去年秋、明治神宮大会で27年ぶり2回目の頂点に立った神奈川・横浜高校。
今年春、センバツでも、春夏4度の全国制覇をほこる智弁和歌山との決勝を(横浜11-4智辯和歌山)制し、平成の怪物・松坂大輔を擁した1998年以来2度目の「秋春連覇」を果たした。
松坂世代の横浜高校は『神宮、春、夏、国体』の全国大会4冠を達成した伝説の世代。後にも先にも、このチームしか成し遂げていない偉業だが、今年の横浜高校はこの記録に挑戦できる全国唯一のチームなのだ。
センバツ決勝まで公式戦20連勝・無敗で勝ち続けていた横浜高校。決勝後まもなく開幕した春季神奈川県大会でライバル・東海大相模との決勝戦も、延長10回タイブレークにもつれる死闘をサヨナラで制し、公式戦25連勝に伸ばしたが、チームの状況は万全とは言えなかった。「センバツでの濃密な2週間を戦い抜いてから、間もなく春季大会が開幕したこともあり、コンディションを整えながら過ごすことが難しかった」と村田浩明監督は振り返る。
(画像:横浜・村田浩明監督 高校時は1学年上の成瀬善久(元ロッテ)、同級生の涌井秀章(現中日)らとバッテリーを組んだ)
春季関東大会ではチームの大黒柱である主将・阿部葉太外野手(3年)と、エース・奥村頼人投手(3年)の2人がケガの影響で欠けてしまった。他のメンバーの活躍で準決勝まで勝ち進むも、公式戦の連勝は27でストップ。しかし、選手たちは下を向かなかった。
阿部葉太主将「まだ夏がある」
「横浜1強」を掲げ、有言実行で勝ち続けてきたチーム。先頭に立つ阿部葉太主将は名門・横浜高校で史上初の「2年生キャプテン」を経験。去年5月から、誰よりも長くチームをまとめあげてきた。
「振り返れば、あっという間の1年2か月だった。甲子園に行くために入学した横浜高校で悔しい思いもたくさん経験した。自分たちの代で秋、春と勝ち切って、あとは夏に向けて。このメンバーで野球ができるのもあと少し。とにかく今は野球が楽しいです」
今春センバツ2回戦の第1打席。甲子園の右中間最深部に弾丸ライナーでスタンドインさせたあの衝撃のバッティングが忘れられない。この夏も甲子園でぜひ見たい注目選手だ。
(第97回センバツ 横浜×沖縄尚学 阿部葉太主将が右中間へ特大ホームラン)
奥村頼人投手「本番の夏に向けてやり抜く」
「センバツでは“優勝投手”になりたい気持ちが先走ってしまった」
背番号「1」を背負って挑んだ春のセンバツ。5試合すべてにリリーフ登板し、14回2/3を投げて防御率3.68という成績は決して納得のいく結果ではなかった。
「今までは自分の思い通りに打ち取れたりしていたのが、センバツでは違った。詰まらせたつもりが外野まで運ばれたり、全国レベルで通用しない部分に気づけた」
去年秋の公式戦は防御率0.26と打者を圧倒できていた奥村だったが、ひと冬を越えて全国のライバルのレベルが上がっていることを実感したという。
「夏に通用するためにもう1度、日々の練習に取り組む姿勢を考え直しました。ただ漠然とやるのではなく、1つ1つ真剣にこなすことで体も大きくなりました」
春から4キロほど増量。去年の秋から8キロ増やしたことになる。「球速というより球の質を重視して、パワーアップした姿を見せたい」
センバツ優勝の瞬間は「レフト」にいた奥村
センバツを振り返って、もうひとつ気づいたことが、「センバツでは“優勝投手になりたい”という思いが先行してしまっていた。秋の公式戦では“チームの勝利”を考えて投げていて、結果的に優勝投手になっていたが、甲子園では“勝ち”より“優勝投手”が先に来てしまっていた」と思いが強すぎるあまり、個人的な感情が前に出てしまっていたと反省する奥村投手。
「福田(東海大相模)、佐藤(健大高崎)、石垣(健大高崎)など、名前をあげればキリがないくらいたくさんの同級生が甲子園で活躍している姿を見て、その悔しさを忘れずに頑張ってきた。今年の夏は自分の番だと思っています」
ケガから復帰した横浜高校の大黒柱2人。“最後の夏”への思いは強い。
(画像は左:阿部葉太主将 右:奥村頼人投手)
夏の高校野球 神奈川大会は、7月9日に開幕する。横浜の初戦は7月11日(金)、荏田×横浜氷取沢の勝者と戦う予定だ。泣いても笑っても最後の戦いを前に村田監督も感慨深げだ。
「まだ実感はわかないですけど、まだまだこの子たちと野球したい気持ち。本当に最後の瞬間はちょっとやばいかもしれないです(笑)」秋、春と試合を重ねるごとに強くなってきたチームへの思い入れは強い。
秋・春・夏の3冠を達成すれば、98年松坂世代の横浜高校以来・史上2回目の快挙。高校野球の歴史に名を刻む“熱い夏”が始まろうとしている。
(取材・文 MBSスポーツ部 徳永亮太)