
一着一着との出会いにロマン求めて
アメリカ2万km買い付け旅の過酷
その男の荷物が日本に到着したと聞きつけると、東京・富ヶ谷の店の前には行列ができる。並ぶのは愛好家だけではない。同業者やアパレル関係者などその道のプロも、彼が仕入れた古着を目当てにやってくる。
栗原道彦。その目利き力と古着愛で「カリスマ」と呼ばれる。誰もマネできないとされるのが、アメリカでの買い付けだ。18歳から始めて今年で30年。「体力的にはキツいですけど、人任せにはできない」。数か月にわたり1人車を走らせて大量に仕入れては、帰国後は一着一着丁寧に洗濯。お宝のようなビンテージの数々が、整然と店に並べられる。
令和に入って再びやってきた"古着ブーム"。Z世代が火を付けたといわれる今回は、歴史的には第三次に当たる大きな波だそう。その最前線にいる栗原はかつて、あのコンバースのシューズをいち早く日本に持ち込み流行に一役買ったというエピソードも持つ。大手セレクトショップのトークイベントに登壇したり、メンズファッション誌の連載企画を依頼されたりと、ブームをけん引する。一方、価格の高騰で本当に好きな人に行きわたらないことに、忸怩たる思いがある。
そんな栗原は、今年の夏もアメリカに渡った。できるだけ安く仕入れて、お客が求めやすい価格で販売するのが目的だ。66日間、レンタカーで2万キロを行くという過酷なロード。ロサンゼルスからラスベガス、フェニックス、ヒューストン、ダラス。時に豪雨に叩かれ、車中泊を交えながら時間の限りを古着探しに費やす。ハロウィーンの衣装から軍服など、あらゆる衣料が集まるスリフト(大規模リサイクルショップ)では、ハンガーにかかる古着の肩の部分に触れながら驚きの高速移動で品定め。訪ねたスリフトの数は約700、会いに行った古着バイヤーは170人を超えた。日中はひたすら仕入れ先を巡り、トランクが一杯になるとモーテルで整理して日本へ郵送することを繰り返す。物価高騰に円安...懐事情が苦しくなる中、食事はもっぱらカップ麺。ラスベガスでは、タイヤが轍にはまり動かなくなるアクシデントもあった。でも、表情にはなんだか余裕がある。想定外こそが醍醐味であり、「思いがけない場所で、思いもしなかったものが見つかる」という古着の喜びにも通じるものなのだ。
長期遠征の終盤。あるバイヤーからの連絡で、寡黙な47歳が思わず相好を崩す希少な一着が手に入ることになった。

CATCH UP
TVer・動画イズムで無料見逃し配信中!
BACK NUMBER
このサイトをシェアする