屋台人間人事前田 放送業界の明日を考える vol3

株式会社毎日放送 報道局報道部 科学医療担当記者 奥西亮太(おくにしりょうた)
NewsPicks編集長 池田光史(いけだみつふみ)

ライフスタイルの
変化でニュースは
どう進化する?

5年後10年後の近い未来、放送やメディアの形はどうなっているのだろうか?

『屋台人間人事前田』は就活生が「放送業界で働いてみたい!」と思えるテレビの未来を探すため、毎日放送人事部の前田が自ら「屋台人間」となり、時代の最先端をいくキーマンの元へ話を聞きに行く出張屋台対談コンテンツです。

▶︎詳しい経緯は「屋台人間人事前田 放送業界の明日を考える vol.0」へ。

<この対談のポイント>
・違う業界から見た放送業界の「強み」と「弱み」がわかります
・就活生が具体的な夢を見つけるヒントとしてキーマンからのアドバイスがあります
・ESや面談の参考になるように「ホンネ」で語っています

今回、屋台人間人事前田が屋台を構えるのは、東京都港区にある毎日放送東京支社。同行するのは毎日放送の報道局で働く入社6年目の奥西亮太(おくにしりょうた)。『Newsミント』といったニュース番組で記者を務めています。
対談するのはNewsPicks編集長の池田光史(いけだみつふみ)さん。独自の視点で経済ニュースを伝えてきたNewsPicksと「テレビの報道はどう進化できるでしょうか?」をテーマに放送業界の未来を探ります。

それではスタートです!

Profile

NewsPicks編集長
池田光史(いけだみつふみ)
1983年鹿児島生まれ。2007年東京大学経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部にて金融、日銀・財務省、自動車を担当。2016年4月よりNewsPicks編集部。移籍後の特集に「トヨタの未来をつくる7人の侍」「インスタエコノミー」「電池ウォーズ」「マクドナルド進化論」「ベンツ解体新書」「テスラの狂気」「ゴーン事変」「iPSの失敗」「徹底解説『新型コロナ』」など。2019年5月より現職。
株式会社毎日放送 報道局報道部 科学医療担当記者
奥西亮太(おくにしりょうた)
入社7年目。営業としてテレビCMを担当した後、報道局報道部へと移動。以降、報道記者として『ちちんぷいぷい』『ミント!』といった報道情報番組のニュースを担当。スタジオに出て解説することも。

本日のおしながき

対談の中で飛び出たキーワードを紹介いたします。
ひとつでも気になる話があれば是非ご覧ください。

本当に知りたいことは何か。ニュースを“再定義”する

前田

前田

私、3年ぐらいずっとNewsPicksの有料会員なんです。最初は新しいメディアとして興味本位で見ていましたが、今ではかかせないニュースソースとして愛用させていただいています。池田さんご自身が取材された番組『NewsPicksドキュメンタリー』もすごくワクワクしながら拝見しました。とてもおもしろかったです。
池田

池田

おおお、ありがとうございます!
奥西

奥西

はじめまして。奥西と申します。MBSでは現在、報道の新しい形を模索しているところでして……。池田さんが作られているNewsPickのように「報道を上手く経済の歯車に乗せる」という、単体で利益を出せるような試みがテレビの報道でもできないかと模索しています。
池田

池田

経済の歯車ですか?
奥西

奥西

はい。テレビ局はこれまで、24時間のタイムテーブルの中に、1時間ほどのニュースコンテンツを流していました。しかしテレビ離れが進んでいる今、新しい報道の動きや収入の柱が必要になってきているんじゃないかなと。サブスクリプション型(※商品ごとに購入金額を支払うのではなく一定期間の利用権として料金を支払う方式)で約14万人の会員数を獲得してきたNewsPicksさんのノウハウは、その一つのヒントになるのではないかと考えています。
前田

前田

この対談からヒントが得られればいいですね。NewsPicksは当初、キュレーションサービスとして運用していましたよね。そこからオリジナルコンテンツを発信するメディアへ変貌を遂げて、有料化。テキストという表現に捉われず動画や音声にいたるまで、柔軟にニュースを提供しています。名前は同じ「ニュース」ですが、テレビの報道とは全然別物なんでしょうか?
池田

池田

難しい質問です。例えばテレビは日々のニュースを全方位で、網羅的に報じていますよね。それに対して僕らは、記者の人数も限られていますから、フルカバーはできません。考える出発点はここからだったんです。
キュレーションサービスとして経済ニュースをフルカバーしつつ、オリジナルコンテンツでは何をカバーすべきなのか、試行錯誤してきた。いわば、ニュースの「再定義」を試みてきたんです。
奥西

奥西

ニュースの再定義というのは、どういうことでしょうか?
池田

池田

例えば、ニュースアプリの『SmartNews』なら、「世の中の人々が話題にしているものこそニュースだ」という再定義をしたのだと思っています。
一方、僕らは、人々が話題にしているニュースの中でも、その文脈や、背景にあるストーリーの重要度に応じて、専門性の高い記者が、取り上げるかどうかをまず決めます。「ビジネスパーソンならこれだけは知っておきたいニュース」に絞ったんですよね。

大企業2社が協業を始めるというリリースがあったとしても、僕らは「大企業だから大事なニュースだ」と盲目的に考えるのではなくて、報じないときもままある。もし報じるとしても、足元のファクトばかりを追うのではなくて、「なんでこの2社がくっつかなければいけなかったんだろう?」といった背景やストーリーを中心に報じる。

これだけは知っておきたいニュースをタイムリーに厳選して、しかも文脈までスッと理解できるものこそ、人々がお金を払ってでも欲しい情報サービスなんじゃないか。そんな視点で、日々『NewsPicksニュース』としてお届けしています。
奥西

奥西

普段我々が作っているニュースとは全く異なる手法なので、大変興味深いです。ニュースを再定義しようとするきっかけは何かあったんですか?
池田

池田

インターネット以降、デジタルのニュースって無料になってしまいましたよね。そんな中、NewsPicksは、日本で最も早く有料化に挑戦した一社です。今でこそ「サブスク」というワードが一般化してきましたが、当時はニュースの有料配信はとても難しいと考えられていました。それでも、人々がお金を払ってまで使い続けたいニュースやサービスとは何なのか、僕らは答えがあるはずだと信じて、徹底して記者・編集者たちがハイサイクルで実験を繰り返してきました。
前田

前田

ハイサイクルですか?
池田

池田

そうです。NewsPicksでは有料読者からの貴重なコメントという定性的なフィードバックから、定量的なたくさんの指標までが、いわば「健康診断」のように毎日データとして出てくるんですね。
テレビの視聴率に似た指標でいうと「何万人がこの記事をみた」という数字も極めて正確に毎日出ます。あるいは「この記事をきかっけに有料会員になった人」「すぐに解約してしまった人」といったデータを見ることで、日々仮説を立てることができます。その結果、例えば30分の速報の差を争うより、翌日配信であっても背景のストーリーまで解説すれば、人々はちゃんとお金を払ってくれるということがわかってきました。
前田

前田

ネットならではの数字によるマーケティングを行った結果、ニュースサービスは有料でも成立するということが分かったんですね。
池田

池田

現時点では、そうだと思っています。
奥西

奥西

なるほど。テレビの弱点はNewsPicksさんのようにデイリーで視聴者のデータがわからないという点なんですよね。その点はとても羨ましいなと思います。我々は、多くの視聴者に届く分、どのくらいの基礎知識を持った人が見ているのかというペルソナを設定して、「科学や政治などのニュースをどこまで簡単にしてどう伝えるか」を、意識しなければなりません。ただそれが正解かどうかの確認のしようがないので、歯痒いところです。

60分は最適なのか?「尺」をゼロベースで考える

池田

池田

実際、テレビの報道のフローはどんな感じなんですか?
奥西

奥西

テレビの報道は、日々起きる事件や事故、その他様々なニュースの中から何をどの程度の尺で扱うかをデスクや編集長といわれる人達が決めます。その上で、各記者が取材をして放送するというのが一般的な流れです。どちらかというとトップダウンと言えるかもしれません。
もちろん記者から「こういうネタあるんですけど」とデスクに持っていき、GOが出たら取材に行くこともあります。「取材に行ったら思っていたのと違った!」ということも往々にしてあるので、そういった場合は記者の瞬発力が求められます。ただ、どうしても尺の上限が決まっているので、夕方のニュースが40分だとしたら、その40分をどう料理するか、という目線が必要になってきます。
前田

前田

尺があるテレビ局と、尺に縛られないNewsPicks。尺のあるなしによって内容や役割は違ってくるのかもしれませんね。
池田

池田

尺の制約条件そのものは、良いことだと僕は思うんです。テレビのように尺があるからこそ、不要な情報を引き算して削ぎ落として、価値の高い必要な情報だけを提供できる。ただ、それが30分や60分という既存の枠なのかどうかは、再考してもいいと思っています。
僕らの場合、「そもそも最適な文字数や尺はどれくらいか?」をゼロベースで考えられることが強みでもあり、自由すぎるが故の悩みにもなり得ます。
奥西

奥西

なるほど、そこから考えているんですね。
池田

池田

はい。本当はこのテーマなら、1500文字で3分で読める形にしたほうがいいかもしれないのに、デジタルだと紙幅の制限がないので、5000文字などと冗長に書いてしまいがちです。そうなると、ユーザーにとって実は価値が低かったりする。逆に、5000文字では物足りなくて、1万字のインタビューのほうが満足度の高いテーマもあり得る。同じように動画の場合も、5分におさめたほうがよいものもあれば、1時間は欲しいというテーマもある。
池田

池田

一番大事にしているのは、「このテーマはユーザーにとってどれぐらいの尺が一番適度なんだろう?」と毎回ちゃんと考えること。逆に一番ダメなのは、本来5分で伝えられるはずなのに、1時間の枠を埋めなきゃといって冗長に引き伸ばしてしまうことです。情報爆発社会だからこそ、時短ニーズというのは普遍的に存在しますから。
奥西

奥西

尺に縛られない苦労もあると。ただ、それ以上にNewsPicksはテキストや動画といったアウトプットの自由度が高いので、そこが魅力的だなと思っています。
というのも、僕らはカメラを持って、絵を撮らなければニュースにならないんですよね。面白い論文や研究があったとして活字やCG、写真で伝えられたらいいですが、事件や事象、政治や経済など、どのようなトピックを扱う場合でも教授のインタビューを撮ることでしか広げられないこともあります。地上波で流すことが目的なので、その分、表現する手段が限られてしまいます。
前田

前田

表現の幅というところでいえば、池田さん自身がドキュメンタリーを撮られているのも印象的でした。あれはうちでもやってほしい。というか、私もやりたい(笑)。私の興味にドンピシャなトピックだったのと、他で見たこともない映像がたくさん出てきて、本当面白かったです。
池田

池田

ありがとうございます。ショートドキュメンタリーは昨年から実験を本格化しているんですが、デジカメや小型電動ジンバルカメラで、記者たちが自ら撮ることも少なくありません。最新のこうした機材の進化は、目を見張るものがありますよね。プロ向けの大きな機材でなくても、どこまでいいものが撮れるものなのか、試したいということもありました。
奥西

奥西

かなり少人数で撮影しているんですね。NewsPicksの動画編集は、外注ですか?
池田

池田

動画専門の『NewsPicks Studios』というグループ会社があって、テレビに近い番組の制作はここが担っています。落合陽一さんの『WEEKLY OCHIAI』や、古坂大魔王さんの『THE UPDATE』などがそうです。
それらとは別に、NewsPicks編集部が自前で取材から編集まで担って作っているのは、ショートドキュメンタリーから、現場ルポ、ニュース解説といった類の動画番組です。例えば、こちらの動画解説。
前田

前田

へえ、キャラクターが記者と対話していくスタイルで進行していますね。
池田

池田

これは「イラン危機」についての解説なんですが、Adobeの新しい「Character Animator」というツールを使ってアニメーションを取り入れつつ、ペルシャ語ネイティブのイラン人ハーフ記者が、対話形式で詳しく解説したものです。
ニュース解説番組は、これまでタレント・芸人さんなどが、視聴者に目線を合わせたレベル感で素朴な疑問を専門家に投げかける、という役回りを果たしていたと思います。
奥西

奥西

そうですね。
池田

池田

この解説の尺はわずか10分ですが、ネイティブ記者によるTips含めたタイムリーな解説もさることながら、ポップなアニメキャラとのやり取りもウケて、かなりの反響がありました。
素朴な質問役は、タレントさんの専売特許ではなくて、バーチャルなアバターでも手軽に再現できるようになった、ということでもあります。そういう民主化された最新のツールも常に実験的に使いながら、新しい表現を磨いていますね。
奥西

奥西

報道は硬いイメージがありますが、ニュースでありながらも、バラエティっぽくってポップですね!
池田

池田

特にZ世代(※ミレニアル世代より後に生まれた、1996年から2015年の間に生まれた世代のこと。最先端技術が生まれたときから身近にある)は、YouTubeやTikTokといったショート動画コンテンツに慣れ親しんでいますよね。
テキストよりも動画のほうが爆発的に広く伝わるテーマなら、やったほうがいい。何より、やってみると発見もあるし、作り手もとにかく楽しんで作っています。
そして、テキストを経験してきた記者、インフォグラフィックを作ってきたデザイナー、動画をつくってきたディレクターたちとが、フラットな関係で交差して作った表現というのは、実はまだ世の中にそんなに多くない。僕らは、それをスピーディに実現させて、実験を繰り返してきました。それが何よりの強みだと思っています。
奥西

奥西

ちなみに、記者や取材班がコンテンツを売るということまでは考えているんですか?
池田

池田

一人ひとりにちゃんと読まれた・観られたかどうかまでウォッチしているかという意味でいえば、その通りです。
前田

前田

テレビの場合は、営業部や制作部といった具合にかなりはっきりと分業しているんですよ。つまり“モノ売り”と“モノづくり”は別なんですよね。出版社なんかでもそうですが、作る側が、ものが売れるかどうかまでを考える仕組みにはなってません。
池田

池田

そこは伝統的なメディアとの一番の違いかもしれません。NewsPicksでは、記者も、エンジニアも、デザイナーも、皆フラットに情報共有をしながら、一つ一つのコンテンツにお金が払われたり、ちゃんと読まれたりしているかを、日々シビアに見ていますから。
前田

前田

我々もそういうフラットなチーム作りを意識してますけど、なかなか難しいですよね。腕のある大人が別々の会社から集まったチームと、チームのスタッフを新卒から育てる会社の違いもあるかもしれませんね。
池田

池田

確かにそうかもしれません。

「デジタルをどう使うか」という議論がもう遅い?リビングの主役は誰か

前田

前田

池田さんにお聞きしたいのは、テレビの報道って、こうしたらもっと良くなるのではという率直な意見です。どんなところだと思いますか?
池田

池田

うーん、僕が言うのもおこがましいテーマですね(苦笑)。
前田

前田

そりゃそう思われますよね、すいません。でもそこを聞かせていただきたいんです。外にいる方のご意見を聞かせていただき、我々のより良い未来を考えていきたいんです。
池田

池田

そうですね。例えば日本の軽自動車を販売する会社って、何社もあります。でも、エンジンはほぼ同じものを各社が個別に作っているんです。
これをテレビの報道に置き換えたときに、たとえば同じ記者会見の同じようなカットの映像って、各社が個別に撮る必要ってあるんでしょうか?
前田

前田

なるほど。我々としては大事なニュースを自分たちで責任をもって伝えたいということなんですが、その分、余った時間をさらに深い取材や、独自の視点での取材に当てるってことですよね。
池田

池田

そうです。いま、どの業界でも起きていることですが、一社でフルカバーすることはあまりにも難しい時代になってしまっているわけですよね。純血主義だったトヨタ自動車ですら、自前主義を放棄していますから。テレビ業界も同じように、そもそも協調領域と競争領域はどこで線が引けるのか、しっかりと再考してもよいのかもしれません。
前田

前田

放送の理念や法律に関わる問題もあるので、これは中々、自分たちからは思いもつかない考え方ですね。
奥西

奥西

前田さん。実はこれ、私も全く同じように思ってます。
前田

前田

え、そうなの?
奥西

奥西

池田さんのおっしゃったことに加えて、取材対象者への配慮という視点からも有効です。例えば、全国の方が興味のあるニュースって、事件の当事者に対して過熱取材になることがあります。これは誰にとってもよくないです。そういうニュースに関しては、もうちょっと横で結束してもいいんじゃないかなと思っています。
池田

池田

報道体制について、各社で協調できるところは協調してリソースを効率化しようという話にはならないのですか?
奥西

奥西

現状、各社がそれぞれ撮りに行っていて、それぞれの著作権で報道しているのでなかなか難しいですね。ただ、裁判所などでは共同代表が撮影をすることがあるので、システム上は可能だと思います。あとはもし将来そういうポータルサイトができたときに、ミスが起きたら誰が責任をとるんだって話がでてきたり、他にも放送法の問題があったりと、これについてはマスコミが抱える構造的なものがあります。
前田

前田

TVerなんかでは各局力を合わせて同じフォーマットでの配信を実現してますよね。より良い放送のため、より良い取材のため、より良い報道のため、そういう視点であれば、一緒に何かできる時代が来るような気がします。
前田

前田

奥西、他に悩んでいることはある?
奥西

奥西

そうですね。放送局の人たちでよく口にするのは、「地上波をもっと見てほしい」ということです。インターネット向けに作るコンテンツも、地上波に流入させるために作っている。最近でもよく「デジタルをどう活用していくか」を悩んで、議論してはいるんですが……。
池田

池田

その議論をやめるところから始めたほうがいいかもしれません。そもそも、リビングで地上波を見て過ごす時間と、スマホを眺めている時間と、どちらのほうがメインになっているかという現実を直視するところから、スタートすべきだと思います。
前田

前田

うーん、もはや地上波に流すという議論が違うということですね。
池田

池田

そうです。世界中のメディアが、人々のライフスタイルの変化を直視して、そこから逆算したコンテンツのディストリビューションを再考してきたわけですよね。あるいはちょっと先の未来を予測することも大事なのだと思います。「リビングの未来」を描いているのは、かつてはテレビだけだったのかもしれません。しかし、そこに任天堂などのゲーム業界も参戦して久しいですし、今はNetflixやアマゾンなどのテクノロジー企業もこぞって「お茶の間」に参入してきました。
奥西

奥西

たしかにそうですね。
池田

池田

そうした環境下で、テレビがこれからもマスを目指すなら、「どうやって決まった時間にテレビの前に座ってもらうか」と議論するよりも、どうすれば渾身の番組がリビングにおいてもストレスフリーな形で人々に届くか、を真剣に議論したほうがよいですよね。圧倒的なコンテンツ制作能力やノウハウを持つテレビ局がそこの現実を直視して本気を出せば、新興メディアにとってはこれ以上ない脅威だと思います。
奥西

奥西

バラエティはネットで番組を作ろうという動きがあるんですが、報道はさらに遅いかもしれません。そのスピード感と比例して、お茶の間のニーズとテレビの報道は乖離していくんですよね……。
池田

池田

繰り返しになりますが、テレビが見られなくなったのだとしたら、それは質が低下したからとかではないと思います。決まった時間にしか流れていないから、それだけだと思います。
ライフスタイルが変わった今、決まった時間にテレビの前に座るというのは、ほとんどの人にとって許容できない行為だと思うんです。
前田

前田

我々は公共の電波を使わせていただているので、放送法という法律の下、営業しています。その部分で、デジタルファーストがとても難しいことでしたが、この春NHKがネット同時配信をおこなえるように法律が改訂されました。法整備が整い始めたので、あとは、我々自身が本気でデジタルファーストをするかしないか。いよいよ我々もデジタルファーストの時代に突入していくのだと思います。

もしMBSの社員だったら、何をする?

前田

前田

もし池田さんがMBSの社員で何でもできるとなったら、何がしたいですか?
池田

池田

これまた難しい質問ですね(笑)。うーん、最も売れる番組を作っている人に権限を与えて、デジタルファーストのコンテンツプラットフォームを作るとか。
奥西

奥西

やはりデジタルなんですね。
池田

池田

これもジャストアイデアで、あくまで頭の体操として、ですね。そのプラットフォームでは、有料のサブスクリプションサービスとして、いつでも好きな番組が見られるようにする。そこで特に観られた人気番組を、無料で決まった時間に地上波で流す。視聴者にとって無料なのは、好きな時間に好きな番組が見られるわけではないから、という理由です。
前田

前田

そうすると報道の未来はどうなっていくでしょうか?
池田

池田

協調すべきところは各社で協調して社会インフラとしての役割を果たしつつ、デジタルプラットフォームではスマホでも快適に好きなときに見れる形にして、ユーザーからお金をいただく。もちろん、公共性の高いテーマは無料のままでデジタルでも配信する。

その上で、競争領域としては、例えば地元の情報だったら負けないというメディア集団として強みを発揮できるかどうか、実験してみるのも手かもしれません。
奥西

奥西

確かに。特にMBSのようなローカル局にはこれまでに培ってきたネットワークがあるので、より地場の力が発揮できますね。
池田

池田

ちなみにMBSさんが映るエリアって人口何人くらいですか?
前田

前田

約2300万人ですね。
池田

池田

すごい規模ですよね。その10%が仮に会員になったら、230万人。一つのメガメディアですね。
前田

前田

なるほど。そういう発想も私自身にはなかったですね。地上波はもちろんこれまで通り無料。さらにサブスクリプションでコンテンツを作っていくと。実は我々も『動画イズム』というサブスクリプション的に配信しているものがあって、年々売上は伸びていますが、全視聴者が加入するというものにはまだなっていませんね。
池田

池田

各局、取り組んでいらっしゃいますよね。とにかく面白いコンテンツがたくさんあるのに、ユーザーがアクセスしづらいという状況が、もったいないなと思います。
前田

前田

放送局にいると、「そんなの無理!」と思ってしまいますが、よく考えると10年前には、ネットでテレビ番組を放送すること自体が無理って言われてたんですよ。テレビは大きく変わる時に突入しました。これは無理、と考えない方が良い時代なのかもしれません。
池田

池田

テレビにしかできない表現の追求や、プロフェッショナリズムを、これからも一視聴者としても観ていきたいです。
前田

前田

池田さん、ありがとうございました! グサッとくる意見もありましたが、新しい発想がたくさんあって、とっても楽しかったです。答えにくいことをたくさん聞いてすみません。真摯にお答えいただき本当に感謝しております。

常識にとらわれず独自の報道を続けてきたメディアから、テレビの報道が学ぶことがある

サブスクリプション型でマネタイズをし、動画やテキスト問わずにオリジナルコンテンツを届けてきたNewsPicks。読者のデータを研究し、仮説を繰り返すことで、読者が求めるニュースを追い求める姿勢がありました。
一方、MBSの報道姿勢は、全国・世界のニュースをふくめて関西の人に伝えること。
NewsPicksと異なる部分もありますが、「協調領域と競争領域を考えること」や「リビングの未来をどう描くか」など、デジタルの領域で最先端を行くNewsPicksだからこそ、テレビが参考にしなければならない姿勢、考え方がたくさん散りばめられていました。

さて、屋台人間 人事前田 Season2は今回で最終回。
ときにパートナーであり、ときにライバルである方々と、ざまざまな“テレビの未来”を語ってきました。

その上で、テレビにできることってなんでしょうか。

今、MBSはこれまでの“当たり前”を打ち破り、新しい形へと進化しようとしています。もしかすると、それはとても大変なことかもしれません。でも、だからこそ、やらなければならないことだと感じています。
なぜなら、70年前、「日本初の民放放送」を行い、「ベンチャーマインド」を持ち続けてきたMBSだからこそ、テレビの未来を切り開いていけると信じているからです。

「テレビが皆にとって、良いコンテンツであり続けるためには。」「日本が世界と戦えるようになるためには。」「若者に愛されるコンテンツになるためには。」

いろんな課題を抱えたテレビ局で、一緒に挑戦して、テレビの新しい未来を作ってくれる人材を屋台人間前田は探しています。

文 :高山諒
写真:西田周平
編集:人間編集部

企画・制作:株式会社人間

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