8月8日、宮崎県で最大震度6弱を観測する地震が発生。その後、気象庁が南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」を初めて発表しました。今回の地震の特徴は?南海トラフ地震との関連は?京都大学・梅田康弘名誉教授の解説です。
◎梅田康弘:地震学者 京都大学名誉教授 元京都大学防災研究所・地震予知研究センター長
1週間以内にM8クラスの地震が発生する確率は「約0.5%」…この数字をどう見る?
―――今回の震源地の日向灘は地震が頻発する場所なのでしょうか?
「そうです。20~30年に1回、マグニチュード7クラスの地震が起きている場所ですね」
―――気象庁は今回、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を初めて発表しました。南海トラフ地震の想定震源域において、モーメントマグニチュード8.0以上で「巨大地震警戒」、7.0以上で「巨大地震注意」となるということですが、マグニチュードとモーメントマグニチュードの違いを教えてください。
「ちょっとわかりにくいと思いますが、最初に出たマグニチュードは7.1でした。これは通称“気象庁マグニチュード”と呼ばれ、地震波の振幅から判断します。わりとすぐに決まります。しかし地震が大きくなると、この波が振り切れるなどして正確さに欠けます。そのため、“面積”と“ずれた量”を用いたモーメントマグニチュードを出しますが、面積やずれた量を出すのにもたくさんの波形から計算します。これに時間がかかるため、『調査中』となっていました。そして、モーメントマグニチュードは7.0と評価されました」
―――過去の事例によりますと、1週間以内にマグニチュード8クラスの地震が発生する確率は、通常で約0.1%。一方、マグニチュード7以上の地震が発生した直後は約0.5%と5倍になります。この数字はどう見ればいいのでしょうか?
「過去に世界中で起こった地震を1400例ほど調べると、最初にマグニチュード7クラスの地震が起こって、そのあと1週間以内にマグニチュード8クラスの地震が起こったのは6例ほどです。非常に少ないのですが、もともと南海トラフ地震は発生確率が高いでしょ?高いところに、ちょっとだけ上がったんだけど、やはりそれは注意しなければいけないというのが今回の数字です」
―――通常より発生する確率は上がっているという認識をもっていくことが大事?
「はい、おっしゃるとおりです」
―――“1週間以内”という期間については?
「今、申し上げたように、1つは、1400回のうち6回が1週間以内に起こっているということ。もう1つは、自主避難した人が長いこと耐えられないですね。“受忍限度”というのが1週間ぐらいだろうということで、内閣府は『1週間』と。あまり学術的根拠はないです」
メカニズムは「逆断層型」 南海トラフ地震を促進する方へ動く
―――今回の日向灘の地震は、プレート同士が押し合い片方がずれ上がる「逆断層型」で、南海トラフ地震とメカニズムが同じということですが、南海トラフ地震との関連性をどう見ていますか?
「メカニズムは同じですが、規模が違います。南海トラフは700km以上にわたりますが、8日の日向灘はおそらく約40kmですから、1%ぐらいの面積、ほんのわずか動いたぐらい。わずかなんですが、メカニズムが一緒ということで、南海トラフ地震を促進する方へ動いたんですね。トリガーになるかどうかはまだわかりません。ただ、ちょっと促進する方へ動いたので注意が必要というのもあります」
―――南海トラフ地震については「30年以内に発生する確率は70%」とよく言われますが、これは変わりませんか?
「変わりません。それに加えて、さきほどの数字があったように、ほんのわずかですが上がりました。南海トラフ地震は、分割して起こる場合もあります。昭和には『東南海地震』があり、その2年後に『南海地震』がありました。その前の安政の時には、東半分の『東海地震』が先に起こり、31~32時間後に『南海地震』が起こりました。そのもう1つ前の宝永の時はいっぺんにいって、規模が非常に大きく、富士山が後で噴火しました」
―――南海トラフ地震で、関西では震度6弱・6強・7など、非常に大きな揺れが想定されています。
「関西への影響も非常に大きいです。比較的揺れが小さいと予想される地域でも、5強・5弱など相当な揺れが想定されています。加えて、『長周期地震動』もあります。東日本大震災の際は、大阪府の咲洲庁舎が約2m揺れ、液状化も起こりました。遠くで起こった地震でも長周期地震動は非常に広く伝わり、高層ビルやマンションが大きく揺れます」
―――南海トラフ地震が起こるときには、2~3分前に“大きい地震が来る”ということが『緊急地震速報』で分かるのでしょうか?
「緊急地震速報というのは、地震が起こった瞬間に近くの地震計で捉えて電波で送り、“もうすぐ揺れますよ”と伝えるものです。地震予知とは違います。場所によっては、2~3分もかからないうちに揺れを感じるでしょう」
備蓄・耐震化・避難経路の確認 防災対策の見直しを
―――南海トラフ地震で想定される最大震度は7、津波の高さは最大30m超。想定被害は30都府県で死者32万人超とされています。地震への備えとしては、家具の固定、非常用持ち出し袋の準備、水や食料の備蓄、避難場所・避難経路の事前確認、感震ブレーカーの設置、建物の耐震化など様々な対策が考えられます。
「南海トラフ地震の想定被害は、あくまでも、何も対策をしなかった場合の数字です。皆さんがきちんと対策をした場合、被害は少なくなりますので、家具の固定や避難経路の確認など、この機会に防災対策を見直していただけたらと思います」