オレオレ詐欺をはじめとした特殊詐欺。平成に生まれた犯罪でまだ歴史は浅いんですが、全国的に大きな被害が出ていて、大阪府では過去最悪のペースで被害が出続けています。手口が巧妙化し、現在では息子役以外にも警察官や弁護士といった多くの人物が登場するようになっています。その人材を確保するため、詐欺グループによるリクルート活動が活発化しています。
オレオレ詐欺をはじめとした特殊詐欺。平成に生まれた犯罪でまだ歴史は浅いものの、全国的に大きな被害が出ていて、大阪府では過去最悪のペースで被害が出続けている。手口が巧妙化し、現在では息子役以外にも警察官や弁護士といった多くの人物が登場するように。その人材を確保するため、詐欺グループによるリクルート活動が活発化しているという。

息子を助けたい一心で…劇場型オレオレ詐欺の手口とは?
【奈良県警提供】
(被害者)「もしもし?どないしたん?」
(詐欺師)「子どもができて。相手が旦那さんおる人で…」
(被害者)「えらいこっちゃやないか、あんた」
これは、息子などを装って現金を要求する「オレオレ詐欺」の実際の音声だ。約15年前に生まれた「オレオレ詐欺」は当初は「息子役1人」の単独犯だったが、今は弁護士や警察官など複数の役者が登場する劇場化が進んでいる。
大阪府内に住む70代のAさん(女性)は元大学教授で、今も週に1度は教壇に立っている。詐欺に対する警戒心は強く、電話の受話器にシールまで貼っていたが、去年10月、現金200万円を騙し取られた。
「すごく変な声の人だったので『もしもし』と言うから、息子なんかな?と思って、『これオレオレ詐欺か?』というたら、『俺いま風邪ひいていて何日も風邪治らん』と」(元大学教授 Aさん)
「息子」を名乗る男の話はこうだ。友人と一緒に株に投資していたが、投資資金の中に友人が会社から横領した1000万円が含まれていることが判明。2人で500万円ずつ出し合って弁償することになったが、あと200万円だけ足りないというストーリーだ。
「(息子が言ったことは)犯罪じゃないですか?使い込みをしちゃったわけじゃないですか?何とかしなきゃいけないと思って」(Aさん)
Aさんはすぐに200万円を用立て、受話器の向こう側にいる「息子」に言われるがまま待ち合わせの場所に指定された近くの駅へと向かった。そこで待ち構えていたのは…
【当時の様子】
この日、Aさんは“息子”とともに友人の会社の弁護士に現金200万円を持参することになっていた。
(Aさん)「お母さんです。駅に着いたけど、どうしたらいいの?」
(“息子”)「別の場所にいるからまだ行かれへん。近くにコンビニ見えるやろ?そこで待っといて」
Aさんは“息子”を名乗る男に言われた通り、コンビニに向かった。ところが、息子はいっこうに現れない。
(Aさん)「もしもし」
(“息子”)「ごめん、まだ出られへんから相手の弁護士の先生に迎えに行ってもらうわ。そのまま先生と事務所に行っといて」
(Aさん)「わかった、待っとくわ」
Aさんはに当時の様子を聞くと…
「植え込みあたりに黒いスーツの男が行ったり来たりしていて。携帯電話を耳に当てていた。あの人かな?と思ったけど、全然こっちに来ないし、どないなってんの?と思っていたら、その人がやって来た」(Aさん)
黒いスーツの男は「弁護士のスギハラ」と名乗り、「事務所まで連れて行く」とAさんに言ったという。
「その弁護士がおかしいなって思ったのは(携帯電話を)ずっと耳に当てているんですよ。私と会って話しているときも、一緒に歩いているときも。ずっと携帯から耳を離さない。おそらく携帯に何か指示が入っていた」(Aさん)
【当時の様子】
(“弁護士”)「実はいま息子さんと電話が繋がっています。話してもらってもいいですか?」
(Aさん)「もしもし、はい」
(“息子”)「お母さんごめん、弁護士事務所には友だちの上司がいてる。お母さんが行ったら気を悪くするから行かんといてほしい。だから、今そこで先生にお金とわからないようにして渡してほしいねん」
(Aさん)「わかった」
息子を助けたい一心で200万円を渡した。騙されたことに気付いたのは3時間半後のこと。まんまと詐欺師の猿芝居にやられてしまったのだ。

受け子「犯罪をしているっていう感覚があまりない」
電話をかけてきた息子役は「かけ子」、現金を受け取る弁護士役などは「受け子」と呼ばれている。取材班は実際に受け子をしていたという男性(20代)から話を聞くことができた。
「犯罪をしているっていう感覚があまりないですね。受け子は(被害者のもとに)ただ取りに行ってすぐに別れちゃうので。(かけ子に)言われたことしかやっていないので、業務みたいな感覚に陥るんですよね」(元受け子の男性)
そして、詐欺グループの内幕について次のように語った。
「かけ子はかけ子グループで会社みたいなのがあって、受け子も受け子で会社が分かれていて、別になっています。いろんなグループからいろんな仕事が来る。受け子はみんな大体若いですよ。ネットを通じて受け子を探していたりした。ツイッター」
なんと、ツイッターなどのSNSを使って受け子の「リクルート活動」が行われているのだという。

「裏バイト」「闇バイト」メッセージを送ると…
記者が早速、男性に言われた通り「裏バイト」や「闇バイト」という単語で検索してみると、たくさんの書き込みがヒットした。メッセージを送り電話番号を伝えると、30分後に男から電話がかかってきた。
「はじめましてヤマグチと申します」(ヤマグチと名乗る男)
Q.仕事の内容なんですけど?
「ブラックって言ってしまったらブラックなんですけど」
Q.犯罪ってこと?
「そうですね。受け子の仕事のときはキャッシュカードを取ってきてもらう」
そしてヤマグチと名乗る男は、「多額の報酬が得られる」と強調した。
「一番稼いでいる方で、月曜日から金曜日までの週5回で400万円近く。1か月ですね」(ヤマグチと名乗る男)
しばらくすると、別のツイッターの男からも電話がかかってきた。
「俺、この仕事30人ぐらい紹介していますけど。多分きょうから働けると思います。何を言えばいいとかも通話しながらやるので、全部言われたことを喋ればいいだけなんですよ、極端な話。よくテレビでやっている、家の中に警察がいて捕まったとかは絶対にないので。確認に行かせてますし」(「えうれか」と名乗る男)
こちらを安心させるためか、「絶対に逮捕されることはない」と語気を強めた。
しかし、違法である以上逮捕されないわけがない。摘発の数は年々増加し、去年は11月末の時点で2500人以上が逮捕された。未成年者も急増しているという。詐欺罪は「10年以下の懲役」で、実刑判決が言い渡されるケースも多く、決して罪は軽くない。

「これって犯罪行為ですよね?」記者の問いかけに
こちらが記者であることを明かした上で「えうれか」に取材を申し入れると、予想外の返事が返ってきた。
Q.これって犯罪行為ですよね?
「そうですね、たぶん」(「えうれか」と名乗る男)
Q.罪悪感は?
「え!これテレビに出るんですか?」
Q.受け子をとりまとめる役割をしているわけですよね?
「自分は(受け子の)紹介だけなので」
Q.(受け子を)1人紹介したらいくら?
「5000円とかじゃないですか?」
男は「自分もネットがきっかけで詐欺グループへ受け子を紹介する仕事を始めた」と話した。
「結構がちで始めたのが最近でして。本当にもう。本当にがち。本当にですけど、本当にここ最近なんです。本当に。1か月も経っていないんですよ」(「えうれか」と名乗る男)
Q.(先ほどは)30人紹介したって?
「はい、あれ嘘です」
Q.嘘なんですか?
「あれ本当に嘘です」
Q.じゃあ何人なんですか?
「1人もいないんじゃないですかね、たぶん」
Q.これは犯罪行為なので今後やめていただきたい
「わかりました」
Q.もうやめてもらえますよね?
「やめます。(やめる)きっかけになって良かったです」
ネット上に横行する詐欺師のリクルート活動。募集する側と気軽に応募する側、双方への対策が求められている。

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