去年12月に現役を引退した元中日ドラゴンズの平田良介さん(34)。2017年にはWBC「侍ジャパン」のメンバーとしても活躍しました。アスリートの引退後に必ず訪れるのが『セカンドキャリア問題』です。平田さんは今、第2の人生をどうやって歩んでいこうかと模索を続けています。競技の経験を生かすのか、それとも違う進路へ進むのか。平田さんの新たな挑戦に密着しました。

17年間のプロ生活にピリオドを打った平田良介さん

 3月9日にWBC初戦を迎える「侍ジャパン」。世界一奪還に向けた熱き戦いが始まります。そんな大舞台で活躍する選手がいる一方で…。

 (平田良介さん)
 「手はきれいですよ。もうないですもんね、マメが。これでも6cmくらい細くなって、この辺(上半身)とかも筋肉がどんどんなくなっていって」

 去年12月に現役を引退した元中日ドラゴンズの平田良介さん。2017年のWBCに出場した侍ジャパンの元選手です。今年、第2の人生をスタートさせました。
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 大阪市出身の平田さん。強豪である大阪桐蔭に進み、1年から4番を任されました。3年の夏にはPL学園の清原和博さん以来となる『1試合で3本塁打』という記録を打ち立て、高校生ドラフト1位で中日に入団。通算1000安打達成などチームを代表する選手に成長しました。

 しかし去年10月、戦力外の通告。他球団からのオファーもなく、17年間のプロ生活にピリオドを打つことになりました。

 (平田良介さん)
 「自分の中で現役続行をやっぱり希望していたんですよね。まだまだ現役でやりたいと思っていたので。ここの球団どうだろうとか、いろいろ足を運んで活動はしていたんですけど、どこからもお声がなかったので、スッキリやめることができましたね」

『僕はバイトしたことがないし履歴書も書いたことがない』

 平田さんは妻と2人の子どもの4人家族。突然始まることになった夫の第2の人生について、家族は次のように話したと言います。

 (平田良介さん)
 「(家族は)応援してくれていますね。『僕がやりたいことを優先したほうがいいんじゃないの』と言ってくれていますね。だからこそ、あたふたせずに地に足をつけて、まずは落ち着こうと思いました」
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 しかし、現実は…。

 (平田良介さん)
 「1年契約ではあれど固定給があるというのが当たり前だったのが、現役を引退してからはその固定給がない生活を初めて味わうので。高卒でプロ野球選手になる人ってバイトをしたことない人が多いと思うんですよね。僕はバイトしたことないので、履歴書も書いたことがないし。それが35歳になって放り出されるんですよ、一般社会に。けっこう怖くないですか」

元DeNA投手・萬谷さんに誘われて草野球チームに入団

 今年2月最後の日曜日。大阪市内の野球場には白球を追いかける人たちがいました。そこにユニフォームを着た平田さんがいました。

 (平田良介さん)
 「1打席目と2打席目は(バッドの)芯には当たっているんですけれども、打ち方を変えないとボールがつぶれて飛ばなくなっちゃうので、(Qこれが硬式だったら?)両方ホームラン入っていますね」 

 この日は4打数0安打。元プロとはいえ軟式のバッティングに慣れません。
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 平田さんは今年1月、この草野球チームに入団。毎週、自宅がある名古屋から大阪まで2時間半かけて通っています。

 (平田良介さん)
 「萬谷に誘っていただいて。一緒に野球やろうということで、同じユニホームを着て野球したいなと思ったので」
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 誘ってくれたのは中学1年まで同じ野球チームだった萬谷康平さん(35)です。萬谷さんもDeNAベイスターズの元投手でしたが、けがに悩まされて3年で戦力外に。今は仲間と会社を立ち上げ、ひと足早く第2の人生を歩み始めています。

 (萬谷康平さん)
 「(平田さんは)一流でやっていて収入がすごくあった中、仕事を探してやっていかないといけないというところで。野球が大好きな平田良介がブレなければ、ここからの社会人というのは成功していくのかなと思っているので、そこは大切にしてほしいかなと」

SNSで依頼受付「ファンとの交流イベント」「個人レッスン」

 家族や幼なじみの支えを受けながら歩み始める平田さん。とはいえ、仕事の探し方もわからず、手始めにSNSで仕事の依頼を受けることにしました。
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 この日は野球好きが集まる飲食店での交流イベントに招かれました。『自分を必要としてくれるのなら』とどんな所でも駆けつけます。

 (ファンからの質問に答える平田さん)
 「(Q一番嫌だった投手は?)一番嫌だったのはダルビッシュ有投手ですかね。だいたい1軍のピッチャーって、ストレートとフォークはすごいけどスライダーはそこそことか。ただダルビッシュ投手の場合は、ストレートもすごいし、スライダーもすごいし、カーブもフォークもシンカーもチェンジアップもシュートもすごいし、全部すごい」
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 ファンとも気さくに触れ合います。

 (ファン)
 「すごく優しい話し方で人柄が伝わりました」
 「平田さんは大阪の人でおしゃべりが上手なので面白かったです」
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 野球以外の仕事も少しずつチャレンジする一方、将来の夢につながる依頼も舞い込んできました。「プロを目指す息子に野球を教えてやってほしい」という父親から個人レッスンの依頼です。
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 (SNSで個人レッスンを依頼した太田潔さん)
 「ダメもとでDMさせてもらったんですよ。まさか返信はないと思ったので。僕にとっても夢のようだし」
 (息子 太田琥志郎さん(12))
 「わかりやすくて、打球も鋭くなって、良かったです」

『指導で子どもたちの夢の応援をできたら』

 平田さんは今、白球を追いかけていた少年時代に立ち返って動き出そうとしています。

 (平田良介さん)
 「今までプロ野球選手として子どもたちに夢を与えられていたところが、これからは現役選手ではないので指導のほうで子どもたちの夢の応援ができたらいいなと思いますね」

 引退から2か月。今は必要とされる新たなグラウンドで平田さんの挑戦が始まります。
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 日本野球機構によりますと、2021年に戦力外または現役引退した選手は143人。その平均年齢は27.8歳、平均在籍年数は7.3年でした。引退した選手たちはその後、55.2%がNPB関係(コーチ・スタッフ・球団職員など)に、19.6%がその他の野球関係(NPB以外の選手・監督・解説者など)に、15.4%が野球関係以外(一般企業就職・起業・他競技転身)に、9.8%が進路未定・不明となっています。