自民党京都府連での「マネーロンダリング疑惑」。公職選挙法では、当選を得る目的で現金や物品などを渡したりすると買収罪で処罰される。今回の問題は、選挙直前に地元の市議会議員らに一律50万円が渡されていた。注目すべき点は「これが違法な買収にあたるのか?」である。取材班は、関係者らを独自取材し“マネーロンダリング”と言われる疑惑の実態に迫った。
自民党京都府連の内部資料から見える疑惑
取材班が入手した自民党京都府連の内部資料。表紙のタイトルは「事務局長事務引継書」。2014年に作成されたとみられる。
自民党京都府連の当時の事務局長が交代するにあたり、後任に宛てた“引き継ぎ書”。そこには、こんな記載があった。
(自民党京都府連の内部資料に書かれた内容)
「この世界、どうして『お金!』『お金!』なのか分かりませんが、選挙の都度、応援、支援してくれる府議会議員、京都市会議員には、活動費として交付するシステムとなっているのです」
「活動費は、議員1人につき50万円です。候補者が京都府連に寄附し、それを原資として府連が各議員に交付するのです。候補者がダイレクトに議員に交付すれば、公職選挙法上は買収ということになりますので、京都府連から交付することとし、いわばマネーロンダリングをするのです」
マネーロンダリングとは、犯罪によって得た収益の出所が分からないように工作し、正当な手段で得たかのように資金を洗浄することだ。
引き継ぎ書によると、参院選や衆院選のたびに候補者が金を京都府連に寄付しその後、京都府連が地元の市会議員などに1人あたり50万円を支出していたという。
公職選挙法では、候補者が地元の議員に直接現金などを渡して選挙運動を持ちかければ「買収罪」に問われる可能性がある。自民党京都府連では、候補者が“寄付”という形で一旦、府連に金を預け、府連から“活動費”として地元議員に交付することで摘発を免れようとしていた疑惑がもたれている。
元職員『マネーロンダリングはあった』と証言
選挙買収を隠ぺいするためのマネーロンダリングだったのか?かつて府連に勤めていた男性が2月、取材に応じて実情を語った。
(自民党京都府連 元職員)
「4階の会議室。選対会議をやる慣例ですね、あそこが。(地元議員らに)50万円を渡すときには、幹事長が『3階で受け取って下さい』と。会議の中で『原資は候補者からです』と紹介があって、部屋に入って現金が入った封筒を受け取って、内ポケットに入れてみんな出ていくという形です」
「(Qマネーロンダリングは実際にあったんですか?)それはもちろん。収支報告書に書いていますし。それは認めざるを得ない。認めなかったらそれは虚偽になりますよね」
自民党京都府連の元職員は、取材に対して“マネーロンダリングはあった”と証言した。
収支報告書を確認すると…
取材班が入手した自民党京都府連の2017年の政治資金収支報告書がある。この年には衆議院選挙が行われた。当時の安倍晋三首相が衆議院を解散したのは9月28日だった。
解散した日の前後の収支報告書を確認すると、収入欄には6つの選挙区支部などから計2450万円が京都府連側に支払われている。
一方で、支出を確認すると、支出欄には50万円という数字が並んでいる。支払われた日は9月30日。解散の2日後に地元議員の後援会などに50万円ずつ交付されていた。その総額は2450万円。候補者が支部長を務める選挙区支部などから支払われた金額と一致する。
京都府連の元職員は、このスキームを作り上げたのはある議員だと指摘する。
(自民党京都府連 元職員)
「今の会長の西田昌司議員が新人の時(2007年)に、事務局長に当時の秘書が相談に来たことから始まった。『ポスターを貼る準備をしてるんですけど府・市会議員さんにも協力いただきたいので、府連を通してもらえませんか』と。(Qその場面を見ていた?)もちろん、今でも覚えています。なし崩し的にほかの選挙まで同じやり方になってしまった」
元職員によると、現在の京都府連の会長・西田昌司参議院議員が初当選した2007年の参院選以降、こうしたスキームが常態化したと話した。
元自民・京都府連の現役議員「選挙資金渡さないと動いてくれないと聞いた」
取材班はさらに実態をよく知る人物らに接触。かつて自民党京都府連に所属していた現役の議員はこう証言する。
(自民党京都府連に所属していた現役議員)
「『市会議員、府会議員はなかなか選挙資金を渡さないと動いてくれへん』というふうに(国会議員から)聞いています。(Qなぜお金を積まれないと動かない?)電話作戦、はがき、名簿を出す(自身の支援者に依頼する)のは非常に市会議員、府会議員にとっては命より大事やと思ってますので、それを出すのだから見返りは当然だと考えてたのかなと。それで動かなかったのかなと」
府連から金を受け取った元京都府議『買収ではなかった』
さらに、2017年の衆院選直前に府連から金を受け取っていた別の元京都府議は…。
(金を受け取った元京都府議)
「(Q50万円というのは主にどう使った?)まず選挙の費用ですよね、国政選挙。(候補者の)事務所をちゃんと借りたりチラシを配ったりとか、いろんなチラシを作ったりとかね。それから当然電話は1日100本ぐらいかけますし。『〇〇候補者よろしくお願いします』と」
受け取った金は候補者の選挙費用に使ったと証言した。しかし、50万円の出所は知らなかったという。
(金を受け取った元京都府議)
「あんな50万円くらいで買収されますか?(Qそんなのではなびかない?)全然なびかないですよね。広島の1億円ですか、あのくらいはよこせということですよね。買収するんでしたらね」
元京都府議は選挙費用には使ったものの“買収ではなかった”と主張した。
西田参院議員らを公職選挙法違反の疑いで刑事告発
今回発覚した問題を受けて、2月28日、京都の弁護士らが西田昌司参議院議員や去年の衆院選の候補者、府連から金を受け取ったとされる地方議員など計59人を公職選挙法違反(買収・被買収)の疑いで刑事告発した。
西田議員は疑惑を否定『買収の意図なく党勢拡大のため』
一方、西田議員は2月、自身のYouTubeチャンネルで疑惑を真っ向から否定している。
(自民党京都府連会長 西田昌司参院議員 2月13日YouTube配信より)
「そもそもその“内部文書”と言われるものを私自身見たことも聞いたこともありません。また京都府連に確認をいたしましたが存在は確認されませんでした」
(2月16日YouTube配信より)
「選挙が近づくと政党の党勢拡大の運動も大きくなるのは当然のことで、それに合わせて活動費を配下の団体に支給するのは正当に政党の活動として当然のことであります」
京都府連に渡した金は“選挙買収の意図はなく党勢拡大のための寄付”などと反論した。
そもそもなぜ、“引き継ぎ書”に生々しいマネーロンダリングの実態などが記載されたのか。執筆した元事務局長に直接真意を尋ねたが、「一切話せない」と取材には応じなかった。