山場を迎える今年の春闘。賃上げ要求率は平均6.09%で、1993年以来32年ぶりの“6%超え”となりました。中でも、流通・外食などの労働組合が加盟する「UAゼンセン」は、3月7日時点で妥結した10の組合正社員の賃上げ率が平均で6.71%にのぼっていると発表。イオングループなどの高い賃上げが押し上げた形となっています。

 大企業では賃上げの動きが出ていますが、中小企業も給料はUPするのでしょうか?物価高が続くなかで豊かさは“実感”できるのでしょうか?
日本総合研究所関西経済研究センター所長の藤山光雄氏に見解を聞きました。

◎藤山光雄:日本総合研究所関西経済研究センター所長 専門分野は地域創生・地域経済

中小企業は「無理をして(給料)上げている」 持続性のカギは“価格転嫁”

 この春、給料は上がるのでしょうか。連合に加盟する2900あまりの労働組合によりますと、去年の春闘での最終的な賃上げ率は5.1%でした。それに対し今年の春闘で要求されている賃上げ率は6.09%。中小企業に限ると、6.59%の要求だということです。

 今年の要求賃上げ率について「予想よりも高かった」と見るのは、日本総合研究所関西経済研究センター所長の藤山光雄氏。「昨年かなり高い賃上げ率を実現したので、もう少し低くなるかな…」という当初の見立てでしたが、数字は予想より高くなったということです。

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 組合の要求に対し、“満額回答”が相次いでいるのが大企業。自動車部品メーカーのデンソーは、過去最大となる『月2万3000円』の賃上げ、サントリーは『約7%』の賃上げ、コスモエネルギーは要求6.2%を上回る『6.7%』の回答となっています。一方、中小企業についても「それなりに上がると思う」と藤山氏は指摘。一方で、「大企業は賃金を上げる余力があるが、中小企業はどちらかというと無理をして上げている」状況だということです。

 その中小企業が“持続的な賃上げ”を実現するためのポイントが『価格転嫁』です。大企業は業績が非常に堅調なところが多く、その大企業との取引で中小企業が(人件費を含めた)コスト増を価格転嫁できるよう、大企業側が対応していく必要があるということです。

 大企業の社員が賃上げの恩恵を受ける→消費拡大が中小企業にも波及→中小企業の業績UP→中小企業の賃上げ…こうした好循環が起こるかどうか、今年や来年が転換点になると藤山氏はみています。

物価高「夏ごろには落ち着きそう」

 名目賃金から物価変動の影響を差し引いた『実質賃金指数』(厚労省調べ)を、2020年の平均を基準として見ると、2023年後半~2024年後半にかけてマイナスで推移しています(ボーナス時期の6・7・11・12月はプラス)。2021年~2024年の年平均を見ても、昨年は2023年より多少改善されたものの、マイナスが多くなっています。つまり、生活が豊かになっている “実感”が感じられていない状況です。

 このデータについて藤山氏は、「マイナスの幅は少しずつ小さくなっている。(2025年)1月・2月はまだマイナスになってしまうと思うが、この春闘の結果が反映されて、ゼロに、または上に行くのか…」とコメントしています。

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 さらに給料UPを実感するには、『持続的な給料UP』と『物価高の落ち着き』の両方が必要だと藤山氏は指摘します。前者については、「企業の収益がしっかりと付いてくるかどうかにかかっている。日本の人手不足は構造的な問題で、給料を上げないと人を確保できない状況だが、企業は業績が伴わないと給料を上げられない」と言います。

 さらに、去年12月の日銀短観によると、雇用人員の過不足の見通しは“バブル期以来の不足”となっていて、その点については「多くの中小企業と取引している大企業が、どういう形でサポートするかも重要になってくる」ということです。

 一方、物価高については、「今夏ごろには落ち着きそう」というのが藤山氏の見立てです。「米・野菜については気象の影響も大きく一時的な面もあるが、徐々には落ち着いていくだろうと。円安の影響で2023年前半に4%だった物価上昇率は、2025年3月現在、2.5~3%となっている。ただ、日銀の目標である2%程度まで落ち着かないと、給料の伸びが物価を上回る状態にならない、つまり“実感できない”ということになってしまう」と言います。

トランプ関税による「業績悪化が心配」

 ただ、給料UPには不安要素もありそうです。米・トランプ大統領は各国に輸入関税をかけていて、日本の自動車産業や(中国からの)インバウンドへの影響が懸念されています。またトランプ氏は日本の円安を疑問視しています。

 これについて藤山氏は「日本の製造業は今、業績が非常に良いが、トランプ大統領が関税をかけて、アメリカで物が売れなくなる、あるいはアメリカで売るものが高くなると、業績が悪くなってしまうおそれもあり少し心配」と指摘しました。

 今年は給料UPが実感できるのか?また、物価高は落ち着くのか?まさに今が分岐点となっています。