兵庫県の斎藤知事のパワハラ疑惑をめぐる一連の問題。亡くなった元県民局長の告発文をめぐっては現在、4つの委員会が調査を進めていて、3月にも調査結果をまとめる方針です。複雑化している現在の状況を整理しつつ、ポイントを地方自治に詳しい法政大学大学院・白鳥浩教授に聞きました。

◎法政大学大学院・白鳥浩教授:政治学や現代政治分析などが専門 地方自治に詳しい 日本政治法律学会理事長

一連の問題をめぐり4つの委員会が調査中 それぞれの違いは?

 亡くなった元県民局長の内部告発文書を巡っては4つの委員会が設置されていて複雑な状況となっています。その調査内容は大きく分けて「ハラスメントについて」と「情報漏えいについて」の2つに分けることができます。

 【ハラスメントがあったかどうかを調査】
 ▼百条委員会(兵庫県議会が設置)
 ▼告発文書に関する第三者委(兵庫県が設置)

 【情報漏えいについて調査】
 ▼情報漏えいに関する第三者委(兵庫県が設置)…公用PC内の私的データを斎藤知事の側近だった前総務部長が県議会議員に漏らした疑惑
 ▼情報漏えいに関する第三者委(兵庫県が設置)…県が持つ元県民局長の私的情報などをN党の立花孝志氏に漏らした疑惑

 このように同時に複数の調査委員会が発足することについて、法政大学大学院・白鳥浩教授は「かなり珍しい」と述べています。

似て非なる「百条委員会」と「第三者委員会」

 ハラスメントについての調査は、「百条委員会」と「告発文書に関する第三者委員会」のそれぞれが調査をしていて、3月にも結果を公表する予定です。

 県議会が設置した百条委員会は、ハラスメントの有無をまず議会に報告をします。この結果を受けて、辞職勧告なのか不信任なのか、議会がどう動くかという話になります。

 兵庫県が設置した第三者委員会は、ハラスメントの有無のほか、改善すべき具体的な策も踏まえて県に報告します。これを受けて知事がどう判断するのか…ということになります。

ーーー百条委員会と第三者委員会の一番違う点は?

 (白鳥浩教授)「百条委員会は政治家である県議がやっていて、民意にバッシングされることが怖い。前回の不信任案は会派を超えて全会一致でしたが、2月18日からの県議会では、会派の対応が割れる可能性があると思います。なぜかというと、斎藤知事は民意を受けて再当選しているので、その民意に差を指すのかと」

 「もう1つの第三者委員会は弁護士がやっていて、弁護士は基本的には『疑わしきは罰せず』と非常に慎重な議論をしている。従って“黒に近いグレー”であっても、ハラスメントを認めない可能性もあると思われます」

ーーーもしそれぞれで違う結果が出たときはどう評価すべきでしょうか?

 (白鳥浩教授)「非常に難しいのですが、判断基準が違うので、違う結果が出る可能性は大いにあります。百条委では政治的な責任ということを考えている。第三者委は規範的もしくは司法上の課題として捉えているので」

ーーー結論が違った場合にどちらをより重く受け止めるべきなのでしょうか?

 (白鳥浩教授)「これも非常に難しいですね。百条委員会で『ハラスメントがあった』という判断になると、認めているのに何もしないでいいのかという議論になる。ところが2度目の不信任を出せるだけの数が集まるかどうか。場合によっては、過半数で可決される辞職勧告決議案を出す可能性もあります。いずれにしても辞職勧告決議は法的拘束力がないので、辞める必要はありません」

 「第三者委員会で『ハラスメントがあった』となったとしても知事は辞める必要はないため、いずれにしても今後の動きを見ていく必要があると思います」

「ステークホルダーは兵庫県民。結果を知る権利がある」

 情報漏えいに関する2つの第三者委員会も見ていきたいと思います。

 1つは「公用PCの私的情報を県議に漏えいした疑惑」についての調査、2つ目は「私的情報を立花氏に漏洩した疑惑」の調査で、どちらも3月にも調査結果が出る見通しです。

 この2つの委員会は、それぞれの担当課が異なります。「公用PCの私的情報を県議に漏えいした疑惑」については人事課が担当し、日本弁護士連合会の指針を参照して設立。調査結果の公表予定はないとしています。

 「私的情報を立花氏に漏洩した疑惑」については法務文書課が担当し、日弁連の指針に沿って設立。調査結果の公表は未定としています。

 【日本弁護士連合会による「第三者委員会」ガイドラインとは…】
 ▼委員数は3人以上が原則 企業と利害関係を有する者は就任できない
 ▼企業等が所有するあらゆる資料・情報・社員へのアクセスを保障する
 ▼ステークホルダー(利害関係者)に対する説明責任を果たす目的で設置

 今回の2つの第三者委員会は、メンバーが公表されていません。この理由に関して知事は「情報漏えいという非常にセンシティブな内容。結果によっては職員の処分に関わってくる」としています。

 構成メンバーなどを公表しないことに関して、白鳥教授は「いずれかの時点で『どういう結果になったか』『誰が調査したか』を公表する必要があるのではないか」と指摘します。

 (白鳥浩教授)「外部の影響を回避する意味で公表しないことはありますが、第三者委員会のガイドラインで非常に重要なのは『ステークホルダー(利害関係者)が誰なのか』。この場合は兵庫県民だと思うので、県民は当然その結果を知る権利があると考えてもいいと思います」