第78回 木下鮎美

出来心がちょっとずつ続いてる感じなんです。


―いつごろからお笑いに興味を持たれたんですか?

私、もともと帰国子女だったんです。7歳~9歳の頃に2年半くらいオーストラリアに住んでいて、日本に帰って来てクラスになじめずにいた時に、ひとり面白い子がいて、笑わせてくれたりして、「かっこいい!」って。そんな経験があって、小学校くらいから、人を笑わせたりする人は「すごいな~」と思っていました。でも、その頃は日本のお笑いはわかってないと言いますか、芸人の人を見てもピンと来てなくて、新喜劇をやろうとも全く思ってなかったんです。ただ、小学校が創立記念日でお休みの時に、家族で新喜劇を見に来たことがありまして…。衝撃を受けました。「魔法みたい! 最後いい話になってる!」って。まさか自分がその舞台に立つとは思ってなかったですけど。
(大学では?)
大学では落語研究会に入ってました。でも、お仕事にしようとは全く思ってなくて。いざ就職活動という時に、英語は喋れるんですけど、どこに行ってもあんまり…。一応、内定先もあったんですが、留年しまして。そんな時に、吉本新喜劇の金の卵オーディションを受けたんです。全く違う分野だったら、思い切ってやって失敗してもダメ元かな、って。そしたら受からせてもらって。
(大学へ行って、ご家族は何で?って思われたのでは?)
そうなんです。ちょっと話がそれますけど、私、絵を描くのが得意で、「美大に行きたい!」くらいだったんですが、家が教育に厳しい感じでして、親にすごい反対されて諦めてしまったんです。就職する時に絵に関わる仕事がしたいと思っても、やっぱり専門学校に行かれた方が強くて。専門学校には親の反対を押し切って行かれた方もいるので、その時初めて「押し切るっていう力が自分にはなかった」と気づいて。就職するかお笑いするか、今度は親には相談せずに、入ってから言おうと思いました。

―オーディションはどうやって乗り切られたんですか?

一芸披露があった時には、それこそアマチュアですけど、落語をやりました。技術とかは何もないので、思い切りだけで行こうと、笑福亭仁智師匠の「源太と兄貴」という演目を選びました。ヤクザが怒鳴るようなネタで女性がやったらインパクトが一番強いかな、と。
(合格された時は?)
受かるとはほんまに思ってなくて、「合格を通知します」という日までに通知が来なかったんで、「落ちたんや」と思ったら、すごく悔しくなりました。そんな時に電話がかかって来て、「受かった~!!」ってなったんですけど、ちょうどお昼でみんなが家にいる時だったので、お母さんが出ちゃって、「吉本さんっていう人から電話かかってきたわよ」って言われて、「あ~どうしよう!」と。
(言ってなかったですもんね)
そうなんです。「新喜劇って何?」みたいになりました。「やることになったから」と押し切りました(笑) 就職はまた出来るかもしれないけど、オーディション合格は、まぐれ中のまぐれだから、きっと一生受からんなって思ったので。
(ご両親はビックリですね)
そうですね。父の方は大阪出身なんで、面白がってくれたんですけど。母の方が教育には厳しかったんで…。

―入ってみてビックリしたことは?

もう、ビックリしかないんですけど。そうですね、一番ビックリしたのは、全員が超人だったことが…。
(全員が超人!?)
まさかあんなに稽古が短いとは知らなかったですし、ギリギリに渡された台本を覚えて、プランを立てて演じつつ、その場で皆さんで合わせながら作品が出来上がるっていうのが、「いつ出来たん!?」みたいな感じで…。「すごい! 超人たちの集いみたいなところに来ちゃった~」と思って。それが一番ビックリしましたね。

―初舞台までの間のお稽古は?

もともとガリ勉タイプなので、言われたことはすごく真面目にやる方だと自分でも思います(笑) 発声とか、教えてもらうのは好きなので、けっこう楽しかったですね。初めの頃に金の卵ライブってあったんですけど、最初の頃は、「声が出てない!」って怒られてました。「お客さんからお金もらっているのに、ウケる、ウケへん以前に声が出てないのは最低や!」と言われて、ほんまにその通りやなと思って。発声練習とかでも「誰よりも声出さな!」と思って、まあまあ声が出るようになりました。伊賀健二さんの「伊賀流」っていうイベントに出させてもらった時に、ゲストの未知やすえ姉さんがひとりひとりにブチ切れるシーンがあったんですけど、私に「よう声出てるから、イジったろと思ってたけど、そのシーン、出てへんかったな」と言われて、メッチャうれしくて(笑)
(ちゃんと見てくださっているんですね)

―初舞台は覚えてますか?

覚えてます~(笑) 祇園花月で今別府さんの女装キャラ直子と、何人かのお客さんの役で。エンディングの時に座長の川畑さんから「この子、今日が初めてなのに、堂々としてるでしょ」って言われて。ほんまに声がデカかっただけやと思うんですけど(笑) セリフも2~3個だけでしたが、自分では「こんなに出来るのか!?」って思いました。舞台に立ってみたら、フィギュアスケートの氷の上みたいに、立ってすらいられないみたいな…(笑) 出来なかったんですけど、もし、出来るようになったらどんな感じがするんやろ?っていう興味も沸きました。
(初舞台を踏んで、これをやっていこうと?)
もうちょっとやってみてからでも遅くないんじゃないかと。新喜劇っていろんな人いるじゃないですか。同期とかでも、お芝居やってた人とか、女優になりたかった人ばっかり。私は簡単に言ったら、出来心がちょっとずつ続いてる感じで…。
(出来心?)
そんな気持ちでいていいのかなと思うこともあったんですけど、昔いらしたたいぞうさんっていう方が、一の介師匠の「ベル」というお店で一緒にバイトさせてもらった時に、「いろんな人がいるのが新喜劇のいいところやからなあ」と言ってくださって。出来心で続いてる人がいてもいいんかな~と思って、今、奇跡的にいます。

―迷った時に先輩とかに相談されることは?

私の場合は、同期が仲良くて。NSCも行ってない鮫島幸恵ちゃんと吉岡友見ちゃんと一番よく話してました。2人とも全然経歴が違うんですけど。
(アルバイト先の一の介師匠は?)
一の介師匠は「お前と雰囲気が近い奴がもう舞台に出てるから、落語家になったらどうや?」って。「英語も出来るし、英語落語とか需要もあるし、別のところに行った方がお前のためになる」と。
(すみ分けって難しいですよね~)
私の理想としては、珠代姉さんと安世姉さんみたいに色が違う形で一緒に舞台に立てたらいいな…と思っていました。あと小籔さんが私が英語を喋れるのを知って、舞台で英語のボケを作ってくださったり、絵が得意なのを先輩たちが見つけてくれて、画伯キャラとかやらせてもらったり。ちょうどいろいろ出来そうやなという時に事故に遭ったので…。

―今年2年ぶりに復帰されたんですね。

交通事故でお休みさせていただいてました。それ以前は、お芝居より、お笑い要素の方に興味があったんですが、新喜劇に入って、芝居が出来なあかんのに、「芝居というものが全くわからない!」ってなってたんです。でもお休みに入ってから、せっかくやし、お芝居の勉強してみよう、本を読んでみようと思って。リハビリのかたわら、ワークショップの授業にも行ったり。私、頭が固くて、ガリ勉なんで、すぐにお金払って教えてくれるところに行ってしまうんです(笑) そういうところの方がしっかり頭の中に入って来るんです。いろいろやってみて、戻って来てからはアドリブやギャグより、メインのストーリーの方がいいなと思うようになりました。小学校の時に見に行った時もそうだったんですが、笑っていたら、いつの間にか家族のゴタゴタが解決してたっていうのにビックリした事も思い出して。戻って来て、何週目かで西梅田劇場に出させてもらったんです。その時、今別府さん演じる転校生の直子ちゃんが、どうみんなと仲良くなったらいいかわからなくて、お金で解決しようとして、余計に周りから浮いてしまう姿を見て、帰国子女で帰って来た自分と似てる、って。その話はすごく印象に残ってます。戻って来てからストーリーに魅力を感じるようになりました。

―休団中は、焦りもあったと思いますが。

ありました~。新しい子も入って来るし…。一時すっごい焦りが強くて、全然ケガ治ってないのに、「もう大丈夫です! 早く復帰したいです」って言ったら、マネージャーさんに「時間がかかる治療やから、しっかり休んでからでも遅くないよ」って言われたんですけど。たぶん、年齢的なものもあったんでしょうね。「今、復帰したい!」というのが強い時期がありました。周りも藍さんが座長になったりとか、9個目が入ってきたりとか、寿退団する人もいたり、劇場も増えたりして、焦りました。周りの方からはこれを機に道を変えた方がいいんじゃないかとかも言われました。私自身は波があって、焦ることもあれば、急に気持ちが落ち込んだり。でも何がうれしかったって、みんなが「大丈夫?」って声をかけてくれるのが一番うれしかったです。私しゃべりとかも下手で不器用なんで、うまく周りの人とかとしゃべれなかったりするんですけど、座長になって忙しい藍さんも、「おもしろ画像」とかメールで送ってくださったり。結構ケガしてて笑ったら響くんですけど、「あ~あ~」って笑ってましたね。

―復帰はうれしいのと不安とではどちらが大きかったですか?

不安です。なんか嘘みたいで。焦りを1回通り越して、全然実感がなくて、「うれしい」にならなかったです。急に、お客さんに不自然に見えて笑いにならなくて、舞台を全部ぶち壊してしまうんじゃないか、とか。1週間出来るかなとか。1回目、2回目とかでやっぱり無理やでってならないかとか。そんな不安ばっかりでした。
(復帰はNGKでしたね?)
そうなんです。小籔兄さんの週で、ジャボリ・ジェフと一緒で、それもハリウッド映画監督の役って。
(得意の英語で復帰できて良かったですね)
まさかの復帰舞台で日本語を一言も喋らず。日本人じゃないっていう…。見に来てくれた友だちや先輩からも「ええ役もらったね」って言ってもらいました。
(初日はだいぶ緊張されました?)
緊張しました。初日より稽古とかメッチャ緊張して。(舞台に)立ったらなんかすぐでしたね。出来てないとこもあったと思うんですけど、英語だったんで、どこが出来てないか誰にもわからなかったと思います(笑)

―復帰から半年、今はどんな気持ちですか?

今は……結局なんだかんだ言って、二枚目ではないし、三枚目を絶対やりたいぞと思っても、立ち位置が中途半端なままやし。でも、ジャボリの加入もあって英語で喋るボケをいただいて、「こんなことできるんじゃないか?」というのが増えまして…。完璧なボケのキャラじゃなくても、ちょっとズレがある、ちょっと違う色のある人やなっていう線をやって行けたらなと思います。あと、大きいことですけど、海外公演とかあったりする時には何か力になれたらいいなと思ってます。うれしかったのは英語が喋れる役をやらせてもらうと、たまに英語勉強してる子からファンレターが来るんですよ。「テレビで見てこんな風になれたらいいなと思いました」とか。まさか新喜劇見てそんな風に思ってもらえるって。そんなこともあるのかと思うようになりました。私より若い子に少しでもと夢を与えられる場所ってすごいな、と。不器用な分、皆さんと違う形で力になれればいいな、と。
(ご自身をすごい不器用だと?)
思います~う!!
(でも、「勉強が好き」も、特技のひとつでは?)
勉強って、教えてもらったことをやるだけじゃないですか。出来ない時は、もどかしいとは思うんですけど、逆に、私は出来ないことの方が長続きするんです。出来ないと、「出来るようになったらどんな感じなんやろ?」って思って。新喜劇とかお芝居とかお笑いとかも教科書がないですし、正解がないですし。そういうものの方が勉強と違って興味がわいてしまうんです。下火ですけど、ぢりぢりと続けてしまう傾向にあります。
(じゃあまだまだ続きますね)
そうなるといいんですけど!

―最近、プライベートでハマっていることや興味を持っていることは?

………(しばらく考えて)なんて言えばいいのか、読書とかが好きで、興味の赴くままに、めちゃくちゃマニアックかも知れないですけど、神話とか哲学の本にハマってます(苦笑)
(あ~勉強好き!)

2018年6月12日談