシーンがよく出てきます。「ピュア・ラブU」も例外ではありません。というよりは、ほかのドラマと比べて食事のシーンが多いかもしれません。普通シナリオには「○○と△△が向かい合って夕食をとっている」ぐらいしか書いていないものです。ところが「ピュア・ラブU」のシナリオには献立が克明に書かれているのです。たとえば12話の中ほどに木里子と周作と菊乃が夕食を食べるシーンがありますが、そのシナリオには・・・テーブルの上には、コンニャク、人参、油揚げ、ひじきの白和えと白ゴマをたっぷり振ったゴボウと人参のきんぴらとほうれん草の胡麻和えをそれぞれに持った箸つきの器に小芋の田楽を盛ったお皿に、各一匹づつカマスの塩焼き 輪切りのレモン添えが並んでいる・・・とあります。すべての食事シーンにこのような献立が書き込んであるのです。
これは「ピュア・ラブU」にとっては大変に重要なことなのです。それぞれの食事シーンの献立には、その料理を作る登場人物の思いが込められており、料理を作る側と食べる側との人間関係やその家族のありようを表現しているのです。たとえばドラマの中で食事を用意する側の人物たち―忍や戸ノ山や菊乃は、3度、3度の食事をちゃんと取ることを生活の中での重要なポイントと考えています。そして家族や愛する人たちのために、健康状態や心理状態や好みに合わせてその日の料理を考え、心を込めて作ります。その忍や戸ノ山や菊乃の思いがシナリオの献立に書き込まれているのです。彼らの食事に対する考え方や画面に出てくる料理をポイントとしてドラマを観ていただくのも面白いかもしれません。
食事シーンのことでもうひとつ。俳優さんたちがおいしそうに食べている料理は小道具さんが作ります。撮影で使う料理のことを「消え物」というのですが、この「消え物」の味が俳優さんたちに評判なのです。まずい「消え物」を演技でおいしそうに食べているのではなく、本当においしい料理なのです。MBSのドラマに出演するとおいしい「消え物」が食べられると楽しみにしている俳優さんが大勢いるそうです。

第13話

この回は周作のアメリカみやげが思わぬ波紋を巻き起こす話がポイントになります。
ドラマの上ではこのみやげはニューヨークの「ティータイム」で買ってきたことになっていますが、番組を見ていただくと「ああ、あれね」とつぶやかれる方が多いと思います。
遠慮なくどうぞ。いろいろありまして、私たちはそう思われることを前提にわざと「ティータイム」と名づけたのですから。
さて、このあたりからこのドラマにおける戸ノ山さんの比重が次第に大きくなります。
周作に心を寄せる戸ノ山さんに扮する楠見薫さんの悲喜こもごもの演技が見どころです。
第14話

天寧寺で修行中の陽春が禅堂で坐禅をしている場面があります。禅堂の中を棒を構えて廻っているのは直日(じきじつ)という役目の雲水です。直日が手にしている棒は警策(けいさく)といって長さ4尺2寸の平に削った樫の棒です。坐禅中の雲水が集中力を失ったり、睡魔に負けそうになると、直日がその雲水の肩にチョンと警策で合図をします。そしてお互いに低頭合掌しあって、身を低く構えた雲水の背中を直日が警策で打つのです。左右それぞれ夏は2回、冬は4回と打つ数も決まっているそうです。出演していただいた僧侶の方に警策を受けるときの気持ちを聞くと、「スッキリして気持ちがいい」とのこと。そこで陽春役の猪野学さんにも本物の直日さんに手心を加えずに警策を打ってもらうことにしました。
さて本番。「用意…スタート!」の声とともに猪野さんが合掌して身を低くします。直日さんがおもむろに警策を構え、振り下ろします。そのとたん、私もスタッフもびっくりするほどの大きく鋭い音が禅堂内に響き渡りました。スタッフの顔が一瞬ゆがむほどの激しい音でした。猪野さんの顔を見ると、いつもの思いつめた陽春の表情のままです。何ごともない様子で身を起こし、低頭合掌の演技を続けています。私は安心して「カット!」の声を掛け、「OK」を出しました。その時、急に猪野さんの顔が歪み、「痛ーっ」という声とともに背中を押さえてうずくまりました。直日さんの入魂の警策がしたたかに猪野さんの背中を打ち据えたようです。
もちろんベテランの直日さんの警策ですから、ケガなどまったくありませんでしたし、ごくごく普通の打ち方だったようです。それにしても日ごろ修行を積んでいる雲水さんたちの強さを改めて思い知らされると同時に、猪野さんのプロ根性にも感心しました。ぜひとも陽春を打つ警策の音にご注目(耳?)ください。

第15話

今回の見どころは宗達と陽春の緊迫感あふれる芝居です。ストーリーを詳しくは書けませんが、師弟が和やかに語り合う穏やかな前半から、一転して後半は、宗達が陽春に「木里子さんをどうするつもりか?」と問いかける緊張したシーンに変わります。この問いは陽春にとって、師から「人間として、雲水として、弟子として、どう生きるのだ?」と言われたに等しい問いかけです。
この場面の演出プランを立てるに当たって、私は何かよりどころになるものはないかと考えました。シナリオ上ではシーンの前半は二人が向かい合っての芝居、後半になってから宗達が陽春に白湯を入れてやりながらの芝居になっていました。この構成は前半を「静」後半を「動」とする組み立てのように思われました。私としてはこのシーンを大変面白く感じていましたので、シナリオに書かれている以上に膨らませたいとの野心を持っていました。そこでシナリオとは逆に、前半を「動」後半を「静」にしてはどうかと思いつき、「茶の湯」を使うことにしました。茶を点てる動作は白湯を入れる動作よりもはるかに多くて長い動きになります。前半は宗達の茶を点てる動きで「動」を表現し、後半は陽春の茶碗を受け取る動きと喫する動作、むしろ前半よりは大きい動きの中で「静」と「緊張」を生み出す演出をしてみました。
もともと私の演出パターンは出演者の皆さんにいろいろと動いてもらって体の動きと間とで感情を表現することが基本になっています。畳の部屋で出演者はたった二人、当然座り芝居が基本になり、しかもかなり長いシーン。動きの中でいかに緊迫感が創り出せるかを考えた答えが「茶の湯」でした。「茶の湯」は室町時代から禅宗の僧侶たちには深い関わりがあります。師弟の丁々発止の対決の舞台装置としては最適だと思います。さて、どのような場面になったか?結果は放送でご確認ください。