屋台人間人事前田 放送業界の明日を考える vol1

MBS東京支社PR部 松岡 晃平
少年ジャンプ+ 編集長 細野 修平

ジャンプ+に学ぶ
デジタルシフトと
才能に惚れ込む力

5年後10年後の近い未来、放送やメディアの形はどうなっているのだろうか?

『屋台人間人事前田』は就活生が「放送業界で働いてみたい!」と思えるテレビの未来を探すため、毎日放送人事部の前田が自ら「屋台人間」となり、時代の最先端をいくキーマンの元へ話を聞きに行く出張屋台対談コンテンツです。2019年から始まりいよいよSeason2に突入。Season1では巨大屋台を大阪から東京に運ぶことに四苦八苦したため、今回からは軽量バージョンで集英社さんにお邪魔します。

▶︎詳しい経緯は「屋台人間人事前田 放送業界の明日を考える vol.0」へ。

<この対談のポイント>
・違う業界から見た放送業界の「強み」と「弱み」がわかります
・就活生が具体的な夢を見つけるヒントとしてキーマンからのアドバイスがあります
・ESや面談の参考になるように「ホンネ」で語っています

今回はこの集英社のビルのロビーで屋台人間を実施してしまいました

今回、屋台人間人事前田が訪れたのは、東京都千代田区にある株式会社集英社。同行するのは毎日放送東京支社PR部で働く入社2年目の松岡晃平(まつおかこうへい)。

『週刊少年ジャンプ』のアプリ版として話題の漫画を輩出している『少年ジャンプ+』編集長の細野修平さんと一緒に「放送局はどうデジタルシフトしていけばいいですか?」をテーマに放送業界の未来を探ります。

本日のおしながき

対談の中で飛び出たキーワードを紹介いたします。
ひとつでも気になる話があれば是非ご覧ください。

Profile

『少年ジャンプ+』編集長
細野 修平(ほその・しゅうへい)
2000年、集英社入社。『月刊少年ジャンプ』に配属され、マンガ編集者としてのキャリアを積む。以降、『ジャンプスクエア』を経て、2012年から『週刊少年ジャンプ』に所属。マンガ誌アプリ『少年ジャンプ+』の立ち上げに関わり、2017年から同誌の編集長を務める。主な担当作品は『テガミバチ』『終わりのセラフ』『DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件』など。
株式会社毎日放送 東京支社PR部
松岡 晃平(まつおかこうへい)
2019年入社。関西出身。アニメが好きでオリジナルアニメの制作をするという熱意でMBSに入社。現在は『林先生の初耳学』をメインに、媒体へのリリース、取材会、有料広告の制作・運用、SNSの運用などを行い、特番やドラマの宣伝を担当している。

ジャンプが徹底した“新人発掘主義”にこだわる理由

前田

前田

MBSと『少年ジャンプ+(以下、ジャンプ+)』は昨年MBSでドラマ化した『左ききのエレン』(※かっぴー原作、nifuni作画の漫画。ジャンプ+で連載中)で協力していただきました。ドラマ化して何か反響はありましたか?
細野

細野

ありがたいことに、ドラマが始まってから、コミックスの売り上げと閲覧数が増加しました。アニメ化と違って、テレビドラマ化する作品は話題になりますが、必ずしも作品の売上に直結するわけではないので、今回反響があって嬉しかったです。
前田

前田

おお、それは安心しました! 『左ききのエレン』もそうですが、ジャンプ+はネット発のオリジナルコンテンツを配信することでドラマやアニメといったメディアミックスに成功している印象があります。
©かっぴー・nifuni/集英社 ©ドラマ「左ききのエレン」製作委員会・MBS
松岡

松岡

テレビ局の売上の柱はやはり広告収入ですが、電通が発表した『2019年 日本の広告費』によると、ついに広告費がネットに抜かれてしまったんです。なので我々もジャンプ+のようにネットを使い、ネット上でも広告費を稼いでいきたいと考えておりまして、今日はその糸口が掴めればいいなと。
細野

細野

なるほど、確かに出版社とテレビ局は置かれている状況が近いと思います。紙の売上は下がっていますし、テレビでは「若者のテレビ離れ」なんて言われていますよね。
前田

前田

そうなんです。その中でもジャンプ+は漫画業界の中でもいち早くデジタルコンテンツを仕掛け、数々のヒット作を生み出していますよね。「テレビにとってネットはライバル」という考え方は放送業界にはあるのですが「紙にとってネットはライバル」というものもあったのではないでしょうか? 「わざわざライバルの応援をするのか?」みたいな社内からの反対はありませんでしたか?
細野

細野

大きく反対されることはなかったですね。実はジャンプ+ができる前に、2012年からジャンプ公式の電子書店サービス『ジャンプBOOKストア!』と、人気作家の描き下ろし漫画を中心に配信するデジタルマンガ雑誌『ジャンプLIVE』という2つのアプリがありました。『ジャンプLIVE』では増刊雑誌的な扱いで2回配信したんですが、漫画だけではなく、オリジナルのアニメや動画を配信していました。
松岡

松岡

そのときすでに動画も! 早いですね!
細野

細野

『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生がパスタを作って、それを『暗殺教室』の松井優征先生が食べたり、『ピューッと吹く!ジャガー』のうすた京介先生が、動画に出演したり。
前田

前田

かなりチャレンジングですね(笑)。今だとYouTubeでバズりそう。反響はありましたか?
細野

細野

『ジャンプBOOKストア!』をリリースした当時は僕自身、デジタルの可能性をあまり認識していなかったこともあり、正直あんまりうまく行かないんじゃないかなと思っていたんです。でも、Kindleや他の電子書籍サービスが始まったあとも、ちゃんと読者がついてきてくれて、「面白い」と言っていただけました。そのとき、「デジタルの可能性を信じてちゃんと開拓していかないと」と決意したんです。
松岡

松岡

ついてきてくれたファンを信じたんですね。
前田

前田

突然ジャンプ+が誕生したのではなく、少しづつ規模が拡大しているから、そんなに社内で議論が起こるような感じではなかったんですね。
細野

細野

そうですね。
前田

前田

そうやって始まったジャンプ+ですが、最近は『SPY×FAMILY』(著・遠藤達也)といった、話題の連載作品がドンドンでてきて、さぞかし儲かっているんだろうな、という印象です。お金の話が聞きたくて仕方がないです(笑)。
アプリ版「少年ジャンプ+」
細野

細野

ありがたいことに売上は増えてきてはいますね。でも、僕自身『ジャンプ+』は、大儲けしてやろうみたいなことではやっていないんです。
前田

前田

衝撃的な発言です。私はデジタルはアナログの売上の減少を補填するものだと思っているのですが…。
細野

細野

もちろん売上があがること自体は大事なことなんですが、それ以上に大事にしているのが「新人発掘」です。
前田

前田

そうなんですか!? 「お金より新人発掘」ってことですよね? そこまで新人にこだわる理由はなんですか? 人気の作家さんを出した方がファンもついているし、ヒットが生まれそうな気がするのですが…。
細野

細野

これはジャンプの精神でもあるんですが、我々は徹底的な新人発掘主義なんですよ。編集者は自分で新人作家を発掘してきて、作品を立ち上げ、その作品でヒットを出すことが一番価値のあることとして捉えています。
前田

前田

確かにジャンプって昔から新人作家の登竜門でしたね。なんか思い出してきた。ワクワクします。
松岡

松岡

そういえば、ジャンプは、『週刊少年サンデー』や『週刊少年マガジン』のあとに創刊されたので、新人作家をたくさん起用せざるを得ない状況からスタートしたんですよね。それがジャンプから数多くの人気作家が生まれた理由だって、どこかで読んだ気がします。
細野

細野

はい。その部分をネットで強化したいんです。例えば「デジタルで輝く才能を発掘して、しっかり売っていこう」という意図でジャンプ+があるわけですが、さらに強化という方向で『ジャンプルーキー』をリリースしました。ジャンプルーキーは新人作家が漫画を投稿でき、そこで発掘した新人をジャンプ+に掲載するという流れです。
松岡

松岡

作家ファースト! 面白い考え方です。
細野

細野

「いつも新しくて、面白いものが読める」。そういう、読者にとって常に新しい体験ができる場がとても大事だと思うんですよね。そして新しい作品は新しい作家からじゃないと出てこない。これが新人発掘主義の根幹となる考え方です。
松岡

松岡

確かに、流行は常に若者から生まれてきますよね。だからこそ貴重な存在なんですね。
細野

細野

はい。『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生や『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博先生、今売れている『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴先生も、元はといえば編集部が発掘した“新人”でした。
松岡

松岡

スター作家すぎて、気づかなかったですが、考えてみればそうですね。
細野

細野

新人からの持ち込みや賞の応募など、これまでジャンプが力を注いできたことはデジタルになっても変えていません。むしろデジタルでこそ、これまでやってきたことを強化できる、よりチャレンジングに新しい作家やコンテンツを開拓できると思っています。そこがデジタルのおもしろさだと思っています。
松岡

松岡

テレビには放送できる枠が限られているという物理的な成約があります。ジャンプ+も“紙の枠”の問題でデジタルシフトしたのかと考えていましたが、新しい場所で新しい才能を見つけるという壮大な目標があったんですね。なんかジャンプの作品そのものですよ。私もワクワクします。
前田

前田

またまたお金の話を聞きたいんですけど(笑)。ジャンプ+、ジャンプルーキーって本当にたくさんの作品あるじゃないですか。作家さんがたくさんいらっしゃるのは分かるんですけど、その新人作家さんたちと向き合う編集者の数足らなくないですか? 編集者の人件費って大変ですよね。
細野

細野

そんなにたくさんの編集者はいないですよ。ざっくりした数ですけど、編集者ひとりにつき、デジタルの新人作家さんだったら、100〜200人ぐらいお付き合いしていると思います。連載作家だったら、平均7人くらいでしょうか。
前田

前田

えー。すごい数。衝撃的です。なるほどなあ。ほんとびっくりです。
松岡

松岡

前田さん興奮しすぎですよ。
前田

前田

テレビ局って、ひとりの社員が多くて3番組しかできないんですよ。1つの番組でも大変な感じなので。
細野

細野

ジャンプのような紙媒体の方だったら、もう少し担当の数は少なくて、ひとりの編集者が2~5本ぐらいですかね。
前田

前田

なるほどなあ。そうやってたくさんコンテンツを作って大きく当てるんですね。『鬼滅の刃』って本当にすごい売れ方ですもんね。数を作らずにヒットを作ろうと切磋琢磨しているのが今までのテレビ局なんですけど、ネット進出で、たくさんコンテンツを作っていくという発想もあるんだなって思いました。すごく勉強になります。いやあ、すごい。松岡、俺たちもヒットコンテンツを作ろう。
松岡

松岡

前田さん、ブツブツ言いすぎですよ(笑)。

「デジタルが敵かどうか」という話は本質ではない

前田

前田

同じ質問になってしまいますが、どうしても聞きたいのは、もう少し聞かせてください。「デジタルと紙を同時に出してしまうと、紙の売れ行きが下がってくるのでは?」というところなんですが、実際はどうでしたか?
細野

細野

私自身も当初は少し心配していました。でも、これまでの経験から、必ずしも売上は下がらないという結論にいたりました。そもそも「紙とデジタルが食いあうか」という話は本質ではないと断言できるようになりましたね。どういうことかというと、デジタルと紙の役割がはっきり分かれているわけではなく、どちらも読む人は読みますし、好きな人はどちらも好きなんだなということです。特に売れるものは紙でもデジタルでも関係なく売れるという事実がそれを証明しています。実際にジャンプ+発の『SPY×FAMILY』は単行本の累計発行部数200万部を超え(※2020年4月現在)、好評をいただきました。大事なのはいかに面白いオリジナルコンテンツを作れるか、ということに尽きると思います。
©遠藤達哉/集英社
松岡

松岡

なるほど。今テレビ局がネットで出しているコンテンツの多くは、放送で使ったものを二次利用することが多いんです。ネットにいる消費者に今放送している番組にふれていただき、その方々にその番組を、テレビでみてもらえないかという考え方が基本になっていると思います。
細野

細野

我々はジャンプ+の読者を『週刊少年ジャンプ』に流入させることはあまり考えていないですね。むしろジャンプ+はオリジナルコンテンツをしっかり作って、そこでマネタイズしていかなければならないと思っています。
前田

前田

うーん、なるほど。てっきり、「ネットで人気になった漫画を、単行本で売って、大儲けしよう!」ということだと思ってました。
細野

細野

『SPY×FAMILY』といったジャンプ+発の作品でも単行本の累計発行部数が200万部(※2020年4月現在)を突破するヒット作が生まれるようになっていますが、ジャンプ+全体のマネタイズでいうと、まだお金を稼ぐことに熱心になる段階ではないのかなと思います。もっと大事なことがあると思っているんです。
前田

前田

お金より大事なこと。ズバリ何でしょう?
細野

細野

ジャンプ+の大きな目標は「メディアになること」なんです。いつアクセスしても面白い漫画が見れるところだと認識してもらうことで『週刊少年ジャンプ』のようなブランド力をデジタルでも持つことを目指しています。そのためにはまだまだいろんな才能に投資して、いいコンテンツを作らなければなりません。
松岡

松岡

なるほど。YouTuberの方が毎日コンテンツをあげないと勝負できないとおっしゃっていました。だからジャンプ+では毎日更新される作品もあるんですね。紙ではできないことですよね。
前田

前田

メディアになるっていうのは、毎日そこにいく、時間があったら覗く場所、ということなんでしょうね。 とても勉強になります。

作品の愛着を測る、ジャンプ名物の“アンケート至上主義”をデジタルでも再現するために

前田

前田

Season1のお話の中で、テレビ局ももっとデータ分析すべきという話題がたくさんでてきたのですが、ジャンプ+はデータを活かすといった、デジタルならではの作り方をしているのでしょうか?
細野

細野

もちろんデータはみているのですが、コンテンツ制作においては、紙で培ってきた作り方とあまり変わってはないんです。データを入れたことでやり方が変わったのではなく、これまでの経験則が正しかったんだと裏打ちされたことが大きかったです。これは意外な発見でしたね。
松岡

松岡

経験則が裏打ちされる…? どういうことですか?
細野

細野

例えばネットで収集したデータを分析すると新作の3話目までに読者が着くか離れるかがだいたい分かるんです。
前田

前田

すごいじゃないですか!
細野

細野

そうなんですよね。でも実はこれはマンガ業界では昔からいわれていることなんです。漫画の新しい企画を立てるときは3話分のネーム(※漫画を描く際のコマ割りやコマごとの構図、セリフ、キャラクターの配置などを大まかに表したもの)で面白いかどうかの判断しているんですよ。だから最初の3話は徹底的に分析してきました。
松岡

松岡

テレビドラマでも、最初の3話の評判を聞いて、活躍するキャラクターを変えたり、物語自体を変えたりするといったことをしていると聞いたことあります。
前田

前田

あえて教えていただきたいのですが、データを導入して、何が一番良かったのでしょうか?
細野

細野

そうですね、どこで読者が離脱するのか、その離脱を防ぐためにはシステム上どう設計しなければならないのか等は参考になりますね。
前田

前田

それはネット全般でいえることですね。
細野

細野

ですね。もう少し我々ならではの別の言い方で言わせていただくとすると、データ分析によって、読者の作品への愛着を測りたいと思っています。
松岡

松岡

へえ〜愛着ですか。
細野

細野

『週刊少年ジャンプ』には、アンケート・ハガキがついていて、熱心な読者は、そのハガキに書いてある好きな作品3つを選んでポストに投函してくださるんですね。その結果は絶対的な評価になっていて、たくさん票を入れてもらえた作品は編集部でも高く評価されるし、少ないものは連載が打ち切られるというシステムになっています。
前田

前田

あー、私の子供時代からありましたね。ハガキ投函した記憶があります。あれってデータをとっているっていうことですよね。ジャンプでは昔からデータ分析していたんですね。すごいなー。
松岡

松岡

お金を払って漫画を買って、わざわざハガキを投函するという、手間がかかる作業ですよね。それは「その作品が好きだ」という信憑性のあるデータになりますよね。
細野

細野

そうですね。それがジャンプの強みだったと思います。デジタルの場合、純粋にPV(読んでいる人の数)だけで計測しても、ハガキの時のように、愛着があるのかどうかまではわからないんです。
前田

前田

なるほど。それは我々の「視聴率をどこまで信用できるのか?」という議論とかなり似ていますね。
松岡

松岡

PVを指標にすると、ただ暇つぶしにみるという方も含まれてきてしまいますね。でも“愛着”をデータで取るってどうしたらいいですか?
細野

細野

そこが私達も悩んでいますね。今は話の終わりに「面白かったか、普通だったか、面白くなかったか」というボタンをつけていて、PV数は高いけれど評価が低い作品もあれば、PV数が少ないのに、面白いボタンをたくさん押してもらっていたり、その作品への課金率が高いこともあります。指標が多様化しているんですよね。
▲ジャンプ+では閲覧数によってバナーの大きさが自動で変化する
前田

前田

Season1のインタビューでも、東京制作のディレクターが「視聴率だけでは番組への深い愛までは測れない」「そこが作り手として残念だ」と言ってました。そこは同じような感覚があるのかもしれないですね。
細野

細野

やはりテレビ局がみる指標は視聴率しかないのですか?
前田

前田

そうですね。コンテンツの作り手というよりは、CMを売る営業の立場からデータはあった方がいいと随分前から準備はしています。現在稼働しているものでいうと、昔からある「世帯視聴率」に加え、数年前からは、13~59歳だけを対象にした視聴率「ファミリーコア」という数字は出せるようになりました。あと、間もなく本格運用されるのが、テレビ視聴データ(視聴ログ)です。これはかなり画期的なもので、インターネットと同じようなデータがとれるようになるといわれています。
細野

細野

そうなんですね。では、テレビならではの楽しい進化も生まれそうな気もしますね。例えばテレビにカメラをつけてリアクション率を測るとか。松岡さんのような若い世代からこそ、そういうアイディアが生まれてきそうですね。まだ2年目ですもんね。松岡さんは、やっぱり熱烈なテレビ視聴者なんですか?
松岡

松岡

いえいえ。実はそんな感じではなくて。大学時代はほとんどテレビ番組を見てこなかったんですよね。
細野

細野

え、そうなんですか? 前田さん。
前田

前田

昔からそういうもんなんですよ。楽しいことがたくさんある大学生は50年前からテレビをみないといわれています。とはいえ、昔とは違う「見られていない感」は感じるようになりましたが。
松岡

松岡

嬉しい誤算は、会社に入ってPR担当として制作現場をみていると「テレビってすごいな」「テレビって面白いんだな」と思うようになりました。
細野

細野

それなのに、なんで見てこなかったんですか?(笑)
松岡

松岡

どこでも持ち運べるスマホがあるのに、動かせない機械をわざわざ買って、アンテナをつけるという工程が少し不便だなと…。
細野

細野

デジタルネイティブならではの発想ですね。
前田

前田

こういうこと言われると正直傷つきますよ、実は(笑)。でも松岡世代の本音を聞いて「じゃあどうしようか?」という会話にならないと、我々には未来がないと思っています。「テレビというデバイスが嫌なの? じゃあ、スマホにコンテンツ届けます!」と軽やかに行動できるおじさんにならなきゃなあと。
松岡

松岡

面談でもかなり本音ではしゃべりました。動かない機械とまでは言ってませんが(笑)。
前田

前田

我々はテレビ屋だったんですが、これからはデバイスにこだわらない、コンテンツメーカーになります。「コンテンツを作りたい!コンテンツを生かしてビジネスを作りたい!」そういう人を探しています。松岡にはアニメを作りたいという熱意があります。あとは実は文章が断トツうまいんです。そこもコンテンツメーカーとして評価されていると思います。
細野

細野

若者こそMBSを変えていけるっていうことですよね。ジャンプ+も、スマホで読む形にしたことはYouTubeやTwitterと争える土俵に乗れたということでもあります。そうはいってもライバルは手強いですが…。その厳しい戦いに勝って、新しい読者を取り込んでいかなければなりません。そういったライバルに勝つ方法を見つけることが、若手に期待することですね。
松岡

松岡

まだ2年目ですが、急速に社内の体制が変わっているのを目の当たりにしていて、「若手はどう思うのか?」と聞かれることがよくあります。社長と若手社員が話す会議があったり、内定者から編成に企画を提出したり。若手ということで優遇されることがあって驚いています。
前田

前田

若手の意見を吸い上げてくれとよく頼まれますね。
松岡

松岡

ネットが敵という感覚でもなくなってきていると思います。社内会議でも「どんどんネットを使ってPRしてくれ」と言われるようになっていて、『情熱大陸』ではYouTube限定のコンテンツを作り出したり、『林先生の初耳学』ではコーナー切り出しをネットにアップしだしました。
前田

前田

会社が変わってきたという話だと、三村社長が数年前からiPadでYouTubeを見まくってるんですよ。三村さんはもともと制作者なので、作り手として新しいテクノロジに興味を持つように常々言われています。都市伝説的な裏のとれない話ですけど、今から30年前に、初めて肩でかつげるカメラ(ENGカメラ)が開発されたときに、スタジオを出て町の人に話しを聞きにいく番組を作ったり、スタジオに大きなモニターをいれて、そのモニターで番組を進行していくのを最初にやったのが、三村さんだったと言われています。
松岡

松岡

『夜はクネクネ』と『ちちんぷいぷい』ですね。会社のライブラリーでみました。街ブラ番組の原型ですよね。自分の親が若者だった時代を感じられるので、今見たら違う視点で面白かったです。
前田

前田

私たちも社長に刺激受けてYouTubeを毎日みるようになっていて、最初は「おもんないなー」と思っていたんですけど、今は「YouTubeって面白い」と思うようになりました。そうなると今度はコンテンツ制作者のはしくれとして、ネットという場でコンテンツ作りに挑戦したいなあとはすごく思いますね。
細野

細野

いいですね。
前田

前田

と、思うんですけど、まずは若手に挑戦してほしいですね。なのでその土台作りを我々世代がやらなければいけないと思っています。若い人からスターが出てほしいんです。昔は5年目までは企画書だせないという下積みが長いテレビ局でしたが、去年ぐらいからは1年目の若手もちゃんと企画書を出して、採用されるという事例もでてきました。
細野

細野

すごくいいことだと思います!

ヒット作を生み出すような人間がデジタルに興味ないわけがない

前田

前田

今、人事としてMBSの若手社員に「プログラミングやネットの知識など勉強しましょう」と、働きかけています。例えば、新入社員全員に、UdemyというEラーニングサービスに加入してもらって、かなり高度なプログラミングを勉強してもらってるんですよ。恐らくそこまでプログラミングを学ばさせている放送局は他にないと思います。そんな中、たまに不安なるんですよ。これって意味あるのかなって。プログラマーになるわけじゃないのにって。
松岡

松岡

え、そうなんですか?(笑) 自信がないのにやらせているんですか?
前田

前田

5年後、10年後に役立つことだと思っています。即効性がないので、すごく心配にはなります。細野さんにお聞きしたいのは、ジャンプ+の社員はやはりデジタルの知識が豊富なんでしょうか?ということです。
細野

細野

私自身は中学生のころから家でパソコン触ってましたが、下手の横好き程度で。集英社にはプログラミングを書いたりする人もいますが、編集者がみんなデータを読み解くのが得意というわけではないです。でも皆デジタルに興味があるので、上手く利用する方法を常に考えていますね。編集者が漫画を作る、売る時に必要なのは様々な手段や経験です。デジタルは今や必須と言ってもいい「手段」なので、そもそもヒット作を生み出すような人間が、デジタルに興味ないわけがないんです。
松岡

松岡

それはテレビにも言えることですね。プログラミングの達人になるわけではなく、おもしろいコンテンツやサービスを作るために、プログラミングを理解しておくということですよね。前田さん。
前田

前田

はい、そう思ってます! これも才能の発掘と育成だと思っています。
細野

細野

才能の発掘、育成はとても大事なテーマですね。さきほど伝えたように我々は新人発掘主義なので、読者だけではなく、作家を集める仕組みづくりをしてきました。テレビ局も視聴者だけではなく、才能のある制作スタッフを集めることが求められているのではないでしょうか。
前田

前田

今後ディレクターやプロデューサーといった制作スタッフを発掘し、育てる上で、どのような姿勢で臨めばいいのか、才能ある作家と数々の漫画を生み出してきた細野さんにお伺いしたいです。
細野

細野

そうですね。ジャンプ+でもジャンプでも、編集部員は皆、「この作家と一発当てたい」と思って仕事をしています。当然、なかなか成果に結びつかない人もいます。ただ、その中で結果を出している編集者に共通しているのは“惚れ込む力”が強いということです。
松岡

松岡

惚れ込む力、ですか。
細野

細野

新人と打ち合わせしてくると毎回「天才に出会いました!」と意気揚々と報告してくる編集者がいたり、映画をみるたびに「僕のベストスリーが更新されました!」と毎回感動している人がいたり(笑)。でもそうやって、コンテンツに愛を持って、ちゃんと信じてあげられる人はいい結果を出すことが多いんですよね。これは漫画でもテレビでも同じことだと思います。
松岡

松岡

どれだけコンテンツに愛を持てるか。とても勉強になります。
細野

細野

もちろん失敗したらその分だけ責任は伴います。ジャンプの編集経験者は、1年間ずっと連載会議に落ち続け、やっとのことで連載が始まった作品でも、アンケートでは下から3番目だった、ということを経験するので、「アンケート結果を見るたびに手が震える」と言っていました。
松岡

松岡

それほど、コンテンツにかける思いがあるんですね。
前田

前田

作りたいという思いはとっても大事なんですね。あとは自分を信じる力も大事ですよね。私は20年近くテレビの制作現場で生きてきましたが、今有名になっている芸人さんでも、俳優さんでも、作り手でも、みんな昔は右も左もわからない新人でした。でも今輝いている人たちはみんな新人時代から「私は絶対成功する」っていう信じる気持ちをもっていたと思います。若者と接する時は、全員の可能性を信じて、接していきたいと改めて思いました。

もしMBSの社員だったら何をする?

前田

前田

細野さんがもしMBSの社員になったらどんなことがしたいですか?
細野

細野

そうですね。もし番組を作れるのだとしたら60分間で120個のネタを試せるような番組を作りたいですね。しかも新人ディレクターを起用して、作った映像が30秒ごとに変わっていくんです。それがSNSやなんらかの形で反応ができるようになっていて、特に反響の大きかったものをちゃんとした番組にしていくと。
前田

前田

海外の広告ショーみたいですね。若手にチャンスが与えられて、実力が試せるっていうのはいいかもしれませんね。
細野

細野

30秒でも視聴者に印象を残せる人はいるはずなので、そういう人をネットからの反応で引き揚げていくっていうのもいいなあと。
松岡

松岡

全部YouTubeにあげて、シェアできるようにしておくと、SNSでたくさんの反応がありそうですね。
細野

細野

あとはTVerをもっと強化できるといいですね。日本中の放送局の生放送も見れて、過去の作品も全部見れるってなると、それこそ最強の「メディア」になるのではないでしょうか。月額しっかりとお金払う人多いと思いますよ。
松岡

松岡

スマホ上で毎日訪れる場所になるということですね。
細野

細野

テレビはむしろネットの風土に合わせないといけない日が来るのではないかと僕は思います。さきほど松岡さんが「テレビは動かせない」とおっしゃってましたけど、その視点がすごく大切で、だからこそテレビをもう少し進化させた形が生まれてくると思います。
前田

前田

テレビをしっかり見ている世代は50歳以上というデータがありますが、今若者が一番みているネットの風土に合わせるというのは絶対に必要です。そして単にテレビ番組がネットに合わせるだけでなく、テレビ局がネットコンテンツを作るということに挑戦したいですね。特に今日新たに学ばさせてテレビのように一球入魂ではなくて、ジャンプ+の精神で、新しい作り手、新しい出演者が主役にになるような場を作って、大量のコンテツを作りたいと思いました。
松岡

松岡

テレビには解決しなければならない課題がたくさんあるのですが、僕もテレビの可能性を信じて、「テレビって面白い」と思ってもらえるような番組を作っていきたいです。ありがとうございました!

テレビがデジタルシフトするためには、テレビを常に模索し、コンテンツの可能性を信じることが大切

紙媒体とテレビ、業界は違えど置かれている状況や課題には通じるものがあると思います。
しかし、デジタルの可能性を信じ、常に新たなコンテンツを生み出し続けたジャンプ+は若者たちの熱い支持を得ています。
放送局には放送枠の問題やコスト、若手の育成など、あらゆる課題がありますが、"コスパの良い”動画の特性や、テレビだからこそアプローチできることなど、可能性があると思いました。

一番大切なのは若手の意見を積極的に取り入れ、コンテンツの力を信じること。既存の考え方に縛られない、柔軟な考えを持った若手社員にだからこそ、できることがまだまだあるはずです。

今日も毎日放送には、チャレンジ精神に溢れた若者を探す、屋台人間人事前田の姿がありました。

文 :高山諒
写真:西田周平
編集:人間編集部

企画・制作:株式会社人間

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