開幕から1か月が経った大阪・関西万博。海外パビリオンの建設をめぐり、国内の複数の下請け業者が、“外資系元請けからの支払われるべき費用の一部が未払いになっている” と訴えていることがわかりました。
「急に支払いが滞った」1次下請けA社の訴え
5月13日で開幕から1か月となった大阪・関西万博。連日のにぎわいの一方で、ネパール館は1月から工事が止まり、開館のメドはたっていません。建設工事費の一部が支払われていないことが原因ですが、実は工事費の未払いトラブルは、ネパール館に限ったことではありません。
「もう本当に、会社がいつ潰れるかわからない」
関西にある中小規模の建設会社・A社の安藤さん(仮名)。A社は、参加国が独自に建設する「タイプA」パビリオンの建設工事を、海外に本社を置く外資系元請け業者Xから受注した、1次下請け業者です。
海外パビリオンの1次下請け業者A社・安藤さん(仮名)
「工事中盤に差しかかって、終盤になるにつれて、急に支払いが滞った。“契約通りにそこからお支払い”というのが実行されなくなって、結局最後まで実行されないまま(建設工事が)完了したという形です」
A社は、契約金の約40%と、仕様変更などでかかった追加工事費用が支払われておらず、未払い額は総額で8000万円にのぼると主張しています。何度も元請け業者Xに支払いを求めたといいますが…
「(Xの責任者からは)『絶対大丈夫だから心配するな』『もうすぐ来週にでも振り込む、なんなら今すぐにでも振り込む』っていう話をずっとされながら、実行されると期待していたのが、翌週になっても翌々週になっても、月末になっても降りてこない」
「新たな契約書」への署名求められる…その内容とは
滞った支払いを何度も求めていた最中、元請け業者Xから新たな契約書がメールで送られ、署名を求められたといいます。その内容とは…
新たな契約書
「下請け業者は遅延1日につき、価格の2%のペナルティを支払う」「工事に欠陥があった場合、元請け業者はその修繕費用を下請け業者に支払う額から相殺できる」
つまり、工事の “クオリティ” が不十分と判断された場合、その修正工事の費用を契約金から差し引くなどという内容が、契約に加わっていました。
「今思えば、チャンスでも何でもなかった」
海外パビリオンの1次下請け業者A社・安藤さん
「契約書にサインをしないと次の支払いが実行されないという切羽詰まった状態でもありましたので、ちょっとおかしいなと思うところもあったんですけれども、最終的にサインはさせていただきました」
A社にとっては初めての海外クライアントとの仕事。文化の違いや、たび重なる仕様変更などに対応したことで、予定された工期より遅れましたが、開幕には間に合いました。確かに、一部は元請け業者Xが行った修正工事は存在したものの、その費用によって未払い額を全て相殺するとは考えられず、詳細な説明もないと憤ります。
海外パビリオンの1次下請け業者A社・安藤さん(仮名)
「海外の大企業と取引できるのは素晴らしいことやなと。絶対に何が何でも逃げんと頑張ろうという気持ちで、最後には必ず報われると思いながら最後までやりきった。それが蓋を開けてみれば、こんな状況だから、うちみたいな小さい会社に声がかかったのかなとか、今思えば、チャンスでも何でもなかったのかなと」
“追加工事費の3億円以上が未払い”訴える業者も
元請け業者Xからの未払いを訴えているのは、A社だけではありません。関西の建設業者B社は、別の2つの海外パビリオンでXの下請けとして工事を行ったものの、追加工事費の3億円以上が未払いだといいます。
X社の下請けとして働くB社
「工事完成するまでは、(一部を)払ってくれていたんですよ。終わった途端に『知りません』だったので、わざとですよねって」
B社は、当初の契約金は満額支払われましたが、途中で生じた工法変更などによる追加工事費用が、半分程度しか支払われておらず、B社のさらに下請けの業者への支払いもできていないといいます。加えて、契約書によると、追加工事を行う際には責任者の署名による合意が必要だとされていますが、B社は署名がないまま追加工事を求められていたといいます。
「工事をやってるときは(元請けから)もう『今日から入れ』『明日から入れ』と。僕らは『後でサインもらっておいて』と言いますよね、当然。(元請け業者Xは)『私たちはサインする権限がないんだ』と言って、サインをしてくれない。『いや、そんな馬鹿な話ありますか』って」
「普通の現場だったらいったん止めて、『これ、承認してくださいね』『承認してもらえるまで現場に物は入れられませんよ』とやりますけれども、それぞれ国の威信がかかっているパビリオンを建てるのに、いちいちそれをして間に合っていましたか?」
2つの下請け業者が未払いを訴える事態。企業間の紛争に詳しい専門家は…
弁護士法人プロテクトスタンス・正畠大生弁護士
「不履行があったということになるのであれば、元請業者として『ここに具体的に違反があるから、これに対して支払いができない』『報酬を払えないよ』というような所を具体的に指摘して、支払わない理由を説明するべき」
工事費未払いの理由は?元請け業者Xを取材
下請け業者の訴えに、元請け業者Xはどのような見解を持っているのか。Xは、カメラインタビューは拒否したうえで、日本法人の事務所で取材に応じました。まず、A社への契約金については…
「パビリオン引き渡しの際に(発注元の)国側からクオリティについてダメ出しがあり、弊社が修正対応した部分や、完成が間に合わないと判断して工事を肩代わりした部分がある。その費用を相殺すると、支払える契約金は残らない」
“進捗やパビリオンの仕上がりが不十分で、下請け業者の契約不履行があった”と主張しました。また、A社・B社に対し、追加工事費を支払っていない理由については…
「請求された追加工事については量が膨大、かつ、単価が高すぎるように思える部分もあり、精査に時間がかかっている。精査が終われば、下請け業者との話し合いは行わなければいけないと思っている。費用を踏み倒そうとしているわけではなく、違法行為は一切していない」
博覧会協会は「民間同士のトラブルで関与できない」といい…
万博の運営主体である博覧会協会は、このトラブルをどう受け止めているのか?下請け業者A社の問い合わせに対し、協会は「参加国が元請け業者に工事費を支払っていないというトラブルであれば、参加国に指導できるが、今回の場合は民間同士のトラブルであり、関与することはできない」と話したといいます。
この対応に、A社の安藤さん(仮名)は…
海外パビリオンの1次下請け業者A社・安藤さん(仮名)
「あり得ないことが今、本当に実際に起こっているんだなっていうのが率直な気持ちです。ちゃんと国であったりとか政府であったりとか、博覧会協会であったりとか、そういったところがきっちりヒアリングをして対応してくれるかなっていう期待は持っていました。非常に腹立たしく思っています。(万博工事を)やらなければよかったって、やっぱり今でも思います」
現在A社は、元請け業者Xに対し、未払い金の支払いを求める民事訴訟の準備を進めているといいます。
万博担当大臣「責任ある対応を取るよう働きかける」
13日午前、万博を担当する伊東大臣に、未払いトラブルに対する見解をたずねると…
伊東良孝万博担当大臣
「契約上の問題は当事者間の話し合いで解決されるのが基本ではありますが、企業からいくつか類似の案件の声が上がっていることは認識をいたしております。政府としては、参加国に対し、事実関係を確認するとともに、責任ある対応を取るよう働きかけて参る所存であります」
万博会場を彩る海外パビリオン。そのいくつかを完成させた日本の下請け業者たちは今、万博に関わったことで苦境に立たされています。