「スマホ1台で簡単にもうかる副業がある」とうたいマッチングアプリやSNSで不正にマルチ商法の勧誘した疑いで9月20日に15人が逮捕された。容疑者らは1年間で62億円を集めたとみられている。大阪府警には多くの相談が寄せられていたが、その80%が若者からだった。若者を狙った悪質マルチ副業商法の容疑者に迫った。

不正なマルチ商法勧誘の疑いで15人逮捕

 9月20日、特定商取引法違反の疑いで逮捕された伐渡アーマッド裕樹容疑者(35)ら15人。
3.jpg
 警察によると、去年6月~去年10月に20代の男女4人に対して必要な契約書を交付せずに不正にマルチ商法の勧誘をした疑いなどがもたれている。「スマホ1台で簡単にもうかる副業がある」「オンラインカジノを宣伝し会員を獲得すれば高額の報酬がもらえる」などとうたい、「ERA」と呼ばれるサイトへの登録料として参加者に約70万円を支払わせていたという。
4.jpg
 しかしSNS上では“説明通りに報酬を得られなかった”と被害を訴える投稿が相次いでいた。

 【SNSの投稿より】
 『ERAに騙された者です。あいつら絶対に許さない!!』
 『ほんま金返して欲しい。母子家庭でお金に余裕が無いのに』

マッチングアプリで知り合った男とカフェに…「副業で一緒に稼がないか」

 今年8月、取材班はそのうちの1人と接触することができた。東京都に住む保育士の山本里奈さん(仮名・20代)。

 (山本さん)
 「やらない人はおかしいよねくらいの勢いで言っていて、もうみんな払うしかないという雰囲気ではあったんですけど。なんかちょっと洗脳っぽかったです」
7.jpg
 山本さんは今年5月にマッチングアプリを通じてDと名乗る20代の男と知り会いラインを交換した。

 (山本さん)
 「最初は雑談をしていて、仕事に関係ない話をしていたんですけど、だんだん仕事の愚痴を聞かれたりして。その仕事って給料低いよねとか、カフェでちょっとお茶でもしようよみたいな感じだったので、実際に会いましたね」

 カフェに現れたD氏は、山本さんに「副業で一緒に稼がないか」と提案してきたという。

 (山本さん)
 「スマホで簡単にコピペだけでできるというふうに誘われて。すきま時間で10万円とか20万円とかは簡単に稼げると言っていて。本気で頑張れば100万円とかもいけるよというふうに」

セミナー会場では「挟まれていて逃げられない状態」

 D氏は「ちょうど近くでセミナーが行われている」と山本さんをカフェから連れ出した。向かった先は古びたアパートの一室だった。

 (山本さん)
 「これですね。この階段から上がっていって、上がセミナー会場でした。(Q来た時には逃げられなかった?)逃げられなかったです。入って入ってみたいな」
9.jpg
 部屋の中には大きなホワイトボードが1台。着くや否や派手なスーツに身を包んだ男が現れ、「カジノゲームを広めることで報酬が得られる」などと説明を始めたという。
10.jpg
 そして1時間に及ぶ説明が終わると、山本さんはD氏と別の男に囲まれたという。
11.jpg
 (山本さん)
 「もう挟まれていて逃げられない状態だったんです。ちょっとトイレに行きたいとか1回コンビニ寄ってもいいですかとか言ったんですけど、携帯電話をここに置いていってねとか。1人で調べる時間を作らせてもらえなかった」

計75万円の借り入れを強要され登録料を支払う

 こうしたやりとりは3時間以上続き、山本さんは強引に消費者金融へと連れて行かれたという。2社から計75万円を借り入れるよう強要され、あれよあれよという間に登録料を支払ってしまった。

 (山本さん)
 「もう本当に一直線に消費者金融に向かって行ったので周りを見ている余裕がなかったですね。その時はやっぱり逃げられなかったけど、払うべき金額じゃなかったと思います」

 結局、説明通りの報酬は得られず、山本さんは今も残った借金を返済し続けている。

主導していたとみられる男「月収100万円なんて一瞬。絶対に波に乗るべき」

 こうした悪徳なセミナーを主導していたとみられるのが今回逮捕された伐渡容疑者だ。取材班が独自に入手したセミナーの動画には饒舌に語りかける伐渡容疑者の姿が映し出されていた。

 (伐渡アーマッド裕樹容疑者 オンラインセミナーの動画より)
 「めちゃくちゃ貧乏だったんですよ。めちゃくちゃ貧乏で何やってもお金がないから我慢しなさいみたいな生活でした。それを変えたかったんですよ。子どものころの夢は何かっていうとお金持ちになること。ERAの仕事は夢を叶えるためにするわけなんですよ」

 自らが関わるERAに参加すれば必ずもうかるという。

 (伐渡アーマッド裕樹容疑者 オンラインセミナーの動画より)
 「みなさん月収100万円なんて一瞬ですよ。その瞬間、一瞬で月収100万円なんですよ。これわかります?人生変わる人めちゃくちゃこの1か月で出てますからね。であればみなさんは絶対に波に乗るべきだと思いますよ」

 そして1時間の動画はこう締めくくられた。

 (伐渡アーマッド裕樹容疑者 オンラインセミナーの動画より)
 「僕インスタグラムをやっていますので良かったらフォローしてください」
16.jpg
 そのインスタグラムのアカウントには、高級時計に高級ブランド品の数々が投稿されていて、派手な生活ぶりがうかがえる。

元メンバーが語る実態『試乗車に乗ったときに撮影』『マネキンの服を撮影』

 匿名を条件に取材に応じた組織の元メンバーは、きらびやかな日常を積極的に発信することで若者たちを惹きつける狙いがあった、と振り返る。だがその実態はあまりに空虚なものだった。

 (元メンバーの男性)
 「高級ブランドの店舗に行って写真を撮ったりとか。高級カーディーラーに行って試乗車に乗った時に写真を撮るとか。(Q実際には購入していない?)袖を通す程度で写真を撮ったり、あとマネキン人形に着せてある服の写真を撮ったりとか。(Q買っていないものをSNSに載せることに抵抗はなかった?)信じきってしまっているから全然抵抗もなかった」
23.jpg
 元メンバーによれば、組織は参加者を増やせば紹介料が入るマルチ商法の仕組みになっていて、伐渡容疑者らごく一部の幹部が集めた金を独占していたという。

容疑者に電話で追及するも「そういったことは答えたくない」

 取材班は伐渡容疑者の自宅マンションを割り出し、1か月以上にわたって張り込みを続けた。しかし伐渡容疑者は一向に姿を見せない。
20.jpg
 そこで親族の家を訪ね、記者の連絡先を伐渡容疑者に伝えるよう依頼した。
21.jpg
 すると3日後、本人だと名乗る人物から非通知で着信があった。

 【電話でのやりとり】
    (記者)「ERAでセミナーをされていますか?」
 (伐渡容疑者)「はい、していました」
    (記者)「今もされていますか?」
 (伐渡容疑者)「今はしていないですね」
    (記者)「被害者の方に話を聞いたんですけれども、約75万円を消費者金融で借りて払わされたということだったんですね」
 (伐渡容疑者)「そういったことは答えたくないんですけど。どなたかわからない方に答える必要性もないと思いますんで、切らせていただきます」
    (記者)「悪質じゃないですか?」
 (伐渡容疑者)「(電話が切れる)」

 伐渡容疑者は取材に応じようとはしなかった。
22.jpg
 言葉巧みに若者を取り込む違法なマルチ商法。警察は伐渡容疑者らが1年間で62億円を集めたとみて組織の実態解明を進める方針だ。