社名や目的を明らかにせずにマッチングアプリを介して違法な勧誘行為をしたとして、今年10月に消費者庁が「日本アムウェイ」に6か月間の取引停止を命じた。今回、過去に約500人を勧誘したという元アムウェイ会員や、今も現役で活動するアムウェイ会員が、“違法な勧誘方法の実態”を語った。
マッチングアプリで知り合った相手は「アムウェイ会員」だった
神戸市に住む会社員のAさん(28)。部屋の片隅に置かれた段ボール箱には1人暮らしに不釣り合いな21種類の鍋やフライパンがあった。
(Aさん)
「家族で使うんだったらみたいなノリで買ったような気がするんですけど、いや家族いないしなって。これ全部でだいたい20万円ちょっとしましたね」
浄水器に空気清浄機、そして電磁調理器。全てアムウェイの商品だ。
アムウェイは1950年代にアメリカで創業した家庭用品などを販売する会社。特徴的なのはその組織形態だ。会員が勧誘して会員を増やして利益を得る、いわゆるネットワークビジネスを主な事業としていて、日本の会員数は約60万人とされている。
Aさんがアムウェイと関わるきっかけとなったのは2020年に始めたマッチングアプリだったという。
(Aさん)
「恋人をつくる目的でマッチングアプリを始めました。そこである女性の方とマッチングをしました。その人との会話の中で“ある単語”が出てきたんですね。それが『ファスティング』という単語でした。そんなものがあるんだと思って興味もちょっと沸いて」
女性から勧められたのは飲み物以外の食事を口にしないファスティング、いわゆる断食のことだ。Aさんは、女性との初デートの後、ファスティングのインストラクターをしているという男性B氏を紹介された。B氏はまもなく栄養ドリンクやサプリメントを購入するよう勧めてきたという。
(Aさん)
「(B氏から)『(ファスティングに使う)製品を買うためにはある場所で買わないといけないからリンクを送るわ』という話になった後に、この時にアムウェイだと知りました」
その後にわかったことだが、マッチングアプリで知り合った女性とB氏はアムウェイの会員で、B氏は女性の上位会員だった。その後、Aさんは「師匠」と呼ばれる別のグループの上位会員を紹介され、師匠から「アムウェイをすれば時間に縛られない自由な生活ができる」と諭されたという。
(Aさん)
「その当時は社会人2年目に突入していましたね。残業が結構多くて、週5日のうち3日くらいは夜10時すぎに帰っていたので。それが普通だと思っていたんですけど、師匠と会ったことによって常識が覆されたというのがきっかけですね」
相手ごとに対応変える「勧誘マニュアル」を作成してグループ内で共有
師匠から「大金持ちになれる」と言われたこともあり、アムウェイの販売会員となったAさん。自身が勧誘された時と同じく、マッチングアプリを使ってファステイングに女性を誘うようB氏から指示されたという。
【B氏からのメッセージ】
「ファステイングするまでは、できるだけマメに連絡しといて。連絡途切れたら、やるのかやらないのかわからなくなるから。SNSだから特に」
「マメすぎたら恋愛になるから、バランス良くね。これが一番難しいわけよ。ひとまず、ファスティングやるまでは、連絡するということを覚えてくれたらいいです」
特定商取引法では、勧誘目的であることを事前に告げずにネットワークビジネスの勧誘を行うことは禁止されているが…。
(Aさん)
「あんまりよくないんじゃないかなというのは、(アプリをやっている人たちは)やっぱり恋愛目的なので、その人たちをだましているのではと思っていたんですけれども、違法性があるとそこまでは認識していなくて。(Qアムウェイから勧誘でこういう行為はしてはいけないとは?)特になかったですね」
マッチングアプリでのやり取りの文言はB氏自ら考えたという。B氏からの指示内容をみると女性ごとに対応を変えていたのがわかる。
【B氏からのメッセージ】
「かなこ。ジムに3か月通った分くらい引き締まると聞いてやりましたが本当に変わるのでびっくりしました」
「ちよ。ぱす」
「H。ぱす」
「ゆり26。ぱす」
「ぱす」は勧誘が成功する可能性が低く、「やり取りを止めろ」という意味だ。
さらにB氏の指示でマッチングアプリでの勧誘マニュアルを作ったという。そのマニュアルに書かれていた“黒丸の文言”は、ファスティングに興味をもってもらうためのきっかけの言葉だ。
【勧誘マニュアルに書かれた黒丸の文言】
「ジムに通うとかそういうものではないから楽なんですよね。一度だけレクチャーしてもらって、あとは好きな時にやるだけです」
興味を示した相手には続けてメッセージを送り、その後、マニュアルに書かれた“青丸の文言”を送る。
【勧誘マニュアルに書かれた青丸の文言】
「ぼくはレクチャーやサポートはただでしてくれるインストラクターさんだったのですごく始めやすかったですよ」
青丸は押しの一言。無料でファステイングの指導を受けられると伝えて、アムウェイの商品購入に繋げるという。このマニュアルはAさんとB氏を含めたグループ9人で共有していたという。
約500人勧誘しても収入は月1000円…Aさんは会員をやめることを決断
マッチングアプリを使った組織的な勧誘は2年間続き、Aさんは約500人を勧誘したという。しかし、赤字が続いたことからAさんは今年4月、会員をやめることを決断した。
(Aさん)
「アムウェイから入る収入って(月額)1000円ぽっきりとか、高くても(月額)5000円とか。自分ってなにやっているんだろみたいな、ばかじゃないのか、お金も無駄にしているしみたいな。(アムウェイの)ビジネスを思い切ってやめようと思いました」
今、冷静になって考えると、当時の勧誘行為は法に抵触していたという。
(Aさん)
「(だました女性に)まず一言目には申し訳なかったと言いたいです。今振り返って思うのは、言いたくないような黒歴史をつくってしまったな、というのが正直な本音です」
B氏を直撃するも『指示やマニュアル作成はしていない』
マッチングアプリで目的を告げずに勧誘を行うのは違法ではないのか。取材班はAさんに勧誘を指示したとされるB氏を直撃した。
(記者)「アムウェイの活動されていますよね?」
(B氏)「僕ですか?はい」
(記者)「マッチングアプリは指示をしていただけですか?」
(B氏)「していないですね」
(記者)「テンプレート(マニュアル)つくってましたよね?」
(B氏)「いや、それもしていないです」
(記者)「実際にLINEとかで『このように送れ』と言っていたと聞いているんですけど?」
(B氏)「あの、ちょっと困るんですけど」
(記者)「違法性は全く認識していなかったと?」
(B氏)「はい」
B氏は、アムウェイの会員であることは認めたものの、マッチングアプリを使った違法な勧誘については否定した。
一方、「日本アムウェイ」はMBSの取材に対して「違法な勧誘行為をした人物が特定できない」とした上で、「不適切な行動が確認された場合には適切に措置対応を実施する」とコメントした。アムウェイを巡っては10月13日、マッチングアプリを通じて知り合った女性に対して社名や目的を事前に告げずに違法な勧誘行為を行ったとして、消費者庁が6か月間の取引停止を命じている。
現役会員『チームの圧力ある』『詰められて違法勧誘をする人が多い』
法に抵触してまでなぜ勧誘活動を行うのか。神奈川県に住むアムウェイの現役会員(25)は「厳しいノルマが背景にある」と指摘する。
(アムウェイ現役会員)
「チームの圧力というものがあると思いますね。自分を紹介してくれた人が自分の上司みたいな感じで、『今月何人紹介するの?』と聞かれて、『10人って言ったね?じゃあ絶対頑張ろうね?』『できてる?残り15日だけど?』という、結構詰められて(違法な勧誘を)される方が多いんじゃないかなと思いますね」
この男性が2年間の勧誘活動で得た収入はわずか5000円。だが今後もアムウェイの会員を続ける考えだ。
(アムウェイ現役会員)
「今は会社を辞めて転職活動中なので、(アムウェイは)あくまでも副業。数年後には自分の頑張りによっては不労収入(働かずに得る収入)が得られるということもあるので、結論としては続けていくと思いますね」
「お金持ちになりたい」。そんな夢を持ち、勧誘に精を出す若者たち。だが夢を叶えるために人をだますことは決して許されない。