桜咲くまで日記 :#1 大垣一穂
男もすなる日記といふものを監督もしてみむとてするなり。

ちなみに私は男性です。一穂という名前は女性と間違えられることも有りますが、実はこの名前、秘かに気に入っています。
そんな私事はさておいて、今回の作品『桜咲くまで』に最初に関わったのが2003年の3月。ちょうど桜の咲き始めた頃でした。それから、脚本の打ち合わせ、撮影スタジオの下見・決定(今回は東京です)、キャスティング・オーディション(長女の菜穂子役は100人以上もの候補者の中から選出しました)、スタッフリング、ロケハン(ロケ場所の決定)、美術打ち合わせ、衣裳合わせ、音楽(劇伴と言います)・主題歌の打ち合わせ、等の莫大な作業をコツコツと紆余曲折、試行錯誤を繰り返しながら半年以上かけて積み重ねて来ました。

番組タイトルを取っても『ホーム・ページ』から『不良家族』、そして『桜咲くまで』と大きく二度の変更、候補も入れると20以上のタイトル名が挙がりました。細かいことも一つ一つ確認しながら徐々に前進するイメージでしょうか。振り返れば長く、またあっと言う間の短い半年間でした。

そして10月1日 水曜日   いよいよ顔合わせ・本読み。

この作品に関わるキャスト、スタッフが初めて全員そろい、自己紹介や挨拶をする日です。尚且つ、撮影開始を目前にして「ついに始まるんだなー」と実感させられる節目の大きな公式行事でもあります。百数十人もの出席者みんなの緊張が増幅されピリピリとした会場を、一番前の席から見渡す景色は本当に壮観で、身の引き締まる思いがします。立場上、平然を装い堂々としていたつもりですが、実は子供の頃から、仲の良い親戚と半年振りに会っても緊張して話せない程の人見知りなので、心臓がバクバクするのが自分で分かる位上がっていました。
以下、わりかし若い演出陣の一人として紹介されて、短い挨拶の中で話した言葉です。

「私は桜という花が大好きです。人生の新たなスタートや別れの時期に咲く花。そして日本を象徴する花の桜。その桜の樹が、最終回が放送される頃に『心の中の故郷づくり』のイメージとオーバーラップして満開に花開くことを楽しみにしています。」

顔合わせが滞りなく終わり、10分の休憩後の本読み開始。
第一週目の台本をキャストのみなさんに初めて台詞を読み合わせてもらう作業です。今まで活字を読んで自分の頭の中のイメージだけで組み立てていた脚本が、出演者の方の声で音として現実的に頭に飛び込んで来ます。一部の方はスケジュールの都合で代読だったのですが、それぞれのキャラクターが際立ってピッタリとはまり、自分の想像以上に面白くなる手ごたえを感じた楽しい本読みでした。
ヨシッ。大丈夫。

10月4日 土曜日、大安吉日。
撮影初日、ロケーション。3ヶ月間に渡る撮影のスタートです。
撮影隊は渋谷出発。自分は六本木の現場に直接入りました。
朝のコーヒーを飲みながら心を落ち着けて、しかし気持ちは昂揚して行きます。
そうで無くても大変なのに、まずは二週目の長男の孝文が或お店で働いている重要なシーンから。(スケジュール担当の古賀さん、別に文句を言ってる訳じゃないので(笑))ちょっとしたセレモニーを行いリハーサルを経て、直ぐに1カットずつ収録して行きます。普段の孝文のキャラクターもまだ掴めてないのに、営業的に装った特別な芝居。演じる小松拓也君の緊張がストレートに伝わって来ます。でも、頑張ってました。
そして妹の菜穂子も加わって、初めて兄と妹が会話を交わすやはり大切なシーン。(…)沢尻エリカちゃんの持ち前の明るさで現場は華やぎますが、最初だけに中々お芝居が噛み合わない。当たり前です、はじめからすんなり行く方が不自然ですよね。
順調、順調。

10月5日 日曜日 ロケーション。新宿出発。
まずは女子高の登下校のシーン。菜穂子も友達役のみんなも制服がとても似合っています。あまり目にすることのない、えんじ色のブレザーの制服。いい感じ♪
そして夕方、父役の渡辺裕之さんの登場。中学生の菜穂子を離れたところからそっと見る短い回想シーンですが、さすが現場も引き締まるし、お芝居も落ち着いてます。
自由が丘に移動して夕食後は、いよいよヒロインの市毛良枝さんの出番です。高校時代のクラスメート役の国広富之さんとの待ち合わせのシーンです。街中でのナイターシーンにギャラリーも自然と集まって来ます。すれ違う設定の渡辺裕之さんから演技のアイデアを提案され、思わずいただきました。(笑)
そして市毛さんの素敵な笑顔のカットを収録して、まさしく『桜咲くまで』出発進行!

一週目は母、娘、息子、父、それぞれが心も生活も家族としてバラバラな状態から始まります。
ある意味、不干渉家族とでも言うのでしょうか。唯一会話を交わす母に対しても、娘はお互いの関係を平穏に取り繕うために嘘をつき、秘密を持っています。そして自らを家族から隔離した息子。ついに息子に本音でぶつかって行く母。6年間離れていた父と娘の偶然の再会。プロローグながらも物語は急転して行きます。決して普通ではない家族の情景を、視聴者の皆さんと同じ目線で日常的に切り取って行くつもりです。例えば携帯電話社会であるとか、毎日の食事や家事など、身近に思えることをごく普通に。等身大の人物像を誇大に表現せずに描いて行くので、すーっと自然に観ていただければ幸いです。