世の中には傷ついた親子関係に苦しむ人も多く、肉親ゆえに憎しみの淵は深いのです。しかし愛の対局は憎しみではなく、無関心です。憎しみの裏には愛に転じる何かが息づいています。本作における親子には、普通の親子なら誰でも持つ程度の葛藤があるだけですが、母親は死を目前に心が澄み渡っていて、息子たちもその穏やかな光を浴びつつ、親子や生と死の本質を見つめます。
 親を憎んでいる人の胸にも届くよう、思い込めて書いた、これは母恋いの書でもあれば、この世を去りゆく者への鎮魂歌でもあります。
 そして鎮魂歌はとりもなおさず、この世を、なお生きていく者たちへのエールでもあるというのが、人生の素敵なパラドックスなのかもしれません。死を見つめることは、生を見つめることです。
 たくさんの浄化の涙を流して頂き、そして少し笑って頂けたら、脚本家冥利に尽きます。

井沢 満

NHKドラマ「みちしるべ」で脚本家デビューし、プラハ国際テレビ祭 グランプリ他を受賞。以降、受賞作品多数。2012年放送のスペシャルドラマ「花嫁の父」では、日本民間放送連盟賞テレビ部門優秀賞を受賞、海外ではUS国際映像祭で金賞に選ばれ国際的にも評価された。
人気シリーズ「外科医 有森冴子」は、医学ものドラマの先鞭をつけ、タイトルに役名を織り込むブームを作った。