大阪の“夜の街”に現れる多くの客引き。店のジャンルは多種多様だが、警察が取り締まることができる業態とできない業態がある。例えばガールズバーは、悪質な客引きに対する苦情が多いということだが、「条例の対象に入っていない」ため警察の取り締まりができない状況だった。しかし、規制が強化されることになり、ガールズバーやメイドバーなど多くの業態が新たに取り締まりの対象となった。まん延防止等重点措置が終わり、にぎわいが徐々に戻ってきた夜の街の実態を取材した。
大阪府警が規制強化を発表…ガールズバーなどの客引きを全面禁止へ
4月21日、大阪府警は「客引き」の規制強化を発表した。迷惑防止条例の改正だ。
これまではキャバクラやラウンジなどが対象だったが、7月からガールズバーやメイドバーなどにも拡大し、客引きは全面禁止。夜間はメンズエステや韓国エステも客引き禁止となる。
コンセプトカフェ、ガールズバー…夜のミナミに立つ客引き
今、夜の街で何が起きているのか。4月中旬、取材班は夜の大阪・ミナミを訪れた。
(記者リポート)
「大阪・ミナミの宗右衛門町です。あちらに道頓堀交番があるのですが、その数十m先にはずらっと10人以上、客引きが立ち並んでいます。時刻は午後9時45分を回ったところです。異様な光景です」
そんな中、商店街などを歩く赤い服をまとった大阪市の指導員が目を光らせているのは、違法な客引き行為だ。青いセーラー服に身を包んだ若い女性2人に指導員が話しかける。
(指導員)「お店はどこにあるの?」
(客引き)「お店ですか?うふふ…」
(指導員)「宗右衛門町?さっきも僕ら何回か注意したよね」
(客引き)「していないです。声かけられたん初めてです」
2人は「コンセプトカフェ」の客引きのようだ。
別の客引きに記者が話を聞いた。
(記者)「コンセプトカフェが流行っている?」
(客引き)「今めっちゃ多いです」
(記者)「風俗とも違う?」
(客引き)「全然違います。キャバクラとも違うし」
(記者)「基本的には女の子がお酒を出す?」
(客引き)「はい。お話ししてとか、チェキ撮ったりとか。メイドカフェと一緒ですね、たぶん。で、お酒が出せる」
コロナで激減した客は徐々にミナミに戻り始めている。同時に増えてきたのが客引きだ。
(記者リポート)
「けっこういますね、10人以上でしょうか」
「ノーマスク姿で大きな声で笑い声を上げながら楽しそうに立っています」
ガールズバーだけではない。多種多様なジャンルの店が客引きをする。街を行き交う人に客引きについて聞いた。
(飲食店帰りの人)
「以前よりひどいなと思いましたね。もっと楽しく来られるように周りをちょっと取り締まってほしいなと」
(仕事帰りの人)
「まさに今も声かけられました。最近、規制というか取り締まりの放送みたいなのも結構あるのでマシなのかなとも思うんですけど、少なくはないですよね」
ミナミで長く飲食店を経営する男性は次のように話す。
(飲食店を経営する男性)
「(客引きは)ガールズバーが今一番多いんじゃないかなと思いますね。昔はなかったですけど、マッチングカフェみたいな、同伴カフェみたいなんとか、ホストのキャッチもありますし、風俗営業法とかいろんな網の目をくぐっていく。ガールズバーといったら風俗営業ではなしに飲食店営業で許可を取れたり、そういういろんなことを考えながら動いているんだと思いますね」
「飲み屋どうですか?」京橋駅近くにもずらりと並ぶ客引き
別の日、取材班は大阪環状線の京橋駅に向かった。駅近くにはガールズバーやマッサージなど、こちらにも様々な業態の店の客引きがいた。
(記者リポート)
「午後9時半です。JR京橋駅の近くでは、客引き10人ほどがずらっと並んで通行人に声をかけています」
男性記者が商店街を歩くと…。
(客引き)「飲み屋どうですか?」
(記者)「何系ですか?」
(客引き)「ガールズバーです」
(記者)「1時間いくらですか?」
(客引き)「3500円のタックス20%」
(記者)「お姉さんの分も払う?」
(客引き)「私の分は1500円からです」
明らかな客引きだ。地元からはこんな声が聞かれた。
(近くの飲食店の店主)
「キャッチ(客引き)ですか、すごいですね。ほとんどガールズバーやと思いますね。『飲み屋どうですか?』っていう感じですね。お客さんも『そこ通るのいやや』っていうくらいうっとうしいと。ひどすぎて商店街を通るのいやっていう感じですね」
(近くに住む人)
「向こうの通りとかさ、キャバクラとぼったくりと風俗多いからなくしてほしいな」
警察「条例改正でより実効性のある捜査が期待できる」
同じように見える客引きだが、警察が取り締まりできるものとできないものがある。風営法に基づく接待を伴う店、キャバクラなどは現行の条例で客引きは禁止。取り締まりはできる。しかし、ガールズバーなどは風営法の「接待」ではなく飲食店の女性店員が「接客」するという扱いだ。
大阪府警は「対象外の店の悪質な客引きが増えて現行の条例が実態にそぐわなくなった」などとして、酒を提供する飲食店でありながら“異性の好奇心をそそる接客を行う店”や、夜に“エステとうたって性的サービスを提供する店”の客引きを7月から全面禁止にすると発表した。警察は条例改正について「実態に即していてより実効性のある捜査が期待できる」としている。
過去には“ロボットで客引き”も…あの手この手で客引きする人たち
「客引き」対「警察」、その歴史は長い。1981年の映像には、今はほとんど影を潜めた「風俗店の客引き」に警察が目を光らせている様子が映っている。
2007年には、人間の客引きは条例違反ならばと「交通整理用のロボット」を改造した“客引きロボット”が現れた。
そして2011年の映像には、行く手を阻むマシンガントークの客引きの様子も。
(客引き 2011年)
「生ビール280円、和食・お魚・お座敷・3名様・時間制限なしで。ちょうど今タイムサービスで380円の生ビールも100円の値引きさせてもらって、何杯飲んでも1杯目だけじゃなくずっと生中280円で。酎ハイ梅酒も定価280円で焼酎の方も380円という感じで…」
規制をかいくぐりあの手この手で客引きする人たち。今回取材する中、「新たな規制の網を逃れられる」と危惧されるケースが早くも見つかった。
「たこ焼きバー」名乗る客引き 記者が店に入ると…
京橋で記者が声をかけられたのは、「たこ焼きバー」を名乗る客引きだった。
(客引き)「たこ焼きバー。行こう」
(記者)「店はどのへん?」
(客引き)「歩いて3分くらい」
(記者)「ガールズバーではない?」
(客引き)「ダイニングバーです」
記者が店を訪れると、店内には女性2人がいた。カウンター越しに接客され、記者はビールを2杯飲む。女性店員にせがまれてドリンク4杯分も支払うと、計9000円になった。これは、よくある「ガールズバー」ではないのか。さらに「ダイニング」を名乗りながら、出たのはたこ焼きのみだ。
「たこ焼きバー」を名乗る客引きが記者に声をかけてきたとき、次のようなやりとりもあった。
(記者)「ガールズバーみたいな感じですか?」
(客引き)「そうですそうです。そうですって言っちゃった、ははは。一応ダイニングバーでやっています。お話ししましょう」
新たな規制でも居酒屋などの飲食店は対象外になる。捜査関係者は、摘発を逃れるためにあえて名称を変える可能性もあるとして、実態把握を急ぐ考えだ。