屋台人間人事前田 放送業界の明日を考える vol2

株式会社毎日放送スポーツ局 スポーツコンテンツセンター主事 戸谷 優宏
ヤフー株式会社メディア サービスカンパニー企画本部 サービスマネージャー スポーツナビ株式会社取締役CCO 戸谷 優宏

2020年、
スポーツはテレビで観る?
スマホで観る?

5年後10年後の近い未来、放送やメディアの形はどうなっているのだろうか?

『屋台人間人事前田』は、毎日放送人事部の前田が、就活生が「放送業界で働いてみたい!」と思えるテレビの未来を探すために、自ら「屋台人間」となり、MBSの社員を連れて、時代の最先端をいくキーマンの元へ話を聞きに行く、出張屋台対談コンテンツです。

▶︎詳しい経緯は「屋台人間人事前田 放送業界の明日を考える vol.0」へ。

今回訪れたのは、東京都千代田区にあるヤフー株式会社。同行するのは毎日放送でスポーツ番組の制作に携わる戸谷優宏(とやまさひろ)。
ヤフーの中でもスポーツコンテンツに特化したメディア「スポーツナビ」のサービスマネージャーを務める小用圭一さん(スポーツナビ株式会社取締役COO)と「オリンピックイヤーの2020年、スポーツはテレビで観る?スマホで観る?」をテーマに、放送業界の未来を探ります。

<この対談のポイント>
・違う業界から見た放送業界の「強み」と「弱み」がわかります
・就活生が具体的な夢を見つけるヒントとしてキーマンからのアドバイスがあります
・ESや面談の参考になるように「ホンネ」で語っています

Profile

ヤフー株式会社メディアサービスカンパニー
企画本部 サービスマネージャー
スポーツナビ株式会社取締役COO
小用 圭一(こよう けいいち)
学生時代は少年サッカーのコーチに打ち込みスポーツを通じたコミュティ形成に関心を高める。2007年ヤフー株式会社入社。北京五輪特集のモバイルサイトディレクター、バンクーバー五輪特集のチーフディレクターを務め、Jリーグのベストイレブンを予想するファンタジーゲーム「ファンサカ」のディレクターを担当後、2012年にプロデューサーに転向しサッカー・野球を中心に幅広い種目の企画に従事する。ソフトバンクと共同で「スポナビライブ」を立ち上げたのち2018年より現職。2019年3月に実施したヤフー・毎日新聞・毎日放送3社による「センバツLIVE!2019」の共同運用でヤフー側の責任者を担う。
株式会社毎日放送 スポーツ局スポーツコンテンツセンター 主事
戸谷 優宏(とや まさひろ)
学生時代は野球部に所属。スポーツ志望で入社するも最初の配属はテレビ制作に。その後テレビ営業を経て、入社7年目にスポーツ局に配属され、野球、ゴルフなどの中継を担当。2019年はヤフーとコラボレーションした「センバツLIVE」では総合演出に。

これからのスポーツに必要なのは「コンテンツのコア化」

前田

前田

いきなりなんですが、最近地上波からスポーツコンテンツが減りつつある……という話がありまして。
戸谷

戸谷

長期的にみるとそういう傾向にはありますね。大きな大会以外は地上波放送から減っているような気がします。私が営業をしていた5年ほど前にあった噂ですが、スポンサーが「エロ」はもちろん「時代劇」そして「スポーツ」を扱う番組のCM枠の購入を避けているらしいという話がまことしやかに言われていました。
小用

小用

コンテンツの制作側ではなく、CM枠を買うスポンサー側が避けるんですか?それは初めて聞きました。
戸谷

戸谷

もちろん競技にもよると思いますが、そういう傾向はあると思います。
小用

小用

でも、プロ野球はセ・リーグ過去最高の動員数を記録したりして盛り上がっているじゃないですか。
戸谷

戸谷

テレビ放送は減っているのに、動員数は増えているっていう現象が起きているんです。
前田

前田

他業界から見て、この現象についてどう思われますか?
小用

小用

我々が大事にしているのは、コンテンツの「コア化」です。業界は違いますが、放送局のスポーツコンテンツの未来も、やはりそこにヒントがあるのではないでしょうか。
前田

前田

コアっていうとマスの反対だから、マニアックなスポーツを取り扱うっていうことでしょうか。
小用

小用

そうですね。たとえば僕らが運営している「スポーツナビ」は、テレビ番組に負けないぐらいたくさんの方に毎日観ていただいています。ただ、それでもやっぱりテレビにはまだかなわないと思うところがあります。それは我々のサイトに来る人はそれぞれ目的が違うんです。野球について知りたい人がいれば、サッカーについて知りたい人も来ますから。でもテレビは、全国ネットで視聴率10%をとったら、野球一試合、数時間の放送で約1,300万人に届くじゃないですか。世界的に見ても、そんな影響力を持っているメディアはなかなかないですよ。
戸谷

戸谷

インターネットのコンテンツって、お客様のほうから情報を取りに来てもらわないといけない構造で。一方でテレビは、つければ流れている。調べて、ページを開いて…と手順を踏まえなくても、言ってしまえば観ようと思っていないお客様にも情報が届きます。

小用

小用

そうですよね。テレビは、たくさんの人に見てもらうために放送局の方が伝える情報を常に取捨選択されていて、わからない人にもわかりやすいコンテンツに仕上がっている。これは放送局の方の努力の賜物だと思います。一方で、コアなファンにはニーズがあるのに一般のファンにはニーズがないような情報を伝えることには適していないという側面があります。そこをカバーできるのがインターネットメディアであり、インターネットメディアが頑張るべきコンテンツの「コア化」だと思います。例えば、テレビで見て興味を持ってネットで検索してコアな情報に接触した人は、当然またテレビを見たいと思いますよね。そういう意味でインターネットとテレビは補完関係にあると思っています。
戸谷

戸谷

テレビだけネットだけではなく、テレビとネットを行き来する関係になっていくのですね。

スポーツ少年を再び学校のヒーローに

前田

前田

2019年はMBSとヤフーさんにとって大きな出来事がありました。MBSはこれまでも「センバツLIVE!で選抜高校野球大会をインターネットでライブ中継してきたのですが、今年はヤフーさんとのコラボで、Yahoo! JAPANのトップページに掲載していただいたり、Yahoo! JAPANアプリに「高校野球」特設コーナーを設置していただきました。その結果、想像以上の方々に選抜高校野球大会をご視聴いただけました。本当にありがとうございました!

※「センバツLIVE!」は、MBSが毎日新聞と共同で2016年から選抜高校野球大会の全試合をサイトとスマートフォンアプリでライブ中継するサービス。
小用

小用

こちらこそありがとうございました!
前田

前田

テレビとネットの両方でご覧いただくということで制作費が増えました。その結果「カメラ台数を増やせて中継のクオリティーが上がった」とか「これまでできなかった全出場校への事前取材ができた」と制作現場はすごく盛り上がっています。
戸谷

戸谷

すごくモチベーションが上がりましたよ。観ていただく機会が増えて制作費も上がる。これまで費用の問題で難しかった、全ての代表校の取材に行ってそれを放送することができました。よりチームのことを分かっていただいた上で、試合を見ていただくのでコンテンツとしてのクオリティーは格段に上がりました。我々には良いことがたくさんありましたが、スポーツナビさんには今回のことでどんなメリットがあったんでしょうか?実はずっと気になっていました。
小用

小用

もちろんちゃんとメリットはありますよ(笑)。大きく言うと2つのメリットがありまして……。まず1つ目は我々の「スポーツナビ」をいつも見ていただいている層とは違う層の方々に観ていただくことに成功しました。大会中は、視聴者の数も増えましたし、幅広い世代の方に見ていただけました。
戸谷

戸谷

センバツ高校野球は他のスポーツにはそれほど興味はないけれども「高校野球が大好き」という方もいらっしゃいますからね。そういう方は普段はそんなに積極的にネットで情報は拾われていないかもしれませんね。
PC版Yahoo! JAPANトップページでの視聴イメージ
小用

小用

視聴ログを調べてみると、想像以上に女性にたくさん見ていただいていたのは驚きでした。あとは、30代、40代男性にスマホでご覧いただいていました。仕事中にテレビは観られないけれど、スマホなら見られるという会社員の方がたくさんいたことがわかりました。
戸谷

戸谷

インターネットだとそういうこともわかるんですね。
小用

小用

そうです。おもしろいですよ。もう1つのメリットは「スポーツ少年たちを再び学校のヒーローにする」という夢への種まきをさせていただいたことです。
前田

前田

といいますと?
小用

小用

僕は学生時代にサッカーをやっていたので、高校時代の3年間にスタメンで試合に出るのって、すごく価値があることだと思っているんです。たくさん練習をして厳しい競争を勝ち抜かなければならない。そんな頑張っている子たちにもっと輝いてほしい。なので試合に出たんだということを映像として残してあげたい。今、学校のヒーローになりたい子はTikTokをやっているかもしれません。でも、もしスマホで、スポーツをしているかっこいい姿を観てもらえて、そこからヒーローが生まれるようになれば、もっとスポーツをする子供が増えるんじゃないかと。スポーツを頑張っていることに対する社会的な価値がもっと上がるべきだと思っているんです。
戸谷

戸谷

すごくわくわくする話ですね。テレビではメジャーなスポーツを扱うことが多いのですが、僕たちには「まだ脚光を浴びていない頑張っている人にスポットを当てたい!」という想いが強くあります。ですから、その気持ちにはすごく共感できます。
小用

小用

プロ野球選手になるのって、東大に入るよりも難しいと思うんです。10億円稼ぐ会社の経営者になるくらい難しいかもしれない。しかもスポーツ選手は、ビジネスマンと比べたら現役で活躍できる期間も短いじゃないですか。年俸の金額などでみれば高いかもしれないけれど、それも一握りの活躍している選手たちだけ。総合的に考えると社会の希少性に対してスポーツ選手がもらっているお金が少ないと思うんです。だからこそ僕らは彼らに投資をするべきで。最終的に選手たちの収入が増えるような世の中の仕組みを作っていきたい。「センバツLIVE!」の取り組みにはそういう想いがあります。
戸谷

戸谷

ヤフーさんは、IT企業で、最先端で、お金の話をたくさんしていて・・・…、っていういうイメージを持っていましたが、熱い想いからビジネスがスタートしているんですね。僕たちも世の中から「マスゴミ」と呼ばれることもあるのですが、やっぱり「素敵なものを世の中に伝えたい」「頑張っている人を応援したい」っていう気持ちが原点にあるんですよね。今日お話できて本当に嬉しいです。
小用

小用

ありがとうございます。ところで、今回いつもよりたくさん取材ができたということですが、それによって放送はどのように変わるんですか?
戸谷

戸谷

事前取材でVTRの中身が充実するだけでなく、事前取材したからこそ試合当日のライブで撮れる映像も変わるんですよ。例えば事前に取材した内容を伝えておくことで、カメラマンが誰をどう撮るべきかを深く理解して中継できる。そうすると画のバリエーションがものすごく増え、試合そのものを追いかけるだけでなく、高校生たちが1年間がんばってきたドラマも中継を通じて届けることができるようになるんです。お金をかけて取材ができたからこそ、映像も情報も、残せるものの量だけじゃなく質も高まり、全体的な価値がぐっと上がった。本当に貴重な財産になったと思います。
小用

小用

なるほど。そこまで考えて映像を作られているんですね。今回コラボさせていただいて改めて、ネットのコンテンツと比べて、テレビってすごく見やすく作られていてクオリティーが高いなって思いました。
戸谷

戸谷

今後はもっと選手個人のパーソナルな情報を取材して出していったり、財産となっていく取材内容をしっかり生かしたりして、映像自体だけでなくお届けする情報の質も高めていきたいですね。情報があることで中継のクオリティーは上がるし、せっかくなのでネットを使ってもっと広い人に観てもらいたいですね。
小用

小用

財産として残っていくのは、映像技術や機材、取材内容はもちろん、その中で得たノウハウも含むと思います。今後放送する内容に対する視聴者からの反響だって財産になる。私たちがコラボしたことにより、残っていくものがそんなにあるということがすごく嬉しいです。今後も一緒にコンテンツを作らせていただくことで、「コラボしたからいいものを作れて、次につなげていくことができた」と言えるようなものを一緒に作ってきたいですね。
戸谷

戸谷

機材でいえば、準決勝・決勝でワイヤーカムっていう空中からあらゆる角度で撮影できるカメラを導入したんです。その映像はとても反響がありました。甲子園では大型機材を使用する際の耐久性確認にかなりお金がかかるため、これまで大掛かりな撮影事例がありませんでした。今回は施設内の柱などの耐久性を費用をかけてきちんと確認できたので、ワイヤーカムを設置することができました。初めての試みでした。
小用

小用

たとえばワイヤーカムのような新しい試みに対して、「これは続けよう」とか「これはやめよう」とか話し合う場合、我々はKPT(Keep Problem Try)という手法を使って、できるだけ客観的に、目標をどれだけ達成できたかを振り返ります。ここにはすごく力を入れていますね。そういった振り返りはどのようにされていますか?
戸谷

戸谷

もちろん反省会はしますが指標は使わないですね。内容はスタッフの想いをぶつけ合うあうような感じです。ここは良かった、ここは悪かったと徹底的にやります。かなり熱いです(笑)。
小用

小用

KPTを使うと、たとえば今回のMBSさんであれば「来年はワイヤーカムにお金をかけずに別のことに投資しよう」となるかもしれないんですよ。主観的ではない指標もあえて使ってみるのもいいですよ。あと会議での発言は世代に関係なくできていますか?
戸谷

戸谷

極力若い人に話をふって意見は聞くようにしていますが、やはり僕みたいな仕切る立場の人間や、キャリアの長い社員の意見や感想が反映されやすいですかね。
小用

小用

権力とか声の大きい人で全部決めてしまうと、間違った方向に全員が突っ走ってしまう可能性がありますよね。振り返りは、定量的に何をやってコストがどれくらいかかったのかとか、コストをかけて作ったものに対する価値は考えたほうがいいですよね。もちろん経験や感性もとても大事なことなので両方をうまく使っていくということなんだと思います。
戸谷

戸谷

すごくおもしろそうですね。映像という分野では我々には膨大な経験が継承されています。それらをうまく使いながら、そこに定量的な要素を加えてみるとどうなるのか。ぜひやってみたいですね。さっそくKPTの勉強してみます。

映像の制作費は10年以内に10分の1になる

小用

小用

僕らが考えるインターネットでの戦い方って、手法自体は結構シンプルなんです。映像の制作コストをできるだけ抑えてたくさんコンテンツを作って、色々なところにばら撒くんです。スポーツ中継のハイライトがTwitterなどで拡散されているのをよく見かけると思うんですけど。
前田

前田

テレビはもちろん制作費は決まっていますが、あるものを全部使って最高のものを作り上げる。クオリティーを上げることにはとことんこだわりますが、コストを下げることにはそれほどこだわりませんね。
戸谷

戸谷

たしかにそうですね。それはそうと、ネットのハイライトで気になるのは、ああいうのを無料で流しちゃうと、有料サービスへの加入者が減っちゃうんじゃないか思うのですが。
小用

小用

実はそれが逆で。ハイライトを観たスポーツ好きの方々が、「次の試合も観たい」「もっと長い映像を楽しみたい」といった理由で加入してくれるケースが多いんですよ。
前田

前田

逆に加入のきっかけになる。制作費を下げるという意味でいうと、ハイライトって結構お金かかりませんか?テレビ番組の場合、予告編って結構手間暇かかるんですよね。30秒をとても丁寧に作るのでかなり労力はかかっていますね。
小用

小用

ネットの場合はかなりざっくりやっているので、それほどコストはかかっていません。たとえばサッカーのゴールシーンをAIが自動解析して前後数秒を自動的に切り出してくれるサービスとかもあって。コストをかけずにハイライト映像を作れるんですよ。
前田

前田

AIが編集点を見つけて自動的に動画を切り出す技術があるって話は、前回の対談でマイクロソフトの畠山さんがお話されていました。未来の話じゃなくてもう広く使われてる話なんですよね。
戸谷

戸谷

その技術が広まったら、人件費が減り、制作費も減るということですね。
小用

小用

映像の制作コストが抑えられていったら、高校野球の地方大会も全試合をインターネット配信することだってあり得る話だと思っています。
前田

前田

それはかなり壮大な話ですね。でもめっちゃおもしろそう。
小用

小用

壮大ですけど現実味のある話だと思ってます。たとえば草野球をしている子供の試合を応援に来ている親御さんがスマホで配信すれば、試合を観に行けない別の親御さんが違う場所にいても視聴できます。
前田

前田

うちの子はまだ幼稚園児なんですけど、仕事で運動会に参加できないときとかに映像を配信があれば、すごく嬉しいですね。
 
小用

小用

人の空いている時間の消費の仕方が急激に変わってきていて、可処分時間の取り合いがすごい。観られるものがすごく増えてきた。選択肢が増えてきたということなんです。たとえば「プロの試合」と「自分の息子の試合」が同時に放送されていたら、前田さんならどちらを観ますか?
前田

前田

子供の試合ですね。
 
小用

小用

親子の関係でなくても、特定の個人にとっては身近で強烈なコンテンツが、これから世に溢れていくと思います。たとえば、自分の母校の試合だったり。そういう時代のスポーツのコンテンツは、プロかそうじゃないかということと同時に、単純に身近だから観るというコンテンツもでてくると思います。ですから、みんなが観るスポーツだからではなく、あえてみんなが観ないものを取り扱うことも「コア化」の重要なポイントになってくると思います。
戸谷

戸谷

学生のスポーツっていうのは、僕たちもすごく需要があると思ってはいます。我々もちょうど今新しいことができないだろうかと思っているところではあります。ただやっぱりコストのところで、どこまでできるのか?っていう一抹の不安はあるような気がします。
 
小用

小用

現時点ではそうですよね。ただ映像のコストは今後10年以内で10分の1くらいになると思っています。
 
前田

前田

ネットの映像ってテレビと比べるとかなりコストは抑えていると思うんですが、さらに下がるっていうことですよね
小用

小用

技術の進化で制作コストが格段に下がります。AIが勝手に撮影して勝手に編集して、人件費が必要なくなります。そしてどんどんスポーツの動画が生まれていくというのは確実です。そこに5Gが始まったら単純に通信の速さや量が格段にあがります※。そうなったら世の中のコンテンツがほとんど動画になりますよね。


※4Gに比べて5Gは、通信速度が約20倍(1Gbps→20Gbps)、通信の遅延が約10分の1(10ms→1ms)、接続するデバイス数が約10倍(1平方キロメートルあたりの数が10万→100万)に進化する。40Gのブルーレイの映画が2秒でダウンロード出来るようになる。

戸谷

戸谷

当面はAIの作る映像っていうのは、恐らくテレビのクオリティーには追いつかないような気がします。でもスマホでは少し画質や編集が粗い動画も違和感なく観ますもんね。

前田

前田

テレビの画面をスマホカメラで撮って流したものがバズることが結構ありますよね。テレビのプロからするとすごく不鮮明な画面で音も小さい。それでもバズる。スマホでは、動画としてのクオリティーはそんなに気にしていないってことですよね。これは我々にはない感覚なので、意識しないと理解できないポイントですね。
小用

小用

これからのスポーツ中継で言えば、たとえばAIで人の顔を追尾するカメラをドローンで飛ばして、遠隔で映像を切り替える……なんてこともできるようになるかもしれない。費用対効果のいい映像コンテンツを提供できるプロダクションだったり、システムだったり、仕組みを持っているところはこれからの時代はとても強いと思います。
戸谷

戸谷

ぜひMBSでやりたいですね。となると、これからのスポーツディレクターやプロデューサーはAIやドローンのような新しい技術に敏感になっていかないといけませんね。「AI」「技術」って言葉だけ聞くと、ディレクターとしては少しアレルギー反応があるんですけど、それでおもしろいスポーツのコンテンツが作られていくってなると、これまでの仕事の延長で取り組んでいけるような気がしました。すごく刺激になります。

もしMBSの社員になったら、何をしたい?

前田

前田

テレビ業界に興味を持つ学生さんのために教えていただきたいのですが、小用さんがもしMBSの社員になると考えたら何をしたいですか?
小用

小用

ネット側からみて、テレビの最大の強みって、リビングで誰かと一緒に画面を共有して観られることだと思っているんですね。僕らからするとこれはとても偉大なことなんですよ。ものすごく強いんです。
戸谷

戸谷

確かに改めて考えるとすごいことですよね。
小用

小用

テレビは1時間の番組で家族全員を釘づけにさせることができる。それを観たお父さんとお母さんと子供たちが、「あの話のこの部分が面白かった」といった感想や「自分はこう思った」といった意見を自然に伝え合える、一緒に観たからこそ生まれるコミュニケーションがある。一緒に面白いものを観て笑い合うだけでも、伝え合えることがあると思います。そういった、家庭という強いコミュニティの中で強力なコンテンツを持っているというのが、僕の中でテレビ局の最大の強みだと思っていて。テレビがなくなると日本人が変わってしまうんじゃないかと思うほど強烈な強みだと思っています。
戸谷

戸谷

そう言っていただくと嬉しいですし、責任も感じますね。
小用

小用

それを作っているというか、コントロールしているという言い方が正確なんですけれど、そこのノウハウはテレビがものすごく強いところだと思うんですよ。だって、そんなに興味がない人にも興味を持たせることができる力を持っているじゃないですか。インターネットは、興味がない人をひっぱる力はまだまだ弱い。
戸谷

戸谷

そうなんですか。
小用

小用

「こういう人たちにこういうものを観てもらいたい」と思ったときに、実際にそれを「面白いな、もう一回観たいな」と思ってもらえるコンテンツの編集力というか、それが放送局はすごいんだと思います。インターネット発のコンテンツと差別化して、テレビでしかできないことを目指していく。僕がもしMBSの社員にならせていただくとしたら、何かと戦うというより、テレビでしかできないことを考えたいと思います。
 
戸谷

戸谷

 テレビの世界にいると色々なことが当たり前になっています。今日お話を聞かせていただいて、改めてテレビの強みを理解してやっていくことが大事だと思いました。
小用

小用

やっぱり決勝戦はテレビで観たいじゃないですか。決勝戦を家やお店の真ん中にあるテレビで放送できる。これもすごい強みだと思いますよ。だからこそインターネットを使ってその決勝戦までの道のりをしっかり盛り上げる。これは放送局にしかできないことなんです。テレビの力を使って、インターネットの世界でもうひとつ盛り上がりを作る。そんなこともやりたいです。

2020年 テレビとインターネットが補完し合いスポーツ中継は進化する

東京オリンピックまであと1年。家族の形やライフスタイルが変化し、スマホで個別にコンテンツを観ることが増える中、それでもあえて「みんなで集まって観ることができる」のがテレビの強みであり価値であることを改めて実感しました。

リアルな世界では一人でテレビのスポーツ中継を観ながら、ネット世界でTwitterで盛り上がるのだって「みんなで集まって観る」スポーツ観戦のひとつですし、テレビ中継を見逃した人がインターネットで後から情報を得るのもスポーツ観戦だと思います。これからのMBSは、スポーツの楽しみ方を拡張するために、テレビだけではなく、インターネットを使っていくのだと改めて確信できました。

そして今回お話させて一番の学びは「コンテンツ制作費を技術を使っていかに下げるか」が非常に重要になってくるとういうことです。放送局にはハイクオリティーな動画をつくる「技術」はありますが、これからはコストを下げる「技術」も必要である。そこに放送局がインターネットでコンテンツを発信できるのかの鍵があるということを気づかせていただきました。

さて、屋台人間 人事前田の東京の旅<第一弾>は次回で最終回。時代の先端を行く次のキーマンはどこにいるのでしょうか。お楽しみに。

(つづく)

文 :鈴木梢
写真:黒羽政士
編集:人間編集部

企画・制作:株式会社人間
屋台協力:のびしろラボ

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